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第36話 処刑阻止大作戦(ミモザ視点)

 昨日は落としちゃってすみません。昨日上げる予定だった部分です。

 それから1日が経ち。遂に刑に処される時がやってきました。囚人護送用の馬車から護衛の武装神官がわたしの両脇をがっしり掴んでギロチン台へと歩かせます。馬車から一歩降りた瞬間。公開処刑上と化した広場に詰め寄った民衆が湧きました。


「あれが元大聖女か。俺たち純真無垢な信徒のことをずっと騙してた、とんだ人殺しだな」


「いかにも悪人って面が前してるわね、こわーい」


 聞いた感触では私に対する非難6割、死刑をショーとして面白おかしく楽しもうとする層4割、と言ったところでしょうか。そのいずれにもこれまで私が手を差し伸べて上げたはずの人々が沢山含まれていました。その心無い言葉の刃に私の心はずたずたに切り裂かれて「これまで私が差し伸べてきた手って、一体何だったんだろう」と思ってしまいます。耐えきれなくなって私は立ち止まり、思わずぎゅっと目を瞑ってしまう私。しかし、そんな私に護衛の武装神官は一切の情けなんてかけてくれるはずもなく、


「立ち止まらないで、さっさと歩け、この極悪人が!」


と叱責して私の足を強く蹴り飛ばしてきます。地面に倒れこんでしまうと、更に誹謗中傷の勢いは増していきます。


と、その時でした。


「こんなの絶対間違ってるよ!」


 一人の女の子の甲高い叫び声にその場は一瞬静まり返ります。その言葉に私も顔を上げて声のした方を見てしまいます。その先には――いつだか私が母親を精霊系魔法で治癒したことのある少女が顔を真っ赤にしてまで叫んでました。


 そして彼女の声を皮切りに。近くにいた人たちが次々に私のことを庇おうと声を上げてくれます。私が支援していた孤児院の子供たち、嵐の際に助けたお年寄り、魔法で書庫の整理を手伝ってあげた図書館の司書さん、家屋が火事で全焼しかけていたところを助けた店の店主。私が確かに手を指し伸ばして助けた人が私の処刑はおかしい、助命しろ、と訴えてくれます。その温かい言葉に、死ぬ覚悟なんて決めたはずの私の心が再びぐちゃぐちゃにかき乱されます。


 ――なんでここまで来てこんなに優しくしてくれるんですか? 誰からも優しくされなかったら私は誰からも必要とされていない人間なんだ、って思って、刑を受け入れられたのに。こんなに優しくされたら、まだ生きたいって少し思っちゃうじゃないですか。 やめてくださいよ……。


 私が心の中でそう叫んだ時でした。


「ミモザちゃん。それ、本気で思ってる?」


「へっ?」


 見上げるとそこには。


「き、貴様ら! いつからここにいた⁉︎」


 処刑台付近にいた神官達は急な乱入者の登場に慌てふためきます。そう、そこにはリコッタさまを筆頭に何故か髪をオレンジ色に染めたレイナさま、エルザさん、そしてちょっと不服そうな表情を浮かべた見慣れぬ神父さんがいたのですから。


「いつからって今さっきかな。今のあたしの操る定義魔法【次元】を応用すれば、異次元トンネルを任意の三次元空間座標間を繋ぐ経路として定義して、疑似的な瞬間移動が可能なの。物理的障壁は意味をなさない」


 レイナさまが得意げに言います。そしてその隣では


「こんな物騒なもの、腐らせておいた方がいいわね」


概念発動(アライズ)_【万病毒殿】_種別選択(タイプ)_腐蝕(スポイル)_経由地選択(インターミッション)_指先(フィンガーポイント)_再定義開始(リディファイン)


エルザさんがギロチンをひと撫でした瞬間。木製の骨組みの部分が【腐食】し、ギロチンが崩れ去ります。それに対して悲痛な叫び声をあげる処刑人。そしてそんなエルザさん達にブーイングを飛ばす観衆たち……。


