第20話 お宝を守って
「タケオさん。これ新発見ですよ!」
出土した王冠を確かめたメアリーアンが俺の顔を真剣な目で見上げる。
「どうすればいいのかな?」
オッチャン、こういう時どうしたら良いか全然見当もつかない。恥ずかしながら穴を掘ること以外は何も知らないのです。
「とりあえずは、現状を保存して文化局に連絡しましょう。すみません。タケオさんはここで待機して下さい。放っておくと盗まれかねません!」
「ハイ!」
強い口調のメアリーアンにオッチャンは背筋を伸ばして返事をする。
「私は急いで文化局に報告し、係の者を連れて来ます。それまで此処を守ってください!」
メアリーアンは俺にマジックバッグを預けるとプリンちゃんを連れて走り去った。
走り去るメアリーアンを見送りながら骸骨と二人きりになるのかと気落ちするオッチャンは、メアリーアンが消え去ると振り返って骸骨を見据える。
骸骨がケタケタと笑い出しそうな気がして不気味だ。
穴から出て地上で腰をおろし空を見上げてため息をつく。太陽はもう西に移動してもうすぐ空を赤く染めるに違いない。
早く帰って来てほしいと思うがメアリーアンは今去ったばかりだ。いくらなんでもそんなにすぐには戻れるはずがない。
(あれ! 報告して担当者を連れてくると言ってたが……どのくらい時間がかかるのだろう?)
俺はハッと気がついて焦り出す。日が暮れるまでに戻って来られるはずがないのでは! もしやここで明日まで待つのか。
マジックバッグを預けるていったのはテントを使うということか。
お役所なんてそんなに早く動くはずがない。明日来れたとすればそれは相当素早い対応だろう。俺は骸骨を睨んで覚悟を決める。そしてテントを張り出した。
テントを張り終わった頃、西の空は赤くそまっていた。ここで一晩こいつを守るのか? 骸骨がケタケタと笑ったような気がする。とりあえずインテリジェントソードを握って話しかけた。
「おい! なんか出たら頼むでー! ちゃんと握ってるからね」
ちょっと可愛らしくお願いする。オッチャンなのに。
「任せな! 俺も腹が減ってるからよ! 魔物が出てくれたらありがてーぜ!」
インテリジェントソードは、やる気十分だがオッチャンは逃げる気十分だ。魔物が出ないことを神に祈る。
こんな野っ原で骸骨と共に一夜を過ごすなんて想定外や。
だんだん日が沈み、辺りに闇が訪れる。暗いのが怖いからテントの前に焚き火で灯りを作る。小ちゃいキャンプファイアーみたいなもんや。
骸骨を守るって、徹夜で監視せにゃならんかね? 寝てる間に盗まれるとかないやろうが……絶対とは言えへん。
なんかプリンちゃんが大騒ぎせんかった割には高そうなお宝が出て来ちゃったし、あれって金の王冠にでっかい宝石が付いとるんよね。その他のも金やろうな? 高いやろ。盗まれたら責任取れんでー!
ぐだぐだ思い悩んでいるうちに時間はどんどん過ぎていく。
暗闇の中に何かが動いたような気がして何度もビクリとする。オッチャン、臆病者なんです。何もなくても怖いとそうなっちゃうのよ。
そんな状態で深夜を迎える。流石に眠気が抑えきれん。焚き火を消してテントに潜ろうかと考えたその時、闇の中に動くものがあるようなーーてゴブリンかい!
今度は気のせいではなかった。
光と闇の空間に映し出されるゴブリンの姿。
「たたた、頼んだで!」
俺はインテリジェントソードを振りかぶる。
いち、にい、さん……五匹も出てこんで良いのよ! ホント。
俺は五匹のゴブリンと戦う羽目になったらしい。あんなに危険を避けたつもりでも、運命というやつは変えられないのだろうか? これが俺の運命だったのだろうか?
もしかしてこいつのせいかとインテリジェントソードをチラ見する。こいつが魔物を呼び寄せてるとか?
「ゴブリン五匹か、俺を手離すなよ!」
「うん。分かった」
「離すなよ! 絶体離すなよ!」
一度言えば分かるというのに、なんだろうこのしつこい確認は? ……と思った途端にインテリジェントソードがグインと引っ張りオッチャンの体が前に飛ぶ。
絶対に離すなよとはこのことか! 必死に拳を握り込み振り落とされないように奥歯を食いしばる。
「あれーー!」
俺はインテリジェントソードに引っ張られてゴブリンの群れに突っ込んでいく。バランスを崩しながらもトットッと浮いた足で地面に着地を繰り返す。
ズバー!
「ええー!」
いきなり一匹のゴブリンの胸に突き刺さるインテリジェントソードが呟く。
「まっじー!」
やっぱ、ゴブリンて不味いんかーい! 不味くても全部やったってやー!
ゴブリンが泡となってきえていく。しっかり魔石を切っていたらしい。
俺はしっかりインテリジェントソードを握っている。
「放すなよ! 絶体放すなよ!」
インテリジェントソードはまたグングンと俺を引っ張り次のゴブリンに突き刺さる。
「ギャギャー!」
ゴブリンが悲鳴と共に泡になって消え始めた。結構練習した甲斐があったらしい。俺はインテリジェントソードを握っているだけだが、インテリジェントソードはこの前より自由に動き回っている。
こうなるとオッチャン調子づいちゃうよー!
「ヘイヘイヘイ! オッチャンやっちゃうよー!」
ゴブリンを睨んで威嚇すると、ゴブリンが後ずさったような気がした。
「おっとっとー!」
またインテリジェントソードに引っ張られてついていく俺。インテリジェントソードはゴブリンに一直線に飛んでいく。
「ギャギャー!」
ゴブリンの悲鳴が木霊する。
「ああ……まじー!」
インテリジェントソードは文句を言いながらゴブリンを食い続ける。残りは二匹だ。
その二匹のゴブリンは両手をあげてにげだした。
「ククク! この俺様! もうゴブリンなんて敵じゃないぜ!」
オッチャンは調子に乗って大言を吐いた。自分は何にもしてないのにね。
そして安心してインテリジェントソードを抱きながらテントの中で眠りについた。




