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失踪村のうわさ

作者: カモミール

夏のホラー2024企画です。

失踪村


「なぁ、行こうぜ」


俺、佐藤琢磨(さとうたくま)の友人、長野晋明(ながのしんめい)はしつこく俺を誘ってくる。



「いやだよ。なんでそんなところに行かないといけないんだよ」


「なんでって。肝試しだよ。旅費も安く済むだろうし、最近お前元気なかったから丁度いいかなって思って」


「いや、おかしくね!?どこの世界に落ち込んでる友人に肝試し誘うやつがいるんだよ」


「まぁまぁ、例の村は昼間はのどかでいい所なんだよ。それに肝試しって言っても別名心霊スポット(笑)って言われてる村だぜ。都会の喧騒を忘れて気楽に自然を楽しむくらいの気持ちでいけばいいんだよ」


「…まぁ気分転換にはなるかもな。わかったよ。行こうか」


そうして、俺は長野と同行する事を決めた。

まぁ、善意で誘ってくれているのだろうし、断るのも申し訳ないからな。




◇◇


東京から車で3時間。


その村に正式な名前はない。


ただ、その村は一部のホラー愛好家から失踪村と呼ばれていた。

小さな山村、霧深い山間に位置するその村がそのように呼ばれている理由は、古くからある奇妙な噂が由来だった。


村人たちは夜になると決して外に出ない。それは「影の囁き」と呼ばれる不気味な現象が原因だった。


その噂によれば、夜になると村のどこからともなく、低く冷たいおぞましい声が聞こえてくるという。


地獄の底から湧き上がるようなその「声」の正体を見た者はいない。その「声」に耳を傾けた者は、次の日には忽然と姿を消してしまうからだ。


村人たちは恐れ、夜は家の中に閉じこもるようになった。




だが、そんな噂のある村はホラー愛好家の中で心霊スポットとなる。



村の周りにある山道は、ハイキングエリアとして整備されており、山奥の村とは思えない景色だった。


太陽の光が木々の合間を縫って降り注がれる。その強い光が木の葉の緑をより青々と魅せていた。


耳をすませば鳥のさえずりが聞こえ、肌に意識を向ければ風がなんとも心地よい。


あの事件もあって心が擦り切れていた俺にはいい癒しとなっていた。




「へ~、なかなかいいところだな」

俺がつぶやくと、長野も同意した。


「うん、前評判通りだな」



この村は、ホラー愛好家が来たことをビジネスチャンスと捉えて観光にも力を入れるようになっていた。


格安でいくつかの旅館を作り、昼間は、景色を楽しんでもらえるよう、観光客が歩きやすいよう山道を整備した。その他にもいくつかの観光スポットがある。

絶景とまではいかないが、肝心の夜まで時間を潰すには十分楽しめそうだった。



そうして、夜になった。

宿につくと、そこは古びており、部屋は狭くで旅館というより民泊に近かった。

だが、その古びた部屋の雰囲気が一層恐怖感を湧き立てる。


「うわ、雰囲気あるなぁ」

「夜の雰囲気を感じられるようにあえてそうしてるらしいぜ。ここから離れた場所の温泉チケット貰ってるから、後で行こうぜ」


俺たちは、暗い村の中を歩いていく。

会話はなかった。だが、唐突に長野が呟いた。


「愛佳も来られたらよかったのにな」


「おい、その話はするなよ」

「あ、悪い。つい」


今話題に出たのは、星野愛佳という俺と長野の幼馴染だ。


そして、俺の愛した人でもある。

だけど…


この前、交通事故で亡くなった。





俺が怒ったと思ったのか、長野はそれ以上話しかけてくることはなかった。



琢磨は宿に戻り、窓から外の景色を眺めていた。月明かりが霧を照らし出し、静寂が村を包んでいた。


「おやすみ。さっきは悪かったな」

「気にしてない。こっちこそあんな言い方して悪かった。おやすみ」


そして、長野は自分の部屋に戻っていった。



俺はベッドに横たわった。


それから、しばらくぼーっと天井を眺めていたが、特に何かが起こる様子はない。


やっぱり例の噂とやらはデマだったようだ。

そもそも、この村の別名は心霊スポット(笑)だ。


「影の囁き」の噂が本当か確かめに行ったホラー愛好家は今まで何人もいた。だが、特に何かが起こったということもなく、なんともなかったとSNSに投稿する者がほとんどだったのだ。


それが第二の村の名前、心霊スポット(笑)の由来だ。


だが、雰囲気がある村であることは間違いないし、一泊するには悪くない村なので、これまでも観光客が結構来て、噂も風化しなかったというところだろう。



そんなことを考えていたが、疲れから気づいたら眠りに落ちた。

眠りに落ちる瞬間、やっぱり何もないじゃん、とどこか安心したような気持でいた。




しかし、深夜に目を覚ました俺は、何かが違うと感じた。


部屋の中は静まり返っていたが、どこからか低く囁くような声が聞こえてきた。俺は耳を澄まし、その声を追った。確かに聞こえる。「こっちにきて。こっちにきて」冷たい声が俺の耳元で響いた。


