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第2話 プリンちゃん、マーキングする。

 俺は堀田岳男、トンネル掘って十五年、今日もトンネルを掘って一日を終える。……ああ疲れた。


 トンネル掘りって結構大変なんだよね。一生掘り続けて3〜5本のトンネルを完成できれば良いそうだ。それだけにトンネルが貫通した時の喜びは一入で、まだ一度しか経験したことはないのだが、あの時は感動ものだったなあ。

 ちみにクマタニ組はトンネルを掘らせたらこの国一番の有名企業でこの国最長のトンネルもクマタニ組が作ったものだ。今掘っているトンネルも完成すればこの国最長を更新して新しい最長のトンネルになるはずである。そういう仕事に関わっていると思うと穴を掘るのにも気合いがはいるというものである。


 明日は土曜日、やっとお休みだ。とっとと帰って早く寝るぞ。

 彼女いない歴三十年のこの俺、自慢じゃないが家に帰ってもすることはないのだ。ちょっと筋肉も張っているしな。


 クマタニ組の現場から直帰しようとする帰り道、目の前に現れたつぶらな瞳のモフモフちゃん。


「ワン!」


「ワーオ! キャワイ~!」


 足元に現れたのはプリンちゃんやないか、なんて可愛いのやろう。思わずしゃがんで抱き上げようとすると、先に他の手によって抱き上げられる。

 プリンちゃんが消えて、そこには細くて長い奇麗な足。見上げるとメアリーアンが口の端を吊り上げて苦笑いしている。プリンちゃんを俺に触られるのは、お気に召さないらしい。済まなそうに頭を掻きながらオッチャンは立ち上がった。……ごめん。


「プリンちゃんって、可愛いね」


 俺が照れ隠ししながら笑って誤魔化そうとすると……。


 機嫌を直したメアリーアンが軽く上半身を傾け挨拶してくる。


「タケオさんこんばんは、突然すみません、メアリーアンです」


 俺は、この前の金髪美少女と愛らしいモフモフワンコの突然の出現に驚きながら、プリンちゃんに目尻を下げ、不審感をつのらせる。どんな顔やねん。


「こんばんは、確か約束は明日だよね? どうかしたの?」


 俺の言葉で困ったように眉尻を下げ、メアリーアンが焦りを内包した声を響かせる。


「はい、大変なんです。プリンちゃんが……プリンちゃんが……」


「………?」


「プリンちゃんが大興奮して、マーキングまでしちゃったんです。これって凄いお宝が眠っているに違いないんです!」


「なるほど、プリンちゃんがオシッコしたから大変だと?」

 俺は呆れ顔で聞き返した。やっぱりこの子、かなりおかしいのでは?


「違います!! ただのオシッコじゃないんです~!!」

 不審顔の俺にメアリーアンが必死になって主張し続ける。何処がどう違うんでしょう?


「マーキングしたって言ったでしょう! マーキング!」

 理解してない俺にメアリーアンは苛立ちの色を滲ませて語気を強める。


 だがその必死さはオッチャンには伝わらない。


 だからそれオシッコじゃないの?

 俺はまだ疑わしそうにメアリーアンちゃんを見つめた。


「ただのオシッコなら毎日してるわよ! ぐるぐる回ってここ掘れワンワンしてからのマーキングなの!!」


「おお!!」

 俺はやっと理解した。


「じゃあ何か! 特別凄いお宝のありかを見つけたって言いたいのね?」


「だからそう言ってるじゃない!」


 メアリーアンは胸で両腕を組んで大きくふんすと頷いた。

 いくぶんご機嫌斜めだ、すみません。


 そういえば最初から凄いお宝がどうのって言ってた気がする。とはいえ……。


「で、だから……何?」

 まさかこれから宝探しに行くとか言わないよね? オッチャンこれから帰って寝るんだけど。


「だから~、これから~、宝を」

 メアリーアンが小さく身を縮めてオッチャンを窺うが、その言葉を遮るように。


「行きません! 約束は明日でしょ!」

 俺はピシャリと断った。


 いくらプリンちゃんが可愛くても、今日、俺はもう疲れてるの。何が悲しゅうて、日も暮れそうなこんな時間から宝探しにいかなあかんねん!


「お願いだから宝を掘り出してくださいよ~」

 メアリーアンは俺の服の袖を掴んで懇願する。さっきのぷんぷん顔は消え失せて、やや涙目のようにも見える。


 いかんて! そんなことでは誤魔化されんよー。


「明日で良いやろ! 宝は逃げへんて!」

 俺は不機嫌そうに断りの言葉を口にする。


「誰かに先に掘り出されたら大変なんですよ~」


 そんなん誰が掘るというのでしょうか! いえ、誰も掘りません。だいたいそこに本当に宝が埋まってるとは限らんやろ。多分埋まっとらんと思うし。


 メアリーアンは袖から手を離し、その手を腰に当てて胸を張ると、俺を睨んで言った。……また怒り出したで~。


「タケオさん、プリンちゃんがマーキングしたって事がどういうことか、まだ分かっていませんね!」


 まだわかってないと言われても、プリンちゃんに会ったのはつい昨日のことなんですけど。プリンちゃんがここ掘れワンワン言うた所、まだ一度も掘った事ないし、当然掘ってお宝が出てきた事もないわけです。ハイ。


「この前プリンちゃんがマーキングをしたところから何が出たか見せてあげる!」


 ほっぺを膨らませたメアリーアンが腰に下げていたバッグをズイと俺の前に突き出した。


 このバッグがなんやねな? かなり年季の入ったバッグや。メアリーアンちゃんみたいな可愛くてお洒落な女の子が持つにはちょっとそぐわないバッグやな……で?


 俺はバッグをジロジロ見た後でコレがなんなの? と言う目でメアリーアンを見る。


「これはマジックバッグよ!」


 へ? またまたご冗談を? あのマジックバッグですって?


 嘘でしょうという顔の俺を見てメアリーアンがバッグから何かを取り出した。


 ゴトッン!


 バッグからは『つるはし』が取り出されていた。左右に長く張り出した鋼鉄の先端を鋭く尖らせ、真ん中で木製の長い柄と直角に連結した穴掘り道具のつるはしだ。

 絶対にバッグより大きいつるはしが地面の上に立っている。

 どうやって取り出したのか?


 ……異空間収納だよね。……俺は目をこすって確認する。


 メアリーアンがこれでもかと、またバッグからシャベルを取り出す。


「えーーーー! 本物のマジックバッグ!!」

 マジックバッグと言ったら数億ゴールドはすると言われるお宝じゃあないですか?

 俺は驚いて腰をぬかした。


 プリンちゃんがつぶらな瞳でオッチャンを見つめながら、ペロリと自分の鼻を舐める。


「これクラスのお宝が埋まっているは間違いないのよ! 分かる!」


 メアリーアンの顔が俺の目の前にズイと押し出された。ドヤ顔だ。


 冷静だったら反射的にキスしてしまう所だが、今の俺にはそういう冷静さはなかった。どこが冷静やねん。


「ここ、これは、……これは大変だ!」


 マジか? マジか? 本当に数億ゴールドのお宝が眠っているのか? 目の前のマジックバッグはどう見ても本物。つまり見つけた実績があるということ。……プリンちゃんがマーキングしたところには、これ級のお宝が埋まってるだって! うそやろー!

 俺もことの重大性に初めて気がついたのだった。

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