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第10話 レイナの告白とリコッタの決意

 何時間ぐらい眠っていたんだろう。


 目を覚ますとわたしは、真っ白なワンピースに着替えられて簡素なベッドの上で寝かされていた。


 起き上がろうとすると右手が誰かにぎゅっと握られてるのに気づく。見るとわたしとお揃いのシンプルな白ワンピースに着替えたレイナちゃんが別途脇の椅子で小さな寝息を立てながらも、ぎゅっとわたしの手を握りしめてくれていた。まるでわたしのことを護ろうとしてくれているように。


 そんなレイナちゃんを見た途端、嬉しさと安堵感で自然と顔が綻ぶ。するとさすがに気が付いたのかレイナちゃんが眠そうに瞼をこすりながらゆっくりと目を開ける。


「ごめん、起こしちゃったみたいだね」


「むにゃむにゃ……ってママ、目を覚ましたの⁉︎ よ、よかったぁ」


 わたしが起きたと分かった瞬間。レイナちゃんは目元に涙をいっぱい貯めたままぎゅっとわたしに抱き着いてくる。


「ママが死んじゃって、また独りぼっちになっちゃうんじゃないかってあたし、心配で心配で……」


「死ぬなんてそんな大げさ……って、『また』ってどういうこと?」


 私のふと口にした疑問にレイナちゃんは目元の涙を手の甲で拭いながら答える。


「そういえばママにはまだ断片的にしか話してなかったね。あたしがつい昨日まで一人で生きていた未来の世界――終末世界のこと」


 ――また『未来』の話、か。


 そんな考えが一瞬わたしの頭をよぎる。


 これまでのレイナちゃんの話をわたしは話半分に受け止めていた。あとたった25年で世界が真冬のように寒くなるなんてありえない。何より、未来からやってくるなんて、そんなこと世界最強の定義魔法だってできるかどうかあやしいぐらいの、人知を超えた奇跡レベルの出来事。しかも、唯一可能性のあるレイナちゃんの定義魔法は時間干渉とは全く無関係なものときてる。


 だからこの時も最初は、レイナちゃんの話は話半分に受け流すつもりだった。なのに。


 ぽつり、ぽつりと語り始めるレイナちゃんはこれまでのどこか抜けたところのあるレイナちゃんとは違うしっとりとした雰囲気を纏っていて、気づいたらわたしはレイナちゃんの話に聞き入っちゃっていた。


 生まれたときには既に「魔王」によって世界が滅ぼされていたこと。育ての親代わりのお姉さんを除いては他の人に会ったことがないこと。そして育ての親代わりのお姉さんの死後、終わりゆく世界にたった一人取り残されて、それでもまだ世界には生き残りがいるんじゃないかと信じて、その生き残りと友情や愛情を育むことだけを心の支えにして、何年もたった一人で荒廃した世界を彷徨っていたこと――。


「だからミモザーーあたしの育ての親代わりの人の幽霊にこの時代に連れてきてもらった直後に、ずっと会いたいと思っていたママに会えたことは運命だと思ったんだ。あたしのことを早々にひとりぼっちにして勝手に死んじゃったママには言ってやりたいことも沢山あったけど……実際にママのことを一目見たら、そんなのどうでもよくなるくらい嬉しさがこみ上げてきた。これまでの十六年間離れ離れでいた分を埋め合わせられるぐらいに、これからは同じ時間をママと共有したい。そう思ってた。なのに――ママに会って早々、ミモザみたいにあたしのことを置いて遠いところにママが行っちゃうんじゃないかって、すごく不安だったの」


 遠いところを見るような目になってレイナちゃんが言う。そんなレイナちゃんはいつものお茶らけたレイナちゃんとは別人のような、レイナちゃんが時たま見せる表情だった。そんなレイナちゃんに、あたしは何を言っていいか分からなくなる。


 そんな雰囲気を読んだのかな。


「ってごめんごめん。こんなしんみりした空気はあたしには似合わないよね。今のなーし!」


 無理やり雰囲気を変えるように唐突に明るい声をだすレイナちゃん。そんなレイナちゃんがどこか無理をしているようにわたしの目には映って、わたしは思わずレイナちゃんの服の裾をぎゅっ、と掴んじゃう。そんなわたしの不可解な行動にレイナちゃんはきょとんとする。


