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作者: 波並 誠

同情とか悲哀とかそんなのはどうでも良くて、僕はただ君を知って、一緒に居て、最後は楽しかったねって笑い合う。そんな単純な未来を想像しては、白銀の大地に咲く向日葵を見てかき消す。


「やぁ少年」


冷えた夏空のしたで、真っ白な声がした。

向日葵を眺めていた僕はそのまま視線を右側へ向けた。


「なんですか」

「いやはや、たまたま通りかかっただけだよ」

「……」

「あー疑ってるなー」


彼女の鈴の音のような笑い声がする度に、耳に付けた三日月のイヤリングが、真夏の太陽によってまるで本物の月のように輝きを放つ。


「本当にたまたま通りかかっただけだって、それより少年はこんなところで何をしているのさ」

「……僕は、向日葵を見に」


目の前にある向日葵は、僕の遥か後方を眺めている。

君の好きだった、花。その中でもとりわけ向日葵を君は好んで眺めていた。花瓶の中にはいつも向日葵が三本挿してあった。


「ねぇ、少年。少し歩かないかい?」



雪をかき分けながら進む彼女の後を追う。向かっているところは大体の検討がついていた。


「少年は、この町が好きかい?」

「……いいえ」


この町はずっと僕が幼い時から何一つ変わらない。それはこの町の美しさであり、残酷さの象徴で建ち並ぶ家屋の数を数えては、あの日々が目蓋の裏に滲んでいく。


「あの、少しだけいいですか」

「ん、なんだい」


僕にはずっと分からないでいることがある。


「あなたはこれで良かったと、僕は間違っていなかったと思いますか」


今でも考える。僕は本当は同情や悲哀が欲しかったんじゃないのか、滲むような日々は本当にあったのか、分からなくなってその度にあの向日葵を見に来る。あの向日葵を見ると心が少しだけ軽くなるから。


「あはは、それは私が決める事じゃないと思うけどなぁ。でも、少なくとも少年は私に願ったんだ。それが間違いだったとして、その間違いを今更正すことは出来ないよ。一度選んだことは変えられないし、消すことも出来ない。そういう風に世界は出来てるから。だったら、間違いだったとしても正解だと思い続ける方が、楽じゃないかな」

「…それは逃げるってことですか」

「いいや、向き合ってるんだよ。向き合ってなお、間違いじゃないと思うんだ。その行為を私たち人間は『前を向く』と言っているんだと思う。きっと、間違っていないと落としどころを見つけて生きる。それが人間の生き方だよ――あっほら、着いたよ」


真っ白な大地に不釣り合いな赤い鉄塔がそこに堂々と聳え立っている。

彼女は慣れた手つきで入り口に巻かれたチェーンを取り除き、錆びた鉄柵の扉を開けた。

階段には雪が薄く積もっていて、気を抜いてしまえば滑ってしまいそうだった。

不揃いな足音が空へ向かい続く。階段から少し目線を左に向ければ、水平線の遥か高くに太陽が煌々と海を照らしていた。


「ここだけ見たら、夏だね」

「そうですね」

「一番上に着く前に見ちゃったね。まだ上る?」

「今日はここまでにしときます」


僕たちは手すりに体を預けて海を眺める。海は凪いでどこまでも続いて、向かい側の岬では、灯台が誰かの帰りを今も待っている。


「ねぇ、少年。今度は海へ行こうか」


彼女の長い白髪と頭にかけた淡いピンクのサングラスが海灯りに反射する。


「暇だったら」

「じゃあ、いつでも行けるね」


これは、物語のエピローグでプロローグ。エンドロールが流れ終わった物語のその先の物語。



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