002.「 最悪の魔法使い 」
3.魔法使いの逆転劇【第0章】- episode of zero -
〈第2話〉『 最悪の魔法使い 』
拝啓、お母さん。私、ようやく夢だったエリートになれたよ。これから魔法の勉強も頑張って、沢山出世して、魔法使いとしての等級も少しずつ上がっていけると思ってたの。
私、今日まで凄く頑張った。エリート魔法使いを輩出する名門の学校を飛び級で卒業したし、大魔法使い様にも掲示をいただいた。
なのに、なのに‥‥‥‥。
「私、さっきクビになったぁぁぁぁぁぁ!!!」
私はその日、アルカディアの都市を子供のようにワンワンと泣きながら歩いた。正直、その時の私は周囲の目とか気にしている暇は無かった。
「あぁ、あぁ、ぁ、どうしよう‥‥‥。私、もう生きていけない。ほんと付いてないよぅ。」
そんな事を思いながら、私はふと社長から手渡された地図の場所に目をやった。
そこはアルカディアの中でも辺境の土地、この国で最も治安の悪いト・ランド地域だった。
「グス……社長は私にこんな場所へ来るように指示したのはなんでなんだろう……。こんな野党が屯するようなスラム街で私死ねって事なのかな……?こんな可愛くて美少女でエリートな私を……???どうして。」
私は社長に手渡された紙に記された住所を涙で曇る目で眺めていた。すると前方不注意と言わんばかりに私の頭は何か固くて柔らかい筋肉的なモノにぶつかった。
ドン!!!
「わっ!!!」
ボソボソと独り言を言っていると、前に居たガタイのいい男と思いっきりぶつかってしまった。
「イッテテ……おい、ごら‼︎いてぇじゃねぇか嬢ちゃん。」
「ヒィィィィィイイイイイイ!!!!」
男の容姿はいかにも屈強で、体のガタイは大きく、色は色黒で、体中にタトゥーまみれ、見るからに頑固そうでコワモテな超超超ヘビー級の筋肉モンスターだった。
「いやぁあぁぁあああああああああああ!!!!!」
私はその時悟った。
———あぁ、私、今日死ぬのね。この男にボコボコにされるか、バラバラにされるか、分からないけれどきっと私長くないわ。もうどうしてこんな事になったのかしら。
エリートの中のエリートであるこの私が、ついでに超超超かわいいこの私が、まさかこんな野蛮な人に撲殺もしくは乱暴されてしまうだなんて……。
その時、私は走馬灯のように過去を振り返っていた。
しかし、その男の存在はそんな甘い妄想すらも打ち破る程怖い見た目をしていた。
すると次の瞬間、ぬぅっっっっっと男が私の顔を覗き込む。
「いー!!!!やーーーーーーー!!!!!!!!!」
「テメェ、さっきから叫びやがっていちいちウルセェんだよ。いい加減にしやがれぇ!!!ぶつかっておいて謝りもなしかぁ?!?!自分は魔女だからって調子に乗ってんのか?!よぉし、一発殴らせろ!!」
男はついに私の胸ぐらを掴み、大きく手を振り翳した。
私はその手を見ないように視線を逸らし、12時の方向を眺めながら叫ぶしか無かった。
「いいいいいやぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」
叫ぶのも束の間、辺りには人々がぞろぞろと集まって来ている。そんな中、私は1人のまるで王子様のようなゴージャスな風貌の男性と目が合った。
「………………あ、あ。」
するとそこで目に映ったのは、チラリとこの光景を横目に本を読んでいる裕福そうな一人の男だった。
その瞬間、一瞬の静寂が訪れる。
もしかしたら、この高貴なイケメン……じゃなかった……この高貴なお方が私の美貌に惚れちゃってぇ、代わりにこの屈強な男に金銭を渡して助けてくれるんじゃ?!
もしくはもしくは、このお兄さん……じゃなかった……この殿方が代わりに哀れな私を助けて戦ってくれるのでは???!!!
