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第13話 聖女の告白

 わたしに残された時間はあとたった2週間。


 そんな衝撃的な事実を突きつけられて、普通の感性を持ってる女の子なら取り乱したりするところなのかも。でも、そんな「普通の反応」とは対照的に、妙に冷静に分析している自分がいた。


 パーティーの直前に嘘みたいに体調がよくなったのはよく考えなくてもおかったんだ。その直前まではこれまで生きてきた中でも一番酷いくらい、一晩中咳き込んだりそれはもう酷い有様だったんだから。それこそ寿命と引き換えに起こした奇跡でもない限りありえないような、急激な回復の仕方だった。


「その奇跡の結果得られたのは、悲しみと絶望だけでした。奇跡を起こしてまで出席したパーティーで、リコッタさんは最悪の形で最愛の人から裏切られました。最初からリーフフェルト殿下達はリコッタさんをありもしない罪で糾弾して、婚約者の地位を奪おうとしてたんです。


 ミラドルチェ王家が、そしてそれに結託していたパトラリカ公爵家がどれだけ細かくリコッタさんの余命を把握していたかはわかりません。だから、そんな奇跡を無理やり起こしたらリコッタさんがすぐに死んじゃうことまで織り込み済みで、私に魔法を使わせたのかは分かりません。


 でも、王家と公爵家はリコッタさんを捨て駒にするつもりで、捨てるためだけに私にリコッタさんに対して魔法を使わせたのは間違いない。そんなあんまりなことに、私は手を貸してしまったんです」


「……」


「そして教会はそんなミラドルチェ王国の思惑も、そしてリコッタさんの病が毒牙の陸冥卿によるものだということも、全て把握していました。全て知っていて、教会は私にリコッタさんの死を早めさせたんでです。そして私に魔法を使わせた直後。教会は私に罪のない公爵令嬢の後わずかしかない余命を誤って削り取ったという取り返しのつかないことをしたと喧伝してまわり始めました。目障りになり始めていた私を社会的に抹殺するために」


 そう語るミモザちゃんは、気づけばまた自虐的な表情を浮かべてていた。


「今から思い返せば、散々わたしのことをいいように利用してきておきながら、教会はいつしか大聖女である私のことを疎ましく感じてたんでしょうね。


 教会からすれば、人々の信仰は神や教皇に向かなくちゃいけない。私達大聖女は神を『信じさせるための駒』でしかない。でも、私が精霊系魔法の【奇跡】で救済した人々の一部は神様でも教会でもなく、いつしか私個人を神格化し、崇拝するようになったんです。私は尊なこと望んだり頼んだりしたわけじゃないのに。


 それが、教会にとっては目障り以外の何者でもなかったんでしょう。当てつけもいいところですけど……。だからきっと、彼らは私を嵌めて取り返しのつかない罪を犯させて追放する機会を、じっと窺ってたんです。


 そして私はリコッタさんに精霊系魔法を使った直後、聖職者なのに人の、しかも貴族の寿命を奪うと言う禁忌を犯したと断罪され、教会裁判にかけられました。殆ど弁護もない杜撰な裁判の結果、私の聖職からの追放と死刑が決まりました。があっさりと決まりました。その処刑の直前で、私はこれまで信じて疑わなかった教会がいかに醜くて、彼らに捨てられたことに気づきました。


 それからは無我夢中で逃げて、ここまで辿り着きました。でも、教会を抜け出したってリコッタさんにしてしまったことの罪悪感が消えるわけじゃない。それはいくら逃げ延びた先で慈善を働いても埋められない。私は破聖職者どころか、人殺しです……」


