000.「 創生と神話の一欠片 」
00.魔法使いの逆転劇「 創世と神話の一欠片 」
それは元々一冊の本だった。
あれは12年前、爺ちゃんが俺に聞かせてくれた話。
世界には最強を謳う魔道士や剣士達で溢れていた。
誰もが自分を最強と信じて疑わず、そんなくだらない事で国々が争い敗れ、世界には暗黒時代がやって来た。
しかし、そんな中、唯一自分の無力さに悲しみを覚え、最強を夢見る少年が居た。
それが童話の主人公、エデン・グラ・ヴェオレンスだ。
爺ちゃんはいつもその名前を口にする時、ニッコリと微笑んで俺に聞かせた。
俺はそんな爺ちゃんの顔を見るのが大好きだった。
その主人公は、最初は負けっぱなしの弱虫だけど、少しづつ強くなっていって、最終的には世界を救う救世主になるんだ。
俺にとってその主人公は憧れだった。
そして何よりも、爺ちゃんが主人公の名前を呼ぶ時に見せる、あの満足そうな顔が目から離れなかった。
俺も爺ちゃんに笑顔で名前を呼ばれたい。
そう思った矢先、俺は毎日魔法の修行を行った。
しかし、どうやら俺には、生まれつき魔法の才能があったようだ。
俺は何の努力もせず、無詠唱で全ての魔法を使いこなせた。それも6歳の時に。
普通なら大人が半年かけて取得する高度な魔法も、俺はパッと想像するだけで出来てしまう。
それを見た大人達は心底驚いていた。
有名な魔法学の教授や、大魔法使いと呼ばれる“メルファザード”達に「天才」と喜ばれた。
両親からは大きく賛美され、まるで世界が俺中心に動いