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第32話 ちょこころねからちょこを抜く魔法

「でも、なかなか難しいわよ? もちろん力業でミモザを奪取することは難しくはないでしょう。こっちには陸冥卿の魔法と、更にその上を行く魔法があるんだから。でも、それじゃ根本的な解決にならない。力づくでミモザを取り返したところで、ミモザが教会から追われ続けるのは変わらない。私達が目指すのは、どうやって教会にミモザを諦めさせるか、ってこと」


 エルザさんの話にわたしは納得する。そっか、力づくでミモザちゃんを救い出しただけじゃ解決にならないんだ。と、いうか確かに力づくで教会から連れ出してもミモザちゃんは自分から戻っちゃいそうな気がする。


 それから、わたし達3人がうんうん唸りながら考えること数十分。


「そう言えば、陸冥卿って教会でも口出しできない存在なんだっけ」


 とあることを思いついたわたしに、エルザさんは怪訝そうに眉を顰める。


「確かにそうね。陸冥卿はその強すぎる力ゆえに、どこかの組織に属することか許されないのよ。それは国家も、そして宗教も同じ。と、言っても誰が陸冥卿かを管理・判断するためには国際機関かつ魔法に対して高度な専門知識を持っていなくちゃできない。だから、教会本体とは一定程度距離を置いた、鑑定魔法に秀でた聖職者からなる『特異監視委員会』が陸冥卿の判定や管理を行なってるけどね」


 そして私を【毒牙の陸冥卿】と判定し、名付けた神父も特異監視委員会の1人、とエルザさんは付け足す。


「陸冥卿の席って今は全員分埋まってるの?」


「6席全て埋まってるわね。他の陸冥卿と会うことなんてあまりないから、もしかしたらぽっくり行ってるやつがいるかもしれないけど」


「陸冥卿ってどうやって代替わりするの?」


「陸冥卿は良くも悪くも世界最強の象徴なのよ。だから最強なのに誰かに敗北したり、ましてや殺されたとかってなれば、下剋上式に陸冥卿の代替わりが起こるわ。特異監視委員会が追認する形で、ね。でも陸冥卿に喧嘩を売るような奴はあんまりいないからたいていの陸冥卿は死ぬまでその地位を全うし、寿命で席が空いたら特異監視委員会が然るべき定義魔法の使い手を見つけ出して陸冥卿に任命するんだけど。わたしがそうだったように、ね。でも、こんな話聞いてどうする……あ」


 そこでエルザさんはわたしが何を考えてるのか気づいたみたい。


「つまり、リコッタ=エン=パトラリカは私に陸冥卿を降りさせ、その後釜にミモザを据えて、ミモザを教会が手出しできない存在にしようって考えたわけね。やるじゃん」


「うん。でも、エルザさんはそれで大丈夫? 陸冥卿を辞めることに抵抗はない……?」


 わたしの問いにエルザさんは考え込むように両目を閉じる。それからしばらくして。エルザさんはニヤリ、と笑う。


「もともとなりたくてなったわけじゃない陸冥卿だもの。厄介払いしてくれるならこっちの方から願ったり叶ったりよ。ーーもう一生、陸冥卿としての生き方しかできずに母国の土を踏むことなんて許されないと思ってたから」


 最後の方は少しだけしんみりした口調でエルザさんは言う。


「と、言ってもミモザを陸冥卿に仕立て上げるための方法は考えてるの? 確かに私は陸冥卿ですらないあなた達に負けたけど、それはほとんどレイナ母さんに負けたようなもの。だから、母さんに陸冥卿の座を譲るならともかく、定義魔法すら持たないミモザを陸冥卿に据えることは……」


「それは大丈夫だよ。だってエルザを止めたのは未来のミモザが手にするはずの力なんだもん。あたしはそれをちょっと借りただけ」


 これまで沈黙を保ってたレイナちゃんの言葉に、わたしとエルザさんは注目しちゃう。わたし達2人に注目されると。レイナちゃんははっとして、それからごまかすような笑みを浮かべる。


「あれ、あたし何言ってるんだろ。自分でもよくわからないや。でも……ミモザにはまだ目覚めてないだけでこの世界を変えてしまえるだけの力が眠ってるんじゃないかな、っていう気がするの。だから、きっとこの作戦は成功する。そう確信してる」


「何そのテキトーな直観……。でも、母さんにそう言われると妙に説得力あるのよね」


 呆れたように言うエルザさん。でもその目は少し笑っていた。



◇◇◇



 それから。わたし達は二手に分かれて行動を開始した。幽霊と話せるという破格の情報収集能力をもつレイナちゃんには、そもそもミモザちゃんがどこに連れていかれたのか、公開処刑の日はいつなのか、という情報収集をしてもらってる。レイナちゃんのことだったらミモザちゃんの居場所が分かり次第一人で特攻しちゃうんじゃないか、という懸念もあるんだけど、それはレイナちゃんを信じよう、うん。それにレイナちゃんにはエルザさんもついてるからきっと止めてくれる、はず……。


