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第3話 終末世界を彷徨う少女(レイナside)

 リコッタの前に現れた銀髪少女がまだ25年後の世界にいた時の話です。

◇◆◇(少し遡る)


「ねえ知ってる? この世界は『魔王』って人の、『ちょこころねからちょこを抜く魔法』によって滅ぼされちゃったんだって」


 新界暦825年8月。


 人の息遣いが絶えて久しい街を、世界の終わりを告げる雪が白く染め上げていく。


 そんな光景を廃屋の割れた窓の隙間から眺めながら、あたしは誰もいない虚空に向かって話しかける。なるべく、明るいトーンで。


「まだタイヨウっていうのがあった時、この街は3枚しか重ね着しなくても凍え死なないくらいにあったかくって、冬でも滅多に雪が降らなかったんだって。そんな過ごしやすい気候のこの街は世界有数の交易地として多くの人で賑わってたみたい。そんな時代があったなんて、あたしにはうまくイメージできないや」




 今から20年前、新界暦809年のこと。


 これまで魔王も勇者もいなかったこの世界に魔王と、その配下の陸冥卿を名乗る7人の少女達が現れた。


『この腐り切った世界を終わらせる』


 そう掲げた彼女らはその圧倒的な魔法でこの惑星(ほし)を滅茶苦茶苦にしたみたい。


 大地を割り、三つの海を干上がらせ、何千、何万という人の命をまるで紙切れみたいに一瞬にして吹き飛ばした。


 そして極めつけは魔王の「ちょこころねからちょこを抜く魔法」だった。その魔法によって、あと数十億年はあったはずの太陽の寿命は僅か数秒にして削り取られ、太陽系は滅亡直前の銀河系となった。


 太陽光が殆ど届かなくなった地球上からは永遠に「昼」がなくなり、急激な寒冷化によって、とてもじゃないけど生命が生き延びられるような環境でなくなった。


 そんな急激な気候変動に、魔王と陸冥卿の直接的な殺戮を免れた地球上の生命も、寒さで次々と命を落としていった。


 今となってはこの星に生き残っている人なんて、きっと片手で数えられるくらいしかいないだろうな。




 そんな終末世界であたし・レイナ=パトラリカは生まれた。そんなあたしはタイヨウも見たこともないし、自分以外の人だって血の繋がりもないのになぜかあたしのことを物心ついた時から育ててくれたミモザ以外の人に会ったことがない。


 そして、そんなミモザが八年前にもう二度と会えない遠いところに旅立ってから。あたしはミモザと一緒に過ごした生まれ育った街を離れ、旅に出た。この終末世界で生き延びている「あたし以外の誰か」に会いたかったから。


 「あたし以外の誰か」に出会ってやりたいことは幾らでもあった。友達を作って一緒に遊んだり、自分のことを「お姉さま」って慕ってくれる年下の女の子にいろいろ教えてあげたり、運命の人を見つけて結婚したり、とか。まあ八年間旅を続けて、今のところ誰とも出会ったことはないんだけど。


 そんなあたしは時々、大きな声で独り言を呟いちゃう。この過酷な終末世界で同じように生き延びた「誰か」に気づいてほしくて。



 誰も返事してくれない可能性の方が高いことなんて、いい加減にわかり切っている。だってこの世界には、もしかしたらもうあたし以外の人は誰も生き残ってないかもしれないんだから。でも、「生き延びた誰かと出会う」という希望を、あたしは棄てることはできなかった。その希望を捨ててしまったら、あたしも生きる意味を失ってミモザの後を追うことになっちゃいそうだったから。


 それに、ミモザが生きてるとき、ミモザはあたしに「世界を照らせるような明るい女の子になりなってください」ってよく言っていたしね。


 明るくて、人懐っこい女の子は誰にでも好かれるから。


 人類の生き残りに出会った時、明るい子であればその生き残りに自分のことを好きになってもらって円滑にコミュニケーションが取れるから。


 だから、あたしはなるべく明るくふるまって、今日もとりとめもないことを呟く。


「ちょこころね、ってどんな食べ物なんだろうね。あたしが生まれてきた時にはもうなくなってたから、わからないや」


「……」


 当然返ってこない返事。そんないつもなら受け流せるはずの静寂に、この日はなぜか、無性に寂しくなっちゃう。不意に熱いものがお腹の下からこみ上げてくる。


 ――あ、これ、ダメなやつだ。このままだとずっと見ないふりして、抑え込んでた感情があたしの中から溢れ出ちゃう。


 そう思ったけれど、一度こみ上げてきた感情は、もうコントロールなんてできなかった。


「……だいたいさ! こんな世の中だったらあたしがすぐにひとりぼっちになっちゃうことぐらい分かり切ってるじゃん。なんであたしのママはそんな時にあたしのことを産んだのかな……。誰からも置いていかれて、ひとりぼっちになっちゃうあたしの気持ちを、ちょっとは想像してから産んでよっ!」


 温かいものが頬を伝う。とめどない涙が溢れて、手の甲で拭っても拭っても、止まってくれない。


 と、その時だった。


「――ほんと、レイナさまは身勝手ですね。思っても、お腹を痛めて自分を産んでくれた親にそういう子なんていないでしょ、普通」


「へっ?」


 返ってくるはずがないはずの、返ってこないはずの人からの返事。驚きすぎてあたしはつい泣き止んで顔を上げちゃう。


 するとそこにはもう二度と会えないと思っていた人――ミモザが立っていた。


 レイナとリコッタはW主人公なんですけど、どっちの話を冒頭に持ってくるべきだったか今も悩んでます。どっちも巻き込まれ主人公ですけどレイナの方がまだ主導権があるので。まあとりあえずはこれで。

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[一言] ちょこころねから、ちょこを抜く魔法………………(笑)
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