22 回復
「タケオさん! 今日はお仕事なのにこんなことになってすみません」
メアリーアンが申し訳なさそうに近づいてくる。金髪イケメンが後ろに控えている。
「まだまだ時間がかかるそうなのですが、お仕事のほう、大丈夫ですか?」
「あ、アンちゃん。もう仕事に行きたいねん! これでさいならしてもいいやろう?」
「すみません。これから文化局の局長さんと話をしにいかなくてはいけないんです」
済まなそうに顔色を曇らせるメアリーアンの言葉が想定外すぎて信じられない。オッチャン仕事に行けそうにないやん! 遅刻もやばいが、無断欠勤なんて超やばい。
「無理無理! オッチャン今から急いで現場行ってもそうとう叱られそうやねん。無断欠勤なんて罰金もんやで!」
実際俺の仕事なんて誰でもできるので、代えの人間などいくらでもいる。はっきり言ってクビになっても不思議はないのだ。さすがに平謝りに謝れば許してくれるだろうが……うーん。オッチャン弱い立場やねん。
「申し訳ありませんが、今日ご同行していただかないと、余計面倒なことになりますが」
金髪イケメンが、身を乗り出してコメントする。冷静で落ち着いた口調だが物凄い圧を感じる。オッチャンこういうエリートっぽい人苦手やねん。
俺は小さくなって「はあ……」と返事をする。
「これからのことを局長さんから話があるんですって」
メアリーアンも不安そうに表情を曇らせる。俺は、ここまでくれば遅刻も休みも変わらんか……と覚悟を決める。
グググーー!
昨夜から食べていない俺のお腹が文句を垂れる。俺は恥ずかしそうに顔を赤らめ頭を掻いた。
「タケオさん、お腹空いてるんですか?」
「実は、昨夜から食べてないねん……」
小さな声で言い訳をすると、メアリーアンが口に手を当てて驚く。
「ごめんなさい! 私、てっきり食べてるものと……今用意しますのでマジックバッグをこちらに」
俺はマジックバッグを手渡してこれでやっと飯にありつけると安堵した。マジックバッグに食えるものが入っているとは思ったが、高価なマジックバッグの中をまさぐるのは、ちょっと怖くてできなかったのだ。俺は穴を掘ること以外は不得意である。
メアリーアンがマジックバッグから一切れのポテサラサンドを取り出して俺に渡す。
「とりあえず、今はこれを食べてください」
「ありがとう」
すぐに食べられるものが出てきたのはありがたい。
グググー!
腹の虫がもう一度、今度はきっと、ありがとうと言ったに違いない。俺は渡されたサンドイッチにかぶりつく。
「少ししたらお昼にしますので、一旦これで我慢してくださいね」
はむ!
苦笑するメアリーアンに食べながら返事をした。もう今日は仕事を休むと決める。 ーーというか今から行っても半休にもならない。
イケメンメガネが、金髪イケメンと何かごにょごにょ話し合っている。そして馬車に戻っていった。弁当でも取りにいったのだろう。もうお日様も頭の上でギンギンにドヤ顔をしている。
メアリーアンがテーブルと椅子を取り出し、食器を並べている。俺と彼女の二人分だ。イケメン達は御者台に座って弁当を広げている。愛妻弁当かな?
メアリーアンがパテを焼き出している。皿にパンやレタスが用意されてるのでハンバーガーかなと思いながら肉とタレの焼ける匂いに食欲をそそられる。
パテはすぐ焼けて、レタスとトマトと一緒にパンに挟むとハンバーガーの出来上がりだ。そしてコップに氷と水を入れる。
「氷も魔法で出せるの!」
魔法のことはよく分からないが、便利だし、なんか結構凄いんじゃないかと思う。照れるようににこりと笑顔を見せながら、メアリーアンが答える。
「氷は水魔法みたいなものですから」
オッチャン、暑い日に氷水が出せるなんてとても羨ましい。サンドイッチを食べ終わっていた俺は早速ハンバーガーにかぶりついた。パテの厚みは一センチもある肉厚で、噛み締めると肉汁が口の中にじゅわりと広がった。タレの味と混ざり合ってなんとも濃厚な、それでいて奥深い味わいで幸せに満たされる。
「うーん! 最高だね、このハンバーガー」
「付け合わせが無くてすみません」
「イヤイヤ、これで十分だよ」
そう言いながら冷たい水をハンバーガーの入った口の中に流し込んだ。美味い。脂ぎった口の中が冷たい水でスッキリする。リセットされた口腔状態でまたハンバーガーにガブリと噛み付く。再び広がる至極の肉汁。
「幸せやね!」
腹がぺこぺこだったためにサンドイッチもハンバーガーも最高に美味しく感じる。
メアリーアンも俺の満足そうなホクホク顔が示しているものを理解して喜んでいる。
腹も膨れたことで、俺の気力も大きく回復する。気力のゲージがグググググっと伸びてフル充電された感じや。
「よっしゃー、局長でもなんでも会ったるでー!」
俺は完全回復してメアリーアンにやる気を見せるのだった。