 その一方で。わたしは単身、空間転移魔法でエルザさんの母国に来ていた。その目的はエルザさんを陸冥卿と認定した神父を見つけて、ミモザちゃんが陸冥卿になるための口添えをしてもらうため。エルザさんは国外追放されてるし、そもそも最高位の身分の神父にはそれ相応の身分の者しか会うことすらできない、ということで、一応公爵令嬢のわたしが会いに行くことになったんだけど……。


「えっと、ここがこうなって、ああなって……」


 慣れない一人旅に地図を上下にくるくる回転させながらわたしが絶賛迷子になってる時だった。


「これはこれは、この辺りでは見かけないお嬢さんですね。異国からの来られた貴族のお嬢さんですか?」


 背後から穏やかな声がした。振り向くとそこには柔らかい雰囲気を纏った初老の神父が立っていた。


「はい、この国で一番偉い神父さんにお会いしなくちゃいけないんですけど……」


 そう言ったわたしと神父さんの目が合った瞬間。神父さんは目を見開いて


「あなたは……」


と呟いたかと思うと。


「あなたが今ここにいるってことは【毒牙の陸冥卿】は失敗したということですね。ーー話をするなら場所を変えましょうか。ついてきてください。ここで魔王に暴れられたら敵わない」


 と意味のわからないことを早口で呟いたかと思うと、すたすた歩き出す。


「あの、何を言ってるんですか? わたしに定義魔法なんて……って、ちょっと待ってください」


 そう叫びながら、あたしは必死に神父さんに追い縋った。




 わたしが通されたのはこの国の王都中心部にある広大な教会の敷地の中でも、とりわけ豪奢な客間だった。王太子婚約者だった時に通された王城の一室には及ばないけど、国の規模を考えたらかなり頑張ってるんだろうな、って思う。


 そんなわたしの心中を読んだのだか読んでないのか


「小国であるこの国の教会の中ではここが一番の応接間なんです。だから部屋が魔王であるわたしに相応しくないとかで機嫌を損ねて王都ごと無に帰すとかやめてくださいね」


 わたしの前に紅茶の入ったティーカップを置きながら神父さんはジト目で言ってくる。そんな神父さんにわたしはつい、


「わたしそんなわがままお嬢様じゃないよ⁉︎ 」


と素がでちゃう。


「……大体、あなたはわたしをなんだと思ってるんですか?」


 溜息交じりに尋ねるわたし。そんなわたしの疑問に神父は躊躇いなく端的に答える。


「数年後に世界を滅ぼす魔王」


 その言葉にわたしは耳を疑った。


 「魔王」。現実感のない、普通なら御伽噺でしか聞いたことのないような単語。そのはずなのに、わたしはつい最近他の人からもその言葉を聞いた気がする。そう、その言葉を口にしていたのはレイナちゃん。彼女は言っていた。自分は魔王によって世界が滅ぼされた後の未来の世界からやってきた、ってこと。だから魔王という単語自体は他の人に比べたら突拍子もなくは思えない。現実にありうるかもしれない。そう思い始めてはいるけれども。


 魔王という突拍子もない単語に落ち着き払っていたのがいけないのか、神父さんは目を細めて尋ねてくる。


「魔王なんて単語を聞いても笑い飛ばさないところを見る限り自覚はあるのでしょうか」


「そ、そんなわけないじゃないですか。確かにわたしは他の人に比べたら「魔王」という存在自体はそこまでありえないものでないと思ってるかもしれません。わたしの大切な人がいる『いる』って言ってたから。けど、わたしが『魔王』だっていうその一点だけは人違いですって」


「それはないですね」


 わたしの反駁を神父さんはバッサリと切り捨てる。


「なんで⁉︎ 大体、わたしは定義魔法すら持ってないんですよ?」


「それは嘘だ。あなた、中身のある食べ物――例えば中に具の入ったパンだとかは食べられませんよね?」


 唐突に聞かれてわたしのうなじに汗が浮かぶ。


 これまで誰にも言わないようにしてたし、食事も病気のせいで殆ど部屋で一人で食べてたから親でさえ知らないけれど――わたしには中に何家具の入っているパンなどが食べられない、具体的に言うとチョココロネやクリームパンが食べられないという特異体質がある。


 いや、正確に言うと食べられないわけじゃない。別にアレルギーがあるとかじゃなくて、そのようなパンや食べ物にわたしが触れた瞬間。中身が忽然と消えてしまうという珍現象が毎回起こってる。だからわたしは中身の包まれているパンなどは食べられない。食べようとするとその前に中身が無くなっちゃうから。


 そのことをわたしはずっと誰にも言わないようにしていた。そんなことを知られたら気味悪がられるのが関の山だろうから。なのに。


 ――なんでこの人はそのことを知ってるの……?


 その疑問が喉の奥から出かけてギリギリのところでわたしは踏みとどまる。こんな質問をしたら認めてるのと同じ。わたしはこほん、と咳ばらいをしてから口を開く。


「仮にそうだったとして――それが何だっていうんですか? そんなの、定義魔法なんて呼べないくらいお粗末な魔法じゃないですか。チョココロネからチョコを抜いたり、クリームパンからクリームを抜く魔法なん……」


 そこでわたしは言葉を途切れさせちゃう。チョココロネからチョコを抜く魔法――それって、レイナちゃんが言っていた魔王の使っていた定義魔法そのものじゃん。

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