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第6話 遭遇と監視者たち(レイナside→???)

 昨日上げる予定だった分です。

 ◇◆◇の前後でレイナ視点→第三者視点に切り替わります。

あたしじゃないあたしに意識を乗っ取られて時間遡行魔法の詠唱をした瞬間。


 真っ逆さまに落ちていったあたしの身体は体感数百メートルは落とされたんじゃないかってところで、鈍い音を立てて全身でフローリングにダイブしてようやく止まってくれた。


 いっつぅ……。全身が痛い……。でも、あの高さから落ちてきて痛いで済んでいるのはやっぱりおかしいはずで、やっぱり何らかの魔法なんだろうな。


 ――いったい、あたしはどこにやってきちゃったんだろ……?


 そう思いながら周囲を見回した瞬間。目に飛び込んできた光量の多さにあたしは一瞬目を瞑っちゃう。それから目を慣らしながらゆっくりと目を開けると。


「なに、これ……」


 そこには見たことがないような明るい世界が広がっていた。


 魔王によって世界が滅ぼされる前、世界には昼と夜があった。それはもちろん知識としては知ってる。でも、太陽が死に絶えて永遠に朝がやってこなくなってから生まれたあたしは「昼」を知らない。


 そして、夜に囚われた終末世界で照明器具は殆ど残っておらず、こんな広い部屋全体を照らし出すシャンデリアのまばゆい光なんて初めて見た。


 そしてここは何らかのパーティー会場なのかな? パーティー会場の真ん中に座り込んだあたしのことを、これまた煌びやかなドレスや背広に包んだ人々が一斉に注目してる。


 終末世界ではありえないくらいの明るい部屋に、ずっと会いたかったはずのちゃんと生きている自分以外の人。そこには、御伽噺だとさえ思えた、あたしが夢見た「世界が滅びる前の世界」が広がっていた。テーブルの上には見たこともないような料理が広がってるし。でも。


 これまで八年間もぼっちをやってたプロのぼっちとでも言うべきあたしには、いきなりこんな人込みに放り出されたら人の多さで酔っちゃうみたい。ちょっと気分悪くなってきた……。滅びる前の世界にやってこれたのは嬉しいけど、ちょ、ちょっとたんま……。


 と、その時。


「あの、だ、大丈夫?」


 今にも吐きそうにしてるあたしに、一人の少女があたしのことを心配そうに眺めてくる。そんな彼女のドレスはジュースのいっぱい入ったプールでさっきまで遊んでたのかな? なかなか前衛的なデザインをしていた。


 ――未来からやってきたばっかりのあたしを心配してくれるなんて、心優しい人もいるものだね。


 そう思って心配してくれた女の子の顔を見た瞬間。あたしはあまりの衝撃に飛び上がりそうになっちゃった。だってそこにいたのはどこかあたしの面影がある、でも、あたしと対照的な美しい金色のロングヘアを持つ少女――ロケットの中の写真の少女が、そこにはいた。


 そして目の前の金髪少女は何を思ったのかあたしと目が合った途端、ごくり、と息を飲んだ音が聞こえてきた。そして。


「アノンちゃんが、もう一人いる?」


 訳の分からないことを口走る金髪少女。


 アノンちゃん? 誰それ。まあいいや。


 あたしは一度、金髪少女から視線を離して手元にあるロケットの写真に視線を落とし、確認する。うん、写真よりもちょっとだけ幼いけれど間違いない。この人はミモザが言ってた……。


「ママ、だよね。こんなに早く会えると思ってなかったけど……どうやらあたし、すっごくついてるみたいだね!」


 そう口にした瞬間、心に沸き上がってきた感情は憎しみなんかじゃなくて言葉にできない嬉しさだった。はじめて顔も知らなかったママに会えた。そのことが、嬉しくて嬉しくて仕方ない。そんなあたしの言葉にママは


「ママ? わたしが? お姉ちゃんじゃなくて?」


と首を傾げてくる。ま、まあいきなりママ呼ばわりされても困るよね。でも、あたしにとってママはママだし……あーもうっ! ややっこしい! 


「そう、あなたはあたしのママなの。だから」


 そう言ってあたしは立ち上がって、ママに向かって手を差し出す。


「一緒に来て。ママには、話したいことがいっぱいあるの」


 そして。あたしは人でごった返すパーティー会場からママのことを誘拐して、夜空へと飛び去った。



◇◆◇



 夜空に浮遊したままじゃれつきあう(?)レイナとリコッタを見上げながら、緑髪の女性の幽霊――ミモザは嬉しそうに目を細める。


 レイナが発動させた時間遡行魔法。その魔法が影響を及ぼした範囲は本人の無自覚に反して甚大だった。周囲の半径1キロメートル以内の空間にいた、この世に未練を残したまま漂った霊が丸ごと時間遡行に巻き込まれたのである。


