23 文化局局長 1
馬車で食事をとっていたイケメン局員二人が食事を終えて近づいてくる。オッチャンも覚悟は出来とる。今日はとことん付き合うたるでー!
「発掘物は一旦お預かりして、およその状況は確認できました。ここは文化局が、状況保全させて頂きます。お二人は、私と一緒に……」
イケメンメガネが現場周辺にロープを張り出し、金髪イケメンは俺達二人を馬車に乗せて文化局に向かうと言う。二人は馬車に乗りこんだ。
ウルテマ国の中堅都市トルネコには文化局の出張所が存在する。文化局の局長ということは出張所の所長ではないはずだ。王都の文化局まで行って局長に会うのかと今ごろになって気がついた。
「あの、これから王都まで行くわけじゃないよね?」
王都まではいくら小国のウルテマといえども馬車を飛ばして半日はかかる距離である。
御者台に登った金髪イケメンは俺の声に振り向いてニヤリと笑った。俺の背中に冷や汗が流れる。今から王都なんかに行ったら帰ってくるのは明日だ。二日連続で無断欠勤などしたら首が飛ぶ心配が出てくる。さっきまでの余裕が一気に吹っ飛んだ。
「あのー、俺明日も仕事が……」
「安心してください。運が良いことに今局長は所用でこの街にいらしています。良かったですね」
ニッコリ笑う金髪イケメンを見てどっと力が抜ける。ああ良かった。まじあぶねー! まじラッキー! 局長の所用に乾杯やで!
力の抜けたオッチャンをメアリーアンが心配そうに見つめている。
確かに途中で帰ってたら、王都まで行くことになっとったんやなあ? イケメンメガネが言ってた通り、まじ面倒なことになるとこだったで。
俺は胸を撫で下ろしながらイケメンメガネに感謝した。さっきまで文句ブーブーでしたが私が悪うございました。
馬車は街中に入っていく。道路もレンガ敷に変わり始め、両側に家や店舗が並び出す。そしてレンガ造りの二階建ての立派な建物の敷地内に入り玄関前に止まる。
「なんか立派な建物やな? アンちゃんは、ここに来たことあるん?」
「はい。私は何度か来たことがあります。国家トレジャーハンターの資格も取ってますから」
「そ、そうなんだ。アンちゃんって、国家トレジャーハンターなのね?」
俺は国家トレジャーハンターという資格があることも知らなかったし、それがどういうものなのかも、ちっとも知らないが、話を合わせる。
「今日はタケオさん、国家トレジャーハンターに任命されると思いますよ」
「へ……?」
メアリーアンの言葉に驚く。どうしてそうなるかは全く分からない。
「昨日見つけたお宝が、歴史的文化的価値の高いもので、そういうお宝を見つけたトレジャーハンターは、国家トレジャーハンターに任命されて国家の保護や、便宜を図ってもらえる代わりに、調査の依頼をされたりするんですよ」
メアリーアンの説明で、自分が何か偉い者になれるのは分かった気がする。だが……調査を依頼されるって……強制労働じゃないよね?
「国家の保護ってお給金がもらえたりとか?」
「いえ、それはもらえません。見つけた文化的遺産のようなものを買い取ってもらえるとか……まあ、他所ではゴミ扱いの物を買ってもらえることもあるので良いですよ」
メアリーアンが顎に人差し指を当てて上目遣いで答える。
「調査の依頼って給料出ないの?」
「あ、それは出ます。固定給と成功報酬ですね。今日のように、発掘した周辺を調べる権利についてもお金が払われるんですよ。発掘権売買的な?」
話しているうちに二階の奥の部屋に案内されたふたりは、そこで待つ一人の女性の前で起立する。
大きな事務机の上には白い文字で局長と書かれた黒塗りの立て札が立っている。その机の向こうに座っているのはオッチャン好みの大人の女性や!
シルバーグレーの妖艶な瞳に真珠のように輝く白い髪、くびれた腰と肉感的な胸。この人が局長さん? 確かに整った顔立ちには知性的な雰囲気が宿っている。
「私は、局長のスカーレット・カハラだ。今回の発掘は非常に興味深い物だった。あれらは全て買い取らせてもらうとともに発掘権も売り渡してもらいたい」
「分かりました。お任せします」
メアリーアンが局長の要求を丸呑みする。まだ細かい条件の提示もされる前なのにだ。
「そうか、全部で二億ゴールドでいいか?」
「はい」
俺はあわてて確認する。
「二! 二億やてー! あの骨と……」
「安いか?」
俺の言葉を打ち消すように言葉を被せてくる局長にメアリーアンが即答する。
「いえ。十分な金額です」
「そ、そ、そんなにもらって良いの?」
あわてるオッチャン。
「ふふ、お前、面白い奴だな。気に入ったぞ」
スカーレットが笑いながら俺を見る。メアリーアンが少し不愉快そうな顔をした。
「ところで、お前! タケオだったか? 国家トレジャーハンターになる気はないか? これから、お前に出したい依頼がたくさんあるんだがね!」
シルバーグレーの妖艶な瞳が俺の目を見つめている。
「はい。なりたいし、依頼も気になりますね!」
オッチャンはその瞳に、その胸に、腰に魅了されていた。