なぜだろう。

おぞましい「声」のはずなのに、なぜだろう。

手招きするように、求めてくるその「声」に俺は抗うことはできなかった。


恐怖心を抑えながら、俺は声の出所を突き止めようと部屋を出た。

声の主を突き止めなければならない。


いざというときのために、俺は旅館のキッチンから包丁を持ち出した。


他に使えそうな武器が見当たらなかったのだ。


廊下は薄暗く、彼の足音だけが響いていた。

声は外から聞こえるようだった。彼は玄関の扉を開け、外に出た。霧が濃く立ち込め、月明かりすらもかすんでいた。


「誰だ!?」

俺は声を張り上げた。しかし、返事はなく、ただ冷たい囁きが続いた。


「こっちにおいで…」


恐る恐る声の方向へ歩く。足元は濡れており、足に草のまとわりつく感触が気持ち悪い。


声の方向へ向かうと村の外れにある古い神社にたどり着いた。


神社は長い間放置され、苔むした石段が伸びていた。


囁き声はますます強くなり、頭の中に響いてくる。


「こっちにおいで…」


俺は意を決して石段を登った。


神社の中は暗く、湿った空気が漂っていた。俺は携帯電話のライトを点け、奥へと進んだ。


そして、俺は見た。古い祭壇の前に立つ1人の女性。彼女は白い着物をまとい、長い黒髪が顔を覆っていた。彼女の口元が動き、囁き声がそこから発せられていることを悟った。


「こっちにおいで…」


俺は一歩後ずさりし、背後の出口を探した。

なぜ、俺はこんなところに来てしまったんだ。


目の前にいる女性はどう見てもこの世のものとは思えなかった。あれはきっと…。



後悔が一気に押し寄せてきた。


こんな結末は望んでいない。俺は…


必死に逃げようと走る。

しかし、何かが俺の足を引っ張った。振り返ると、影のような手が俺の足首をつかんでいた。


恐怖に凍りつき、必死に足を振りほどこうとしたが、力が抜けていくのを感じた。

「離せ!くそっ!離せよ!!」



女性の囁き声がますます大きくなり、俺の意識が薄れていく。


「こっちにおいで………」


「永遠に」


女性の青白い唇が裂けるように上がるのを見た。


笑っていたのだ。恨めしそうに、嬉しそうに。

その言葉を最後に、俺の視界は完全に暗転した。


悲鳴の音が遠くから聞こえてくる。


どこから聞こえる声かと思って思考を傾ける。


それは俺の悲鳴だった。

だが、まるで他人が放つかのように聞こえてくるそれは、どんどん遠くに離れていく。


「あい…か」


最後にそれだけ呟いて、プツンと俺の何かが切れた。













次の日の朝、村人たちは佐藤琢磨がいなくなったことに気づいた。彼の部屋には、彼の荷物がそのまま残されていたが、彼の姿はどこにもなかった。


村人たちは深いため息をつき、彼が「影の囁き」に連れて行かれたことを悟った。


「いつぶりかな。影の影の囁きが起こったのは」

「さぁ、30年ほど前じゃないか?」

「ああ、怖ろしや怖ろしや」





「まぁ、よかったんじゃないか」

最後、周囲の意見を締めくくるように村長が笑って言った。


「ああ、よかった」

「よかった」


それ以来、村の噂はさらに広がった。再び世間が「影の囁き」を恐れるようになった。


だが、その後しばらく「影の囁き」は起きることはなく、その噂は再び眉唾物として軽んじられるようになった。






◇◇


「やっぱり、そういうことなのかな」

1人東京への帰路へついた長野は呟いた。



とあるきっかけで長野は知っていた。

「影の囁き」とは、殺された怨念が自分を殺した相手を永久へと誘う儀式なのだと。


稀にしか起こえらない「影の囁き」の噂が、広まった時期は太平洋戦争終戦直後だった。

「影の囁き」が一番起こりやすかった時期だ。



長野はとある疑念を持っていた。

愛佳を殺したのは琢磨だったのではないかと。


あの日、琢磨の運転する車が崖から転落した。

奇跡的に琢磨は助かったが、愛佳は帰らぬ人となった。




だが真相はおそらく…




「バカやろう」

短く一言だけ呟き、長野は車を走らせた。










読んでくださりありがとうございます。


ブックマークや感想もらえると嬉しいです。


『かつて親友だった最弱モンスター4匹が最強の頂きまで上り詰めたので、同窓会をするようです。』

も連載中なので、よかったらそちらも見てみてください。

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