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第17話  想定外

「いい天気やね~」

 歩きながら空を見上げて呟く。ポカポカとした日差しが気持ち良い。

 もう結構歩いてきたのでかなりの距離を歩いたはずや。万歩計でも持っていればもう五千歩くらいは歩いただろう。知らんけど。


 右に左に曲がったのでどこに向かってるのか見当もつかなかったが、なんだか向こうに森が見えてきた。


 あれって北の森ちゃうか? まさかねえーー北の森は回避したはずやんか? そんなはずないやん。


 俺は今までの道のりを振り返る。

 右折して、左折して、左折して、右折して…………右折し……て、あれれーもしかして北の森?


 俺に額に汗が流れる。プリンちゃんを見るとやっぱり尻尾をグルングルン回していた。


 プリンちゃーん! 違うよね~、北の森なんて目指してないよね~!


 オッチャンの願いとは裏腹にプリンちゃっは見えてきた森の方向に進んでいく。


 まじか~、ちょちょ……ちょと待ったれやー、もしやダンジョン目指してへんか?

 

 嫌な予感が脳裏を過ぎる。

 メアリーアンもご機嫌でプリンちゃんの横を歩いている。俺の背中はなまあたたかい汗でグッチョリと濡れていた。


「あ、あのー。そっちの森は危ないで。こちのほーが、良いんちゃう?」

 俺は堪らず声をかける。


 メアリーアンとプリンちゃんが一瞬振り返り、すぐにまた目の前の森を目指して進み出す。


「ちょちょ、ちょい待ってーな! あの森にはダンジョンがあるらしで! こないだゴブリン出たのもたぶんそのダンジョンから来た奴や!」


 俺は必死にメアリーアンとプリンちゃんを止める。


「え! でもそんな話は聞いていませんよ」

 不審そうにオッチャンの顔を見るメアリーアン。


「これは、秘密なんやが、ダチがそこに潜ってるんや。だから本当やで」


 俺は未発見のダンジョンのことを話してしまった。秘密厳守だったのに。


「危ないんやて! わしはダンジョンには近づかんよ。こっから先は、よういかん」


 静かに俺を見つめるメアリーアンが口を開く。

「そうですよね。戦いは専門外ですものね……冒険者じゃないですし」


 どうやらメアリーアンの説得に成功したようだ。彼女だってオッチャンが戦えるとは思っていないはず。危険なのは彼女も同じなのだ。


 メアリーアンは、プリンちゃん抱き上げるとその目を見つめて諭すように言った。

「あの森は、怖い魔物が出るんだって。だから別の場所で探してね」

 プリンちゃんは分かったように頷いた。言葉が分かるんかいな。

 

 メアリーアンがプリンちゃんを地面に戻すとプリンちゃんが辺りを見渡しクンクンと鼻を鳴らす。


 尻尾をグルングルンと回してからピクリと止まった。プルプルと身震いをして歩き始める。


「ちょちょ、ちょっと待ってーな!」


 なんとプリンちゃんはまた北の森に向かって歩き始めたのだ。


 プリンちゃんたら、言葉が分かるのかと思ったんやが、実は分かっていないんかい!


 メアリーアンが急いでプリンちゃんを抱きかかえる。

「プリンちゃん、御免ね! そこは危ないから行けないの。違うお宝を探してちょうだい」


 そして南に向かって、プリンちゃんを抱いたまま歩き始めた。森とは正反対の方向に歩けば、安全だ。


「タケオさん、すみません。危ないのは私も嫌なので大丈夫ですよ。この前のゴブリンみたいなのには、もう会いたくないですもの。あの森、危ないんですよね……」


 やはりメアリーアンもゴブリンの出る場所は避けたいはずで、北の森の回避には成功したようや。オッチャン胸を撫で下ろす。


「少し離れた場所で探し始めたらどうや? 馬車とか乗って」


「そうですね。本当はこの五日の間にこの辺りを回ってたので、いくつか目当てはあるんですよ。ここからだと南に三十分ほど歩いたところです。前にプリンちゃんが吠えたところが」


「じゃあ、そこに向かおう」

 俺は北の森のそばでなければどこでも良いと思っていた。


「ではついてきてください」


 俺はメアリーアンの後ろについて南に向かう。そして三十分後、目的地についた。そこは小高い丘になっていて、南に小さな平地林があるなんとなく寂しい場所だった。


「プリンちゃん、お願いね」

 メアリーアンが抱いていたプリンちゃんを地面の戻すとプリンちゃんが鼻をクンクンと鳴らし首を左右に振って辺りを調べ出す。そして尻尾を軽く振り出した。


 さっきとは尻尾の振り方がだいぶ違うなと思いながら追いかけるとしばらくしてぴたりと止まり一声吠える。

「ワン!」

 そして穴を掘り出した。


「ここなのね、プリンちゃん」


「分かったで! そこを掘るんやな!」


 俺はプリンちゃんをどかして掘り始める。道具はメアリーアンがマジックバッグから取り出したものだ。


 固い土にはピッケルを叩きつけ、柔らかい土はシャベルで掘り進む。二時間ほど掘り進めると、突然シャベルの先に固い手応えを感じる。


「!!」


 俺は三倍のスピードで掘り始め、土の中から宝箱のようなものを掘り出した。


「アンちゃん! あったでー。これ、結構期待が持てるかも!」


 おれは掘り出した宝箱をメアリーアンに手渡した。


 メアリーアンはその頑丈そうな宝箱をしげしげと見つめて困ったような顔をする。


「あの~、開けられないんですけど」


 宝箱には錠まいがついているので鍵を手に入れるか、開錠の技を持っている者に依頼するしかなさそうだ。壊して開けるのは俺やメアリーアンには無理というもの。それに宝箱自体が高そうに見えるし、インテリアにもなりそうだ。


 壊したら勿体無いな……。


「そのまま持って帰ろうや。開けるのは専門家に頼んだほうがいいんちゃう?」

 オッチャンは中身にはあまり興味が無かった。どうせガラクタが入っているに違いない。それに宝箱だけでもカッコイイなあと思っていたので満足だった。


 メアリーアンが素直に頷く。


 俺たちは、その日は宝箱を大事に抱えて帰路についた。

 

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