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第1話  出会い


 俺は堀田岳男、クマタニ組勤務三十歳、妻なし、財産なし、恋愛経験なし、のナイナイ尽くし。十五歳からトンネルを掘り続け、穴を掘ること十五年、掘ること以外は何もできない穴掘り男だ。今まで良いことなんて何も無かった俺の人生、今日も穴掘りを終えてとぼとぼと自宅に帰る。


「夕焼けが、とても綺麗やなあ…………」


 俺は思わず見上げた西の空に広がる朱と藍のグラデーションに見惚れて立ち止まる。


 …………? なんだか足元に温かいものを感じたその時のこと。


「私と一緒にお宝探し、しませんか?」


 高く澄んだ女性の声。


 仕事帰りの道端で、突然俺の前に現れた絶世の美少女は、ニッコリ笑って俺を見つめていた。


 歳の頃は16~7だろうか? 金髪ロングのサラサラヘアー、吸い込まれそうな紺碧の瞳にスラリと伸びる長い足、どう見ても俺に縁があるような人種とは思えない。


「はい?  なんですかー?」


 俺は意味もわからず聞き返す。何かの勘違いか人違いに違いない。


「失礼しました。わたしはメアリーアン十六歳、トレジャーハンターをしています。この子は相棒のプリンちゃん、可愛いでしょう?」


 彼女は足元に視線を向ける。


 俺はつられて視線の先を追った。そこには小さな可愛いワンコがいた。オシッコかけられてるがな! 俺は驚いて飛び退いた。


 憎めない笑顔で俺を見詰めるもふもふワンコ! マーキングは犬の性や。ええやろう、許したる。それほどかかっとらんようやしな。


「ワン!」


 そうかい、挨拶できるんかい! 可愛い! モフモフやん!


 白い毛玉のような生き物は俺を見るなり「ワン!」と可愛く挨拶してくれた。頭も良いらしい。


 なんやねん、そのつぶらな瞳は、俺は胸をズキューンと撃ち抜かれたで!


「めっちゃ可愛いやん! この子はどこの子~? 触って良い~?」


 俺は思わず腰をかがめ、モフモフワンコに手を伸ばす。


 だがその手は即座にピシャリと払われた。


「ダメです! プリンちゃんは私だけのものですから」


 叩かれた手をブラブラと振る俺。


 ピシャリと断られてしもうたで……あーん! まあ良いや。


 俺はプリンちゃんをモフモフするのを諦めて立ち上がり、目の前に現れた美少女の方に視線を向ける。


「俺になんのようでしょう? ……てか、どうして俺に声をかけたの?」


 俺は目の前の美少女に二つの疑問をぶつけた。


「えっと~、プリンちゃんが~、プリンちゃんがあなただって教えてくれたから」


 美少女がもじもじしながら訳の分からないことを言う。


 プリンちゃんが俺だと教えてくれた……? 全く意味がわからん。何が俺なんだ?


「プリンちゃんは『ここ掘れワンワン犬』なの、何処にお宝があるか教えてくれるのよ」


 ここ掘れワンワン犬? ……聞いたことのない単語が飛び出したな? この子頭おかしいのでは?


「プリンちゃんにトレジャーハンターのパートナーを教えてって聞いたら、あなたを見てワンワンて……教えてくれたのよ」


 ウフフと微笑むメアリーアンの破壊力は半端ねー。オッチャンがあと十若かっったら付き合って下さいと、握手を求めたことだろう。今はオッチャンの守備範囲外やけどな。



 メアリーアンの言うことを要約すると、このモフモフ犬のプリンちゃんが俺を指名したということらしい。プリンちゃん、俺を選ぶとは、なかなか人を見る目があるね。


「それで俺に君と一緒にトレジャーハンターをやってくれというわけなのね?」


 金髪美少女がニッコリ笑ってこくりと頷く。


 かわいーじゃねーか馬鹿野郎! こんな可愛い子にお願いされて断れる男はいるはずがない。

 俺はロリコンではないが、ちょっとだけならそれも良いかもと考える。


「おほん!」

 俺は一つ咳払いをしてから話し始める。


「俺は堀田岳男、クマタニ組勤務三十歳、妻なし、財産なし、恋愛経験なし、のナイナイ尽くし。十五歳からトンネルを掘り続け、穴を掘ること十五年、掘ること以外は何もできない穴掘り男だが、そんな俺でいいのか?」


 初めから正直に言っておいた方が良いだろう。後で騙されたとか言われても困るからな。

 ちなみに、クマタニ組は、トンネルを掘るのを生業とする老舗企業だ。そしてここはウルテマ国の中堅都市トルネコである。


 おれは、偉そうに胸を張る。どう考えても自慢できるものは何も持ち合わせていないこの俺だ。舐められないように態度ぐらい偉そうにしているしかなかろう。


 なんだなんだ、金髪美少女が俺を崇めるような瞳で見ているじゃないか?


「やっぱりプリンちゃんは凄いわ! トレジャーハンターは穴が掘れないとできないもの!」


 いや、それだけじゃあできないのでは?


 金髪美少女が俺の手を握ってじっと俺の目を見つめる。


 やめて、見つめないで、おっちゃん見つめられると顔が赤くなっちゃうよ。

 俺は紺碧の瞳から視線をずらし、顔を背ける。


「是非! 私と一緒にお宝を探しましょう!」


 この子、頭はアレかもだけど、見た目は超可愛いし休みの時くらいは付き合って宝探し……やっちゃうか?


 美少女の誘いはなかなか断れるものではない。俺の心がフラフラと寄っていく。


 いや! いかん。俺は大人だ! この子を保護するような年齢だぞ。美少女だからではなく、危なそうだったら助けてあげるために同行するならいいかもな。こういう子と一緒にいると若返りそうだしな。


「俺は勤め人だから休日だけなら宝探し、付き合ってやっても良いけどな、だけど俺、実は頭も凄く悪いんだぞ。謎解きみたいに頭をつかうのは、ほんと無理だからな!」


「大丈夫です。頭脳労働は私の担当です、タケオさんは肉体労働をだけを担当していただければ良いので。」


「ワン!」


 今少しディスられたような気がするけど? 気のせいか?


「そ、そうか、俺の休みは土日祝日だからな、それ以外は仕事があるから付き合えんぞ!」


 この子頭脳労働担当って、大丈夫なの? まあ良いや、こんな可愛い子と一緒にいられるだけでも超ラッキー。宝なんてどうでも良いし、見つかるわけもないけど、楽しく宝探し、適当に付き合ってやんよ。


「じゃあ今度の土日はお宝探し、お願いしますね!」

 ニッコリ笑うメアリーアンちゃん。

 おっちゃんもうメロメロです。


 かくして俺は金髪美少女メアリーアンちゃんと、休日トレジャーハンターを始めることになったのだった。




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