 俯きながら自分を責め続けるミモザちゃんの姿はとてもじゃないけど見てられなかった。だから気づいた時には


「勝手に殺さないでよ!」


と声を荒げてた。


 いきなり大きな声を出したわたしに驚いたミモザちゃんはハッとしたように顔を上げる。そんなミモザちゃんのことをわたしは自然と抱き寄せる。


「ほら、わたしはちゃんとここにいるでしょ? わたしの熱を感じるでしょ? 今、あなたの目の前でわたしは生きてるよ? だから、ミモザちゃんが責任を感じることなんてない。それに、聖職者失格なんて、そんな寂しいこと言わないでよ。だってミモザちゃんはわたし達が行き倒れそうになった時、これまでの貴族からの酷い仕打ちとか関係なしに、わたしに手を差し伸べてくれたじゃん。その聖職者としてのミモザちゃんの慈悲に、わたしは救われたんだよ?」


「それは相手がリコッタさんだったからで! 自分の罪悪感を少しでも減らすためで……」


「そんなことないよ! あの時、ミモザちゃんならたとえ相手が誰だろうと困ってる人・苦しんでいる人を見捨てたりしなかった。そんな慈しみの心が、聖職者として間違いなわけがない。だから、教会なんかに破門されたとか大聖女じゃなくなったとか関係ない! ミモザちゃんは今でも、正真正銘の慈愛に満ちたシスターだよ。だから、そんな風に俯かないでよ……。女の子にそんな表情されるとわたしも辛い」


 下心でなく、心の底からそう思う。


「でも……わ、私はリコッタさんからただでさえ残り僅かな寿命を奪ったんですよ? そんな私が、リコッタさんは憎くないんですか?」


 必死に訴えるミモザちゃん。今のミモザちゃんは自分が許されていい訳がない、というある種の被虐さを感じた。それに対してわたしはゆっくりと首を横に振る。


「誰かを恨んだりすることなんてないよ。だってわたしはとっくの昔に長生きすることなんて諦めてたから。むしろ、これから先は誰とも話すこともできずベッドの中で過ごすのかな、と思ってたから、寿命と引き換えにでも、最後にこうやって元気に誰かとお話しできる時間をくれたミモザちゃんには、むしろ感謝してるんだよ?」


「なんで私なんかにそんな優しくしてくれるんですか……?」


「わたし、もう何年も前から死ぬ覚悟ができてるんだ。もう何度も生と死の境をさまよったことがあるから。だから、具体的な寿命を聞かされてちょっと驚きはしたけれど、今更あと1年だったものが2週間になったとか言われても、誰かを憎んだり悲しんだりしないよ。だからミモザちゃんが責任を感じる必要なんてない。わたしはそれを、ありのままのこととして受け入れるだけだから」


 わたしにとってそれは偽らざる本心だった。でも、自分を強く責めたままのミモザちゃんはそれじゃ納得できないみたい。


「そ、そんな! リコッタさんはもっと生きてやりたいこととか、人生でやり残したこととかないんですか? 私はそんな風に許されていい人間じゃないんです……。だからせめて、人生でやり残したこととかありませんか? そんな事程度で私の犯してしまった罪は埋め合わせられないってことくらいわかってるけど……せめて何かさせてください。お願いします……」


 それはもはや懇願だった。そんなミモザちゃんにわたしはちょっと戸惑いながらも頭を捻ってみる。


「うーん、別にいつ死んでもその時はその時だと思っちゃうかな。アノンちゃんとの結婚……はもう諦めてるし。だとすると他には……あ」


 その時、レイナちゃんの顔が頭をよぎる。


 ――もし、もしまだ時間が許すなら、せっかくこの時代にやってきたレイナちゃんにもっとこの世界の素敵なものを見せてあげたかったな。まあわたしも人生の殆どをベッドの上から過ごしてるからよくわかってないんだけど。


 そう思い至ったわたしはミモザちゃんにやってほしいことを思いついてにやり、としながら言う。


「ほんとにミモザちゃんのことは恨んだりしてないけど……そこまで言うならあと二週間のうち、1つだけ手伝ってほしいことがあるんだ。それは、世界をあまり知らないわたしだけじゃできないことだから」

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