……と淡い期待を寄せるのだが。
「あ、うぃーすうぃーす。お疲れ様です〜。あ、ちょっと通りま〜す。すんません。あ、通りま〜す。」
そう言って、その男はそそくさと歩いて行ってしまった。
( ᷇ ᵕ ᷆ ꐦ)ピキ……
「ちょっと待てやゴラァ!!!!!!!!今なうで目の前に哀れな女の子が男に襲われてんだぞ?!助けに来いやぁぁぁ!!!」
思わず私はその場でそう言ってしまった。しかし、その怒りを抑えられるはずもなく、私は続けてこう言った。
「おぉーい!!!おめーだよ!おめー!!!何シカトぶっこいてんだゴラァ!!!さっき私と目があったわよね???よね???なに私のこと見なかった事にして通行人演じてんだって聞いてんだゴラァ!!!さっさと助けなさいよおおお!!!」
「なんだこの気持ちわりぃ女、さっさと帰ろ。」
「あら………………?」
気が付くと屈強な男も一人で帰っていった。私の姿を見てか、怯えてか、周りにいる人達も誰も目を合わせようとはせず、ただその場の風景に溶け込んでいるのみであった。
その場に取り残された私は、なんともまぁ、憐れというか惨めというか、とにかくなんか可哀想な自分が恥ずかしくなった。
「……………………はれぇ?!!!」
何はともあれ窮地に一生を得た私は、指定された住所まで向かう事にしたのだった。
◇
「こ……ここね。」
道中色々ありつつも、私は指定された住所までやって来た。
そのお屋敷にはまるでヴァンパイアでも住んでいそうな外見で、一見するととても広くお金持ちの伯爵様が住んでいそうな様子だけど、まるで呪いの洋館と言わんばかりに圧倒的な負のオーラを纏っているお屋敷だった。
庭から続くレッドカーペット。そして格式張った如何にもなゴシック建築に、昼だというのに怪しげに光っている灯篭。まさに魔女の死場所にはうってつけの場所のように思えた。
「あぁ、私の運命に神のご加護があらん事を……」
ここでの運命に緊張感を走らせていると、私は黒い表札を発見する。
よく見てみるとそこには、『魔術結社M3(マジック・マジカル・マジメナノサー・佐々木 隼次郎 荒衛門 幸之助ノ墓)』と書かれあった。
「うん、意味が分からない。西洋と和のコラボレィション?!うん、ワケが分からないわ。とにかく入ってみるのよ、レポア・ルー・ルイス。この意味の分からない場所へ派遣された私にはもうここしか残って無いのだから。」
私は手のひらに『人』と3度書き、それを飲み込んだ。
そして、汗握る拳を握りしめ、お屋敷までのレッドカーペットを少しずつ渡っていく。
「もう既に帰りたいけど、我慢よ我慢。私はエリート。そしてかわいい。こんな場所に相応しくない……じゃなくて、私はここでもう一度自分のキャリアを復活させ、大魔法使いになるのよ!怖いのは最初だけ。怖いのは最初だけ。いつか王子様が迎えに来てくれる………………。私は信じてる。」
ついに目の前には大きな鉄の黒い扉が2つ並んでいた。
まるで中世のお城のような造りに戸惑いを覚えつつ、ついに私はドアベルを鳴らす。
コンコン
2回だけ優しくドアを叩いた。私の涙腺はもう既に恐怖と後悔により泣きそうである。
「…………あ……あのぉ〜。すいませぇ〜〜ん。こんにちわ〜。」
声が震えて上手く発声できない。こんな時に怖がっている場合か……。クライアント様に第一印象を良いイメージで抱いてもらわないと……。
私は手をギュッと握りしめて、大きな声で訪問した。
「ア……アーティファクト・プライスから来ました。魔法使いのレポア・ルー・ルイスです!社長からココへ伺うように仰せつかっております。どうか、一度名刺だけでも、とゆか、ドアを開けて頂けませんでしょうか……?」
そう言い放つと、私は口に溜まった唾をゴクリと音を立てて飲み込んだ。一体どんな主人がやって来るのか??ドアが開いた瞬間私は食べられてしまうのだろうか?!
そう思いつつも、私は恐怖のあまり目を瞑ってしまった。
その時だった、どこからか落ち着いた音色でハープが奏でられているのが耳に入った。その音楽はとても安心感に満ちており、とてもうっとりしてしまう程の音楽だった。
「……ハープ??」
すると先ほどまで固く閉まっていた鉄の扉がガチャリと音を立ててゆっくりと開き始めた。その扉の先から神々しい光が溢れて始める。
そして少しずつ主旋律にヴァイオリンの音が重なり、その音楽は勢いを増した。
おっとりするような音楽に心が潤いながら、その扉の向こうの存在が目に映った。安心感に包まれたその先に、Y字の階段とこの館の主人の大きな額縁に入った絵画が飾られている。
そして、その階段の先に、1人の高貴なイケメンがヴァイオリンを片手にする姿が目に映った。
「……あ……あなたは……!!!!!」
その男は大きな素振りで黒いマントをヒラつかせ、私に対して大声で挨拶を始めた。
「ようこそ。闇の世界へ。俺は魔術結社M3の主にして社長、ティリエル・ガブ・ティルエである!!!」
そして男は怪しげに光る水色の瞳と、体中に身につけた金色のアクセサリーをギラつかせながら、派手に着飾った大きなマントをヒラリと靡かせ、黒色のヴァイオリンの矢を床に一度トンと音を鳴らして置いた。
「お嬢さん、お困り事があれば、俺にいつでも相談して来な。」
男は窓から差し込む光を背に、私にそう言った。
高貴な衣服に紳士な振る舞い。そして何より、整った顔つき、男性にしては少し長いくらいの深い青の髪色。長く伸びたまつ毛。そして黒色で手入れされた爪にシミひとつない真っ白なシャツ。
その時の私は当初キラキラとした目で彼を眺めた。
そりゃ確かにイケメンで背も高くて、彼のその紳士的かつ魅力的な容姿やカリスマ性は認めるわ。
けれど、その幻想はすぐに打ち砕かれる事になる。
そう、これが俗に言う私と“最悪の魔法使い”との出会い。
魅惑の瞳がダイヤモンドのように輝き、気がつけばハープとヴァイオリンの音色は神秘的な音色を奏でていた。
そう、コレが、コレこそが、“世界最強にして最悪の魔法使い”と私が最初に顔を合わせた瞬間なのである。
最後まで読んでいただき、
誠にありがとうございました。
今後とも、
この作品を完結まで描き続ける所存であります。
もし少しでも良いと感じられましたら、ブックマークやコメントなどお待ちしております。
また、アドバイスやご指示等ございましたら、そちらも全て拝見させて頂きたく思います。




