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引き留められたことに驚くアルフレッド様へと、ぎこちない、触れるだけのキスをした。
離れようとしていたアルフレッド様がピシッと固まる。
「私、初めてお会いした時から…アルフレッド様のことを…でもアルフレッド様は皇太子で、民を皆平等に愛してらっしゃるでしょう?そして私にも皆様と変わりない愛情をくださいます。」
自分で言っていて段々と悲しくなってくる。
「それが強欲な私には悲しくて、殿下は国を守る仲間だと、そう考えるようにしたのです。この不埒な想いは想像に留めて、今世の愛などは割りきろう、と。それが国の為だと思いましたから。」
「そんな――」
「でも、己を律することで日に日に辛さは増していきました。そこでこうして文字に思いをあてることで何とか体面を取り繕ったのです。」
「確かに、王族教育ではそう言われるが……愛情や恋は確かなものではない。ならば国の根幹である王族夫婦は国政を全うするためのチームのような関係であれ、と。」
「はい、それと同時に物語を紡ぐ楽しさにどうしても抗えずつい本日まで来てしまいましたが、こうして殿下まで素性が割れてしまったとあればそのうち他のかたも気づかれるかもしれません。」
「…既にエウルアの書く小説は学院内でも大きな影響力を持ち始めている。どうにかして作者をつき止めようと言う動きがあってもおかしくはないな。」
「そして万が一、未来の王妃がロマンス小説の作者という俗な人間であることがバレてしまえば威厳がなくなってしまいます。これから書かないようにしてもすでに出回ってしまったものについてはもうどうしようも無いですし、『学園のクピド』は恋多き女と言われております。殿下に不名誉があってはなりません。」
「まさか、エウルア……!?」
「殿下、どうか私に婚約破棄を言い渡してくださいませ。」
殿下の瞳を見つめながらキッパリと言い放った。
言いきったは良いものの目頭の奥が熱く、込み上げてくる。彼を見ていると今にも泣きそうで少しだけ目線をそらす。
「言いたいことはそれだけか?」
ふと暖かな親指が私の目元をぬぐった。
こくりと頷くと彼は優しい声で語り始めた。
「エウルア、私には君以外考えられない。」