「??? ママ?」


「あっ、えっと、これは、その……」


 ――やっちゃった……。


 顔から火が出そうなほど熱い。でも、もうやってしまったことは取り消せない。そう腹をくくったわたしは意を決するように深呼吸をしてから、レイナちゃんのことをまっすぐ見据える。


「あのね、レイナちゃん。正直、レイナちゃんが話してくれたことを全部信じられたわけじゃない。特にわたしがレイナちゃんのママだなんて今でも受け入れられたわけじゃない。でも――わたしの前ではそんなに無理をして笑わないでほしい、かな。レイナちゃんが無理をしないでいられるのがママの前だけならわたしがそのママになってあげるから。――だってあたし、レイナちゃんのママなんでしょ?」


 ちょっとかっこつけすぎちゃったかな、そんなことを思っていると。


 今度はレイナちゃんがぎゅっとわたしのことを抱きしめてくる。目覚めた直後よりも少しだけ強く。


「…‥じゃあ、これまで甘えられなかった分、こんな風に甘えてもいい?」


 上目遣いでわたしのことを見上げながら、恐る恐る、と言った調子で聞いてくるレイナちゃん。そんなレイナちゃんに対する愛おしさで胸がいっぱいになってくる。そんなレイナちゃんの銀髪を、わたしは自然と撫でていた。まるで娘をあやすかのように、優しく。


「わたしなんかでよければもちろん」


「赤ちゃんの時にできなかったし、ママのおっぱい吸っていい?」


「うん、いい……ってそれはダメだよ⁉︎ 少なくとも今のレイナちゃんとわたしはほぼ年が変わらないんだからビジュアル的にへんなプレイしてるように見えちゃうし、今のわたしの胸からは何も出ないから⁉︎」


「あはは、冗談だよ、冗談。女の子が大好きなママじゃないんだし」


 そう言っていたずらっぽく笑うレイナちゃん。レイナちゃんが言うと冗談に聞こえないんだけど……抗議の意味を込めてむっとした表情でレイナちゃんのことを見つめてみるけど、当のレイナちゃんは全く気づいてないみたいで


「あっ、夕陽!」


とわたしのことそっちのけで窓の外を指差す。


 その先には茜色の日が今にも水平線の下へと入ろうとしていた。目を輝かせながら夕陽を見つめる無邪気なレイナちゃんのことを見てると、レイナちゃんに揶揄われたことなんてどうでもいいか、という気になってきちゃう。


「綺麗……。この世界にはこんな綺麗な風景があったんだ」


「そう言えば、レイナちゃんは夕陽を見るのはこれがはじめてなんだっけ」


「うん! あたしかいた世界では既に太陽が死滅しちゃってたから朝も夜もなくて、ずっと空は暗いままだった。だから空がこんなに様々な色彩を見せてくれるものだなんてこれまで気づかなかった」


 暮れゆく日差しを凝視したまま少し興奮気味に語るレイナちゃんに、なんだかこっちまで嬉しくなってくる。


「レイナちゃんがこれまで生きてきた世界がどんなに酷いところだったのか。それは、わたしには想像することしかできない。でもきっと、この世界にはもっとたくさん、美しいものや美味しいものがあるよ」


「本当?」


「うん……って言っても、わたしも生まれてから、ほぼベッドの上で過ごしてきたからあまり詳しくは知らないんだけどね。でも、これから二人でこの世界で美しいもの、綺麗なもの、素敵なものをいっぱい見つけられたら素敵かな、と思って。レイナちゃんはせっかくこの時代に来れたんだし」


「それ、すっごくいいね!」


 満面の笑みで同意してくれるレイナちゃん。そんなレイナちゃんのことを見ながらこの子にこれからも沢山、こんな表情をさせたいな、なんて思っちゃった。それはこれまでアノンちゃんに与えられてばかりだったわたしにははじめて芽生えた感情だった。


 ーーそのためには早く病気を治して、もっと物理的に強くならなきゃ。レイナちゃんのことをいつまでも見守ることができるように。


 そんな決意をわたしは心の中でした。


 でもそんな淡い願いさえも今のわたしでは叶わないことを、この時のわたしはまだ知らなかった。

 ここまでお読みいただきありがとうございます。ミモザ編に入ってからも割と尺を使ってレイナとリコッタが思いを通わせていくシーンを描いてきましたが、今回、リコッタに目標ができたのでこれまでの1つのハイライトとなったのではないかな、と思います。

 次回からはリコッタの病弱設定について触れていきますので、よろしければお付き合いいただけますと幸いです。

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