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階段を上る途中、私はどうしたらこの状況を乗り切れるかだけを考えていた。
255号室、すなわち私の執筆部屋はマリアンヌの部屋の隣にある。
彼女の寮室は254号室だけど、ドアには255のプレートがかかっている。
万が一の事態を予測してマリーが機転を利かせてくれているのだ。
251……252号の前を通りすぎた時、さりげなくアルフレッド様に話しかける。
「ああ、そういえばアルフレッド様はこちらの絵画はご存じですか?」
「絵画、あぁこの画家は確かわが校の卒業生だね?」
253とマリーの部屋の間、はす向かいの壁にかかった絵画へと視線を誘導し、番号が飛んでいるのをごまかす作戦だ。
「はい、私このかたの絵画が大好きで。マリーの部屋へ遊びに来るときはよくこれを眺めますの。」
そうして視線を誘導してから
「…着きましたわ」
255号室――本当は254号室だけど――に到着する。
部屋の表札にマリアンヌの名前がかかれている。
「殿下は勘違いしてらっしゃいます、私はずっとこちらのマリアンヌの部屋へ遊びに来ていただけなのです。」
「ほう、でも彼女はは不在のようだが?」
「昨日お邪魔した際に忘れ物をしてしまったのです。…ほら、鍵も貰ってますし、午後使う教材なので取りに向かっていただけですわ。」
心臓を無理やり押さえつけながら嘘をついていく、完璧な笑顔に隠されて彼の表情からは何も読み取れない。
「なるほど。でも、君が通っているのはここじゃないよね」
「な、何をおっしゃっているのか……」
背中を冷たい汗がつつーっと伝って体感温度が3度ほど下がった気がした。
「255号はここじゃないでしょ?」
私は彼にエスコートされたまま蛇に睨まれた蛙の気持ちを存分に味わった。
終わった……
さすがの私も観念して本物の255号室へと歩き出したアルフレッド様におとなしくエスコートされた。