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第18話 商業ギルド

 翌日、待ち合わせ場所を変更して商業ギルドの前にした。昨日見つけた宝箱の対処をどうするかを、メアリーアンが商業ギルドの知り合いに相談するというので、時短も兼ねてそこで落ち合うことにしたのだ。商業ギルドは日曜でも開いている。


 オッチャンがギルドの側で待っていると、まるでギルドを狙う盗賊団の下っ端が見張りでもしているように周囲から見られているようで、胸の奥がザワザワする。

 

 メアリーアンがプリンちゃんを抱いた向こうからやってくるのが見えて何故かホッとした。


「おはようございます。遅れてすみません」


「待ち合わせの時間はまだ来てへんやん。俺がはよう来ただけや。逆に気を使わせてすまんな」


 実際俺は早くから来て待っていた。朝インテリジェントソードを振り、メアリーアンを待たせないように早めに家を出たのだ。


 プリンちゃんがつぶらな瞳で俺を見る。可愛いのう!


「じゃあ、中に入ってみましょうか」


 メアリーアンが商業ギルドの中に誘う。オッチャン、商業ギルドの中には入ったことがないので、妙に緊張しています。


「あ、ああ。そうやな」


 メアリーアンの後ろについて扉を潜ると中は想像したより奥深い。商業ギルドというのは総じて大きなスペースを必要とする。窓口も多いし、手続き以外にも商品の搬入や一時保管のための倉庫的なスペースを必要とする。勿論、専門の倉庫は別の場所に存在する。正面の扉の他に裏口には物流のための荷馬車のための出入り口が存在し、一本裏の通りに面している。


 メアリーアンは慣れた足取りで一つのカウンター窓口に近づき視線を送ると職員が立ち上がり会釈をしてから誰かを呼びに走った。


 俺は驚いて少女を見つめる。

 なんや、お得意さんみたいやな……。


 奥から太った男が飛び出してきて頭を下げる。この男は商業ギルドのマスターだ。ちょっと豪華な制服で他より偉い人だとわかる。二人は商談用の個室に案内される。


「お嬢様、今日はどういったご用向きでしょう」


 おいおい、お嬢様やて? メアリーアンのことだよな。こいつどっかのお嬢様なんかい?


 お嬢様だと言われば、思い当たらないこともない。この歳でトレジャーハンターをしているなんて、どこかのお嬢様のお遊びである可能性が一番高いのだ。


「いつもお世話になっています。ショウニーさん。実はこの箱が開けられなくて、でも壊すには忍びないし……」


 メアリーアンはマジックバッグから昨日の宝箱を取り出して見せる。


「ほう。こちらですか? これは箱自体に価値が出そうな逸品ですね。多少費用はかかりますが開錠の専門家に依頼しましょうか? あるいは……開錠前で、中身不明の宝箱としてオークションにかけるかですね。ですが箱の値段で取引されると思ってください」


 神妙な顔で宝箱をチェクしながらショウニーが答える。


 やはり中身は見てみたい。ここまできて中身がわからないのでは、宝を手にしているかを確かめないのと同意である。多少の損得勘定に宝を追い求めるワクワク感が負けるとしたら、トレジャーハンターの名が廃るというものだ。


 俺の中身を知りたいという欲求は、損得勘定を超越している。単なる付き合いの俺でもそうなのだから、メアリーアンなんてもっとのはずや!


「開錠の手配をお願いします。それと箱を含め出てきた中身の査定も」


 やはりメアリーアンは開錠を選んだ。思った通りや。


「承りました」

 ショウニーがうやうやしく首を垂れた後宝箱を引き取る。


「今預かり証をお作りします。少しお待ちください」


 個室を出て行くショウニーを見送りメアリーアンに声をかける。

「アンちゃんって、お嬢様なの? 親は何?」


「親は、ビリー・ゲルマイヤーと言います」


 なんやて? ビリーゲルマイヤーって言ったら巨大商社マイヤー商会の創始者にしてSランク冒険者ーー誰もが知ってる伝説的有名人やないか!


「あ、でも兄弟はたくさんいますから、私は塵芥のようなものよ」


 この世界は一夫多妻制というか、金持ちや王族などはたくさん妻子を持っている。オッチャンのような才能も無い貧乏人には普通女は寄り付かん。イケメンでもないし。


「そりゃあ、年齢から言って上には十や二十は兄弟がおりそうやな」


「えっと……上に二十二人、下に二人の二十五人兄弟で……母親は十三人います」


「すげーな!」


「甥っ子姪っ子もたくさんいますよ……へへ」


 さすがはビリーゲルマイヤー一家だ。俺はやっぱり別世界の住人だったとメアリーアンへの認識を改めるのだった。


「お父様は放任主義なので、私は何をやっても何もいわれないし、お会いするのは年に数回程度ですから、他人のようなものですね」


 メアリーアンが自虐と自嘲を含んだ複雑な表情をする。


 あまり良い関係ではないようなので深掘りはよしたほうが良さそうだ。

 別に悪い関係というわけではないのだろうが、父親との関係は時間が少ない分どうしても希薄にはなりやすいのだろう。


 それでも庶民の俺からすれば多少は羨ましい。


「ふーん」

 俺は興味のなさそうな返事をする。悪いことを聞いてしまったようでばつが悪い。


 ショウニーが戻ってきて預かり証をもらい俺たちは商業ギルドを後にした。


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