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第25話 別れ 前編(レイナ視点)

「……これで全て終わったんですよね」


 その言葉に振り向くと。この時代の14歳のミモザは力の抜けたようにその場にへなへなっと座り込んでいた。それも無理もないと思う。


 これまで人生の指針だった教会から棄てられて殺されかけ、やっとのことで逃げてきても一人の女の子の死を早めてしまった罪悪感は消えない。そんな中で自分が傷つけてしまった本人が目の前に現れちゃって、せめてもの償いをしようとしたらその元凶である世界最強の陸冥卿と命がけで戦うことになっちゃったんだから。

 

 これまではあたしにもミモザの立場になって考える余裕なんてなかった。でも、ミモザはずっと自分の心を縛られ続けてきた。最初は教会に、続いて自責の念に。それはもう、これから25年間も続いて死んでも死にきれないくらいに。そんな苦しみが今、ようやく終わったんだ。


「うん。だからミモザはこれからは何にも縛られないで、自分の生きたいように生きていいんだよ」


 自然と口から出た言葉。それにミモザは驚いたように目を見張る。そんな風に見つめられるとちょっとくすぐったくなって、あたしは照れ隠しに頬をかく。


「今のミモザは教会の言いなりになった大聖女でもなければ、ママに一生負い目を感じなくちゃいけない罪人なんかでもない。ミモザがこれからどう生きていくかを決めてくれる人なんて誰もいないし、ミモザの人生にはミモザ自身で正解を見つけて上げなくちゃいけないの。だよね、ママ」


 いきなり話を振られてママはちょっと驚いたような表情になったけど、すぐに慈しむような表情になって頷く。


「レイナちゃんの言うとおりだよ。レイナちゃんと、そしてミモザちゃんのおかげで、今のわたしはすっごく元気になれた。だから、最初から何も悪いことなんてしてないミモザちゃんも――そしてエルザさんだって、わたしに負い目なんて感じる必要なんてないんだよ? わたしも諦めかけていた『これから』を幸せになるために精一杯に生きるから、二人にも精一杯、自分の人生の正解を見つけていってほしい。だから――大聖女でも罪人でもなくなった『ミモザちゃん』は、これから何がしたい?」


 そう言ってさし伸ばされるママの手を見つめるミモザ。


「わ、私は――」


 次の瞬間。ミモザの頬に一筋の涙が伝う。


「だ、大聖女じゃなくなっても、私の手の届く範囲の人を私の力で笑顔にしたい、です。大聖女だった時、自分の魔法でみんなが笑顔になってくれるのを見るのが何よりもうれしかったんです。だ、だから、たとえ教会に認められなくっても困ってる人に奉仕していきたい、です!」


 そんなミモザの告白を聞いた瞬間。あたしとママは顔を見合わせて、ついぷっと小さく噴き出しちゃう。


「修道女でもシスターでもないのに奉仕活動をしたいなんて、ミモザってほんと根っからの聖女さま、って感じだよね」


「闇医者ならぬ闇神官、かな。教会にバレたらちょっとへそを曲げそう。ミモザちゃん、ちょっと悪い子だね」


「……ダメ、ですかね?」


 自信なさげに尋ねるミモザちゃんに、あたし達はゆっくりと首を横に振る。


「そんなことないよ。すっごく素敵で、ミモザらしいと思う! 教会なんて気にしない気にしない!」


「ええ。これからはミモザちゃんの能力(チカラ)と優しさを、もっと他の人のために使ってあげて。わたしはもう、大丈夫だから」


 そこでいよいよ我慢できなくなったのかミモザの目からとめどなく涙が溢れ出す。そんなミモザのことをママは優しく抱きしめる。ママの袖を涙で濡らしながらも、そんなミモザの表情は未来ですら見たことがないように晴れ渡った笑みを浮かべていた。


 いつもだったらママの腕の中は()であるあたしの特等席! って割り込むところかもしれないけど、今、この瞬間だけはミモザに譲ってあげようかな。そんなことをあたしが考えていた時だった。


「ほんと、レイナさま達親子は女たらしですよね」


「えっ、なんでこのタイミングで罵倒⁉」


 隣にいた未来のミモザのいきなりの罵声に、あたしは思わず飛び上がりそうになっちゃう。戦闘を終えたあたしとミモザは降霊魔法を解除してあたしと分離してたんだ。


 何か言い返してやろう。そう思ってミモザの方を振り向く。でも、そんなミモザを見たとき、言おうと思っていた言葉は言う前に頭の中から消えてしまった。なぜなら、未来のミモザの体は、これまで以上に薄っすらとしてたから。そしてそんなミモザは、この時代の幸せそうな『自分』を見て、目元にうっすらと涙を浮かべていた。


「ミモザ、身体が……」


 あたしの震えた声にミモザは手の甲で涙を拭いながら答える。


「気づいちゃいましたか。肉体が滅んでから8年間も成仏できずにいて、レイナさまと25年前の世界までやってきちゃった私にも、ようやくお迎えが来ちゃったみたいです」


「お迎えってなんで……ミモザはあたしが幸せになるのを見届けてくれるって約束したじゃん! あたしのことが気がかりで死ぬに死ねないって言ってくれたじゃん!」


「自分でもそのつもりでした。今でもレイナさまのことは気がかりです。でも――この時代の私が救われたことで未来は変わっちゃったんです(、、、、、、、、、)。もともとの歴史ではこの先25年間、たとえリコッタさまの病気が治ったとしてもリコッタさまに対する私の罪の意識は消えず、一生かけてリコッタさまに贖罪をしていくはずだった。


 でも、今の『私』は罪を許されて、それどころか自分自身が幸せになるための人生を歩むために背中を押してもらっちゃったんです。だからこの瞬間、この先リコッタさまの旅に付いていって罪を贖い続けてきた『未来の私』という可能性自体が潰えたんです」


「……そっか」


 そこであたしは自分が何をしたのかに気づいた。

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