9
それから。
寮の執筆部屋は引き払う事になった。
理由は正体がバレてしまうのを防ぐため。
代わりに私は王宮図書館の一室に実家にも内緒の執筆部屋を与えられた。
こんな特別待遇が許されるのかと恐縮していると
アルフレッドは気まずそうに話してくれた。
王妃であるクロディーヌ様は氷の令嬢と呼ばれるほど聡明なお方だ。
しかしながら一方で、学生時代から彼女の才能を買い何度も出版を持ちかけてきた命知らずが居たという。
それが私の友人、マリアンヌの母親であるというのだ。
何度も何度も学生時代にロマン小説を書くようにと口説かれ、出版された本は瞬く間に売り切れ続出となった。
劇や演奏会でイメージの曲が作られるほどとなった。
私でも知っている乙女の聖書の作者、その正体が彼女だった事に相当なショックを受けた。
「……というわけで、王妃も同じように素性を隠して作家をしているので、君が心配することは何もない。」
「は、初めて知りました……」
「うん、王宮の一部の者しか知らないからね。」
「え……わたくしが聞いても良かったのでしょうか?」
私は目を瞬きながら彼を見つめる。
優しいエメラルドがすっと細められて彼が私の頬に触れた。
「大丈夫、知ったからには絶対王妃になってもらう。」
「もう………仕方ないですわね」
昼下がりの執筆部屋で私たちは微笑み合う。
そう遠くない未来を語り合いながら…
―END―