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第16話  オッチャンの危機回避作戦

 今日は朝から裏庭で、インテリジェントソードを握って素振りなんぞをしている。北の森の方に行くらしいから、ゴブリンとかに襲われることだってありうると、俺はびびっている。


 昨日は早くこの剣を手放したいなんて思っていたが、もしもの時はこの剣は頼りになる。


 おれ、なんでこんなことしとるんやろ。今更素振りしても意味ないんちゃう?

 ピッケルなら毎日のように振り下ろしているが剣を振るのとはちょと違う。ピッケルは地面に思いっきりぶつけるが、剣はぶつけないで止めるのだ。

 おまえ、なかなか筋がいいぞ!

 頭の中に声が響く。インテリジェントソードだった。

「褒めてもダメやで! うっそくさい! 売られたくないだけやろ」

 誰もいない裏庭で、一人大声を出す。

 そんなことはない。おまえの振りは力強いぞ。

 ピッケルを振り続けていたのが効いているのか? 褒められれば悪い気はしない。

 満更でもない俺は眉をハの字に下げる。だが危険なことはしたくない。

 

「なんとかメアリーアンを説得して、北の森には近づかんようにせにゃあな……」

 ダンジョンからゴブリンが漏れ出てくるかもだからな! 


「いざとなったら俺に任せな!」


 なんかインテリジェントソードが頼もしいことを言ってくれるんですけど。頼りになるわー、でも剣を持って戦うのは俺だよね?

 よく分からないがただの剣を持ってるより良いような気がするやん。


「売るなんて言ってすまんかったで! 危なくなったらよろしゅうたのんます」

 俺はインテリジェントソードに媚びを売る。


 昨日まで剣なんて危ないから売っちゃおうと考えていたが、よく考えたら身を守る武器はあった方が良いことに気がついた。


「いざとなったら俺を握ってゴブリンの方に切先を向けな! 俺が勝手に動いてやるぜ!」


 切先って何? オッチャン専門用語はよう分からん。


 尖ってるところ!


 なんとなく分かったで。


 ちょっとばかりやってみな! そしたら俺の動きに合わせて剣を動かすんだぜ。


「ほうほう! こうか?」

 俺は剣を正眼に構えると、剣に引っ張られるように剣を動かす。なんとなく手を離しても勝手に戦ってくれそうな気がする。


「手を離したら俺は落ちるからダメだぜ。もっと俺が成長すればかってに飛んで守ってやるがな。まだそこまで力が戻ってないんだ」


 どうやら、もう少しこいつに魔物を食わせれば、勝手に戦ってくれるらしい。良いこと聞いたで! そしたら俺は安全か? あと少しの辛抱や。


「手を添えて落ちないように握っていれば、俺がお前の力を借りて戦ってやるよ。もうちょっと練習してみよう」


 頭に響く言葉に従って俺は剣を構える。すると剣が動き出した。

 俺はへっぴり越しでも剣筋は鋭い。これならなんとかなりそうや。だが北の森には近づかんで……。なるたけ戦うのは避けたいからのう。


 俺はインテリジェントソードを腰に刺して待ち合わせの噴水公園に向かった。


 噴水公園はカップルの待ち合わせ場所だ。

 噴水の前でオッチャンが立っていると周りの視線がチクチクと突き刺さる。やっぱオッチャンは場違いなんでしょうか? こんな所で待ち合わせはもう嫌や! 今度から違う待ち合わせ場所で落ち合おう。


 いたたまれない時間に耐えているとメアリーアンがやって来る。


「タケオさん。お待たせしちゃってすみません」

 メアリーアンがペコリと頭を下げる。周囲の視線が美少女に集まり、視線の主は驚いている。そりゃこのオッチャンが待ってたのが親子ほど歳下の美少女なんやから当然や。


「それではこの前のポイントから北に向かって探しましょう」

「ワン!」

 メアリーアンの足元に可愛いワンコのつぶらな瞳が輝く。


「この前のところはもうよくないか? きっと出て来るのは銅貨と銀貨やで!」

 オッチャンは説得を開始。メアリーアンは遠い視線で考え込む。

「…………」

「ワン!」

 何か言いたげな声。

 足元のワンコを見つめてにっこり笑う。

「そうね、じゃあプリンちゃんにお任せしようかしら」


 やったで! これは説得成功や。

 オッチャンは思わず全身で喜びを表してもうた。顔は笑とるが、飛び跳ねてはおらへんで。


「それがええで! プリンちゃんの行くとこについて行こうや」

 北の森近辺でなければ安全やろ! 良かった良かった。


 プリンちゃんが尻尾をグルングルン振り回してながら、得意げに二人の前を歩き出した。あの尻尾を触りたい……と思いながらついていく。


 時々鼻をクンクン鳴らすプリンちゃんは、首を右左に振りながらどちらに行こうか決めている。可愛い……。


 眉を垂らしながら触りたい気持ちを抑えて緩む口元から涎が垂れそうになるのを吸い戻す。周囲の視線が変態を見るように引いているのが分かる。メアリーアンもオッチャンから少し距離を取り出した。ススっと前に出てプリンちゃんの横を歩き出す。後ろからついていく俺はこれじゃあ少女を狙う変質者や。


 俺はほっぺを叩いて緩む顔を修正した。気をつけねば捕まりそうやで。


 いい天気やで! プリンちゃんをもふもふできたら最高なんやけどなと思いながらピクニック気分で歩き続けた。

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