 そしてそんなミモザもそんな幽霊の一人だった。


「嬉しそうだね、シスターミモザ」


 背後から話しかけられてミモザが振り返ると、そこにはミモザよりも二回りほど身長の低い少女が立っていた。羽織った白衣はぶかぶかで袖が余っている。そんな彼女は生前、ミモザにとっての同僚のようなものだった。


「久しぶりですね、ヒフミ。……って、私をシスターって呼ぶのはやめてくださいっていつも言ってるじゃないですか。私はもうとっくの昔にシスターであることを捨てたんですから」


 ちょっと機嫌が悪そうに眉を顰めるミモザに対してヒフミと呼ばれた少女は悪びれた調子もなく答える。


「ごめんごめん。それにしても――ミモザは本当にレイナ(あの娘)の幸せだけを祈って、彼女にこの世界を破滅から救うことを託さなかったんだ。ボク達の中で誰よりも世界を滅茶苦茶にしてしまったことを後悔して、ボクらが絶望と後悔の念に堪え切れず次々と命を絶っていく中でも『やり直す』手段を探し求めて生にしがみついてやっとのことで『最終兵器』に出会えた、君が。――まあ、物理的に命を絶ったところで、『あの御方』以外の全員が、今も幽霊としてこの世界に留まり続けちゃってるんだけど」


 その言葉に、ミモザは在りし日を見つめるように更に目を細める。


「――確かにレイナさまに会ったばかりの時の私はレイナさまのことを私達の犯してしまった過ちをただすための『道具』としか見ていませんでした。だから、あの御方に匹敵する能力(チカラ)を持った彼女に出会えたのは運命だ、って。でも」


 そこでミモザは一呼吸おく。


「レイナさまの成長を見守っていくうちに、レイナさまには『魔王』とか『救世主』とか関係のない、普通の女の子として生きてほしい、と思うようになったんです。だから、『やり直し』はもういいんです。世界を滅ぼしてしまったことを悔いて成仏できずにいる、他の陸冥卿(、、、)にはちょっと悪いですけど」


 申し訳なさそうな表情でヒフミのことを見るミモザ。でもミモザは「そっか」と淡白に答えただけだった。


「そういえば、他のみんなもこの時代に来てるんですか?」


「うん、彼女の災害レベルとすら言える時空転移に巻き込まれてね。みんなはこの時代の自分たちのところに大来行ってるよ。今ならそもそも自分たちが魔に下るきっかけとなった出来事をやり直せるんじゃないか、っていう一縷の希望を持ってね。ま、幽霊だから難しいんじゃないかな、と思って」


「そうですか……。で、ヒフミはなんで自分のところに行く前にわたしのところに来てるんですか?」


「それはミモザがこれからどうするか気になったから」


 ヒフミのつぶらな瞳にまっすぐ見つめられ、ミモザは一瞬答えに窮する。なぜなら、その答えをかつての仲間に話すと心配されてしまいそうだったから。けれど、ヒフミは押し黙ったミモザを見つめるのをやめない。根負けしたミモザは結局口を開いた。


「これからはレイナさまに気づかれないように隠れながら、ずっとレイナさまのことを見守ります。レイナさまがわたしに気づいたらお母様との関係を邪魔しちゃうでしょうから。私、親子百合の間に挟まる女になる趣味はないんです」


 少しおどけてみせるミモザ。でもその手はヒフミには通じなかった。


「そっか。じゃあミモザは今の時代の自分のことは見捨てて助けないんだ。でも、だとすると……また同じように世界は終わっちゃうんじゃない? そして何にも心残りが解消せずにこの世に留まり続けることになるんじゃないの?」


「それは……」


 答えに詰まるミモザ。そんなミモザに追い打ちをかけるようにヒフミは言う。


「ボクは行くよ。せっかくやり直せるチャンスが手に入ったんだから。これ以上レイナ(彼女)に頼る気もないけど――誰も幸せになれない世界の破滅なんてもうこりごりだ」


 それだけ言い残すと。ヒフミはすっと夜闇に溶けた。そして最後には一人その場にたたずむミモザだけが残された。









 ここまでお読みいただきありがとうございます。リコッタとレイナが出会う経緯を描いて一応これでプロローグ完、で次回からミモザ編とでもいうべきエピソードになります。まあまだレイナの目的とかが定まり切っていないのでプロローグと1章は一続きの話、という整理の仕方の方がいいのかもしれません。


 ミモザの正体がなんなのか、レイナの定義魔法とは本当はどんな能力なのか。それも本来は1章ラストで明かそうかな、と思ってたのですが、あまり引きづるのもよくないかな、と思ってプロローグの最後に急遽上弦会議のようなエピソードを付け加えて、匂わせる程度にしてみました。今後ミモザの口からレイナに直接話してもらいますが、タイトルとの兼ね合いで現状はこういう話です、という説明になってたら嬉しいです。

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