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第31話 朝焼けの決意

 今回もリコッタ視点です。

 そして一人で夜通し祈り続けること数時間。思っていた以上にわたしも疲れがたまってたのかな。いつの間にか寝ちゃってたみたい。昨日までのわたしの体だったらこんなところで寝てたら確実に体調を崩してたな。まだちょっと寝ぼけた頭でそんなことを考えながら寝ぼけ眼をこすりながら目を開けると。目の前にいる美少女の檸檬色の瞳とわたしの目が合う。それと同時に、後頭部に柔らかい感触を感じる。このシチュエーションって……。


「あっ、ママ。ようやく起きたんだ」


 わたしと目が合った瞬間。至近距離にあったレイナちゃんが顔を綻ばせる。この位置関係ということは今のわたし、レイナちゃん(女の子)に膝枕されてる? ってことはこの頭の下の柔らかい感触は女の子の太もも……。そう思った瞬間。


「美少女に膝枕されるなんて幸せ……もう死んでも後悔ないかも」


「せっかく病気が治った矢先に尊死しちゃだめだよ⁉」


 うっとりしかけたわたしはレイナちゃんのキレのいいツッコミで現実に引き戻される。


「ごめんごめん、今のわたし、ちょっと気持ち悪かったね」


「うん。ちょっと身の危険を感じて、今すぐ太ももをどかしてママの頭を床にごっつんさせたまま逃げた方がいいかな、って迷い始めてた」


「辛辣ぅ。でも――レイナちゃんが無事に目を覚ましてくれて、本当によかった」


 そう思うと熱いものがこみ上げてきて、我慢できなくなったわたしはレイナちゃんのことをぎゅっと抱きしめちゃう。そんなわたしにレイナちゃんは驚いたように目をぱちくりさせる。


「ちょ、ちょっと大袈裟じゃない? あたしはあくまで疲れすぎてその場に倒れちゃっただけだし、昨日はお風呂入らずに寝ちゃって臭いが心配だから、ママにはあんまり引っ付いてほしくないというか」


「大げさなんかじゃないよ!」


 つい大きな声を出してしまったわたしに、レイナちゃんははっとする。そんなレイナちゃんにわたしは大きな声を出しちゃったことを反省しながらも言葉を続ける。


「レイナちゃんが倒れた時、わたし、ほんとに不安になったんだ。レイナちゃんがどこか遠いところに行っちゃうんじゃないかって。これまで幸せになることを諦め続けなくちゃいけなかったわたしはまた、レイナちゃんと一緒にいたいっていう願いを諦めなくちゃいけないんじゃないかって」


「そんなことないよ? あたしは何処にもいかずにママの近くにいる。だってあたしはママのこと……」


 そこでレイナちゃんは何かを言いかけて、言葉を濁らせて目を伏せる。わたしはレイナちゃんのなんなんだろう。そう少し不安に感じたけど、わたしはそれ以上踏み込まなかった。代わりにわたしもレイナちゃんを抱擁してた手を放して、頭上のステンドグラスを見上げながら呟く。その視線の先には、色とりどりのステンドグラスで女神さまの姿が描かれていた。


「あたし、きっと幸せになることが許されない人間なんだ。自分の幸せは全部諦めなくちゃいけなくって、何か人生に希望を持とうとしたら悉く神様に邪魔されてきた。アノンちゃんに恋しちゃったときだって、レイナちゃんに母親らしいことをしてあげてから死にたいと思ったときだって、今回だってそう。わたしが人並みの幸せを祈ったから、友達のミモザちゃんは連れ去られて、レイナちゃんまで倒れちゃった」


「えっ……」


「だから、もう幸せになることを欲張ったりはしないね。本当はわたしなんかが幸せになっちゃいけないのかもしれないけど……せめて一つだけ、レイナちゃんとだけは一緒にいたいの。それ以外の幸せは、友達も何もかも、全て『諦める』から。せっかく友達のミモザちゃんも一緒に幸せになれるかと思ったんだけど……それは欲張りすぎだったんだよね」


 あー、また最悪な言葉が出ちゃった。そう後悔していると。


「――そんなのおかしいよ」


 いつになく低い声で言うレイナちゃんに、今度はわたしがはっとする番。でもそうだよね、友達を諦めるようなことを言うようなママなんて、娘から叱られて、軽蔑されて当然だよね……。そんなことをわたしは思った。でも、レイナちゃんが憤っているポイントは若干違った。


「幸せになることを欲張っちゃいけないだなんて、そんなのおかしいよ! なんで幸せになることを諦めなくちゃいけないの? なんで欲張りじゃいけないの? おかしかったのはこれまでのママの人生の方だよ! むしろ、これまで報われないこと続きだったんだから、それをチャラにできるくらい、ママは幸せにならなくちゃいけないの。ならなくちゃいけない、じゃない。ママが自分でその気がないなら、ママが望んで用が望んでいまい幸せにしてあげる――このあたしが!」


 怒ったような口調でそんなことを言われて、わたしは思わずレイナちゃんのことを凝視しちゃう。そんなレイナちゃんの横顔は凛々しくて、こんなシチュエーションなのに、いや、こんなシチュエーションだからなのかな、ついかっこいいな、と胸がときめいちゃった。


「だから、ママの本当の気持ちを聞かせて。ママはミモザを諦めちゃってそれでいいの? ようやくママに対する負い目が消えて、これからはママとも対等な友達になれそうだったのに、そんなミモザのことを諦めてそれでママは本当に幸せになれるの?」


「それは……」


 仕方がない、諦める。そんな言葉で無理やり蓋をしていた感情が、レイナちゃんのその言葉で遂に決壊する。


「……そんなの、本当はなにも諦めたくないに決まってるじゃん! もう既にミモザちゃんはわたしの大切な友達だよ。そんな友達が教会なんかの言いなりで死んじゃうなんて、絶対に間違ってし、納得できない。でも……わたしにはミモザを助けてあげられる力なんてない! どうしようもないじゃん」


 自分の無力さに俯いちゃうわたし。でも。


「今のママは一人じゃない!」


 レイナちゃんに強い調子で言われてわたしは顔を上げてレイナちゃんのことを見ちゃう。


「今のママにはなくてもあたしにはある! だからあたしのことを頼ってよ。ママ一人じゃない、あたし達でミモザのことを助け出そう。そしてミモザも含めて、何も諦めずに幸せになろ」


 そう言ってわたしに右手を指し伸ばしてくるレイナちゃん。朝日に照らされるそんなレイナちゃんの姿は、初めて会った日の夜、パーティー会場でわたしに手を差し伸べてくれた時のレイナちゃんの姿と重なった。


 ――この()はほんと、いちいちかっこよすぎて、いちいちわたしを嬉しくさせちゃうツボを押さえてくるんだよね。ずるい。ずる過ぎて、母親が娘に抱いちゃいけない感情が芽生えそうになっちゃうじゃん。


 途中まで喉に出かかったそんな思いを飲み込んで、わたしはレイナちゃんの手を取って大きくうなずく。


「うんっ!」


「と、なったら早速作戦会議ね」


 不意に背後から声がして、振り向くとそこには。


「エルザ!」


「エルザさん!」


 わたしとレイナちゃんはほぼ同時に叫んじゃう。そんなわたし達の反応にエルザさんはちょっと気恥ずかしそうに頬を掻きながら言う。


「もう既に乗り掛かった舟だしね。それに、個人的に教会の連中は1回締めてやりたいし。だから私達3人で、あの大聖女を助け出しましょ」


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