 そんな阿鼻叫喚な処刑会場をものともせず、リコッタさまはあたしのことをまっすぐ見つめたまま問いかけてきます。


「勝手に心を読んじゃってごめんね。わたし、【念話(テレパス)】の魔法がちょっと得意なんだ。だから、ミモザちゃんの考えてることだって手に取るようにわかっちゃう。で、ほんとにミモザちゃんは自分を庇って、自分を必要としてくれる、生きてほしいと願ってくれる人のことを鬱陶しく思ってる? いてほしくないって思ってる?」


「それは……」


「本当は嬉しいんじゃないの? 必要としてる人がいて、もっとその人たちのために生きたいと思ってるんじゃないの?」


「だとしても! 決して許されることのない罪を犯した私は罪からは逃れられないし、そして生まれながらの神官である私は、どんなに逃げたと思っても"教会"からは逃れられないんです。物理的にもまた逃げたところでどこまでも追ってこられるし、精神的にも囚われ続けてるんです。私は、死ぬまで"教会"の人間であることをやめられないんです……だから、ここで死んで、罪を償わせてくださいよ……。もう決意を固めちゃったんですから……」


「――確かにミモザは死ぬまで教会関係者であることをやめられないかもしれないよ? でも、ミモザは『教会に属してるミモザ』だけじゃないでしょ」


「えっ?」


 突然会話に割り込んできたレイナさまにわたしはそう聞き返してしまいます。


「人って一つの側面だけで生きてるわけじゃないと思うんだ。生きてる以上、いろんな組織に所属して、いろんな側面を持ってるはず。ミモザの"教会関係者"っていう側面は、ミモザの一面にしか過ぎないんだよ。だから、ミモザの教会との関係は生きてる以上、一生切れないかもしれないけど……それ以外の『ミモザ』だっているはずでしょ。少なくともあたしは、大聖女でも教会にとっての反逆者でもない、『友達』としてしかミモザを見てないよ? その側面のミモザは大切にしてあげなくていいの?」


 レイナさまの言葉に固めていたはずの私の心が大きく揺らぎかけます。そんなレイナさまの言葉を次ぐようにリコッタ様も口を開きます。


「それに、罪と向き合いながらも幸せになったっていいと思う。むしろ、してしまったことをそんなに気にするなら、死んでお詫び、なんて言ってないで償いとしてミモザちゃんの力で困ってる人をこれからも助けて、自分もちゃんと幸せになってほしい。それが被害者のわたしからミモザちゃんに課す、死んで楽になるよりももっともっと難しくて、もっともっと意味があって、もっともっと苦しい『罰』だよ。その罰はイヤ?」


 リコッタさまの言葉に私は言葉を詰まらせてしまいます。


「……でも、いくら私が生きたいと思っても教会は地の果てまできっと私を追いかけてきます。私は別にいいんです。でも、それに私の大切な人を巻き込みたくなんてないんです」


 現に突然乱入したリコッタさま達を排除しようと、神官たちは剣や杖を構えます。そしてそれをエルザさんとレイナさまが定義魔法でいなしてます。これからずっとこんなのが続くなんて、さすがに耐えられません。そう思ってるのに。


「その問題はもう解決してるから大丈夫。だってミモザちゃんは今この瞬間、エルザさんと入れ替わる形で陸冥卿の就任するんだから。教会でさえ手を出せない、あらゆる組織とは独立した世界最強の6人の1人に」


「それってどういうことですか……?」


 私の疑問にこれまで不満そうな表情でレイナさま達と神官達の戦いを見ていた初老の神父がこほん、と咳ばらいをしてから、厳かな口調で言う。


「皆さん、静粛にしてくれませんか。これより教皇庁外局特異監視委員会委員・モリアヌス卿の名の下に【万病毒殿】から【時空】への陸冥卿の地位移譲の儀を執り行います」


 そして神父さんが取り出した秋桜をかたどったバッジを見た瞬間。これまでレイナさま達と戦っていた神官は一斉に攻撃をやめ、その場に膝まづきます。そんな神官の態度の変化に、これまで好き勝手に言っていた急に静まり返ります。


 それも無理もありません。神父さんが取り出したのはこの世界で陸冥卿の認定・管理を行う、独立した魔法技術鑑定の権威にして、陸冥卿を唯一認定・監視することができる身分を示すバッジだったのですから。


 ――そんな人が定義魔法を持たないはずの私を陸冥卿に任命だなんて、何かの間違いでしょうか。


 私がそんなことを考えていると。


「間違いではありませんよ。教会に封印されてるため殆ど目覚めていませんが、あなたには【時空】――時間と空間を自由に操り、ありえたかもしれない未来では魔王の片腕として世界を滅茶苦茶に蹂躙できるほどの定義魔法が眠ってるんですから。あなたの存在に気づいた以上、より弱い定義魔法――【万病毒殿】は代替わりせざるを得ません」


 神父さんが確信したような口調で言います。


「教会の枢軸である大聖女があらゆる組織・機関から独立しなくてはならない陸冥卿なんかに認定されたら教会としては大幅な戦力減になるから、気づかれないように封印してたのでしょう。けれど、その力が最近になって精霊系魔法の封印では封じ込められなくなってきた。そしてそれに呼応してるのかどうかはともかく、教会に従順である大聖女であるあなたの行動を、教会はコントロールできなくなり始めた。


そんなあなたを、教会は脅威と判定し、理由をつけて喜んで処刑しようとしたのでしょう。けれど、教皇庁と一定の距離を保っている私達の知ったことではありませんね。世界全体の脅威を正しく認定して、監視する。それが私達特異監視委員会がすべきことでしょうから」


「いきなりそう言われても、全然実感が湧きません……」


 煮え切らない私に、神父さんは人差し指を立てます。


「もし一つ説明するならばあなたがリコッタ嬢に施した寿命転移。あれは一種の時間概念の再定義で、精霊系魔法なんかじゃなくて定義魔法【時空】の一様態なんですよ。あの魔法はあなたにしか使えず、他の大聖女にすら使えなかったでしょう?」


 神父さんの言葉に私は息を飲みます。言われてみればその通りで、リコッタさまに寿命転移の魔法をかけてリコッタさまを元気にできるのが私しかいなかったから、あの仕事は私に回ってきたのでした。


「それがわかればさっさとあなたが新しい陸冥卿であることを認めてください。そうすれば特異監視委員会がお墨付きを与えている以上、もうあなたはどのような組織からも干渉されない、陸冥卿なんですから」


 投げやりに言う神父さん。


「わかりました、わかりましたけど……エルザさんはそれでいいんですか? 私なんかよりもずっと強いエルザさんは陸冥卿という身分を喪ってしまって」


 恐る恐る口にした疑問。その疑問にエルザさんは何かが吹っ切れたような表情を浮かべて答えてくれます。


「わたしが陸冥卿にそんな執着してると思う? ――前も言ったとおり、わたしの場合はこのクソ神父に望んでもいないのに陸冥卿とか言われちゃっただけで、端っから陸冥卿なんて身分に興味はないのよ。降ろしてくれるなら願ったり叶ったりよ。――これでようやく、普通の女の子に戻れる。お父様やお母様に会いに行ける」


 そう呟くエルザさんは童心に帰ったような目をしていました。それがエルザさんの陸冥卿ではない、10歳で故郷も親も失わざるを得なかった女の子の本当の瞳だったのでしょう。


 ――私が陸冥卿になれば私は教会から距離がおけますし、エルザさんだって母国に帰れます。そして何より私は教会の呪縛から、完全じゃないとしても解き放たれます。やり直すことができます。。


 ずっと諦めていた誰もが幸せになれるハッピーエンド。まだ生きられる可能性。それに、自然と涙がこみあげてきてしまいます。そんな涙を小指で拭いながら、わたしはゆっくりと口を開きます。


「――決めました。私、陸冥卿になります」


 私がそう口にした時でした。

 ここまでお読みいただきありがとうございます。本編ラスト1話です。最後まで見守っていただけますと幸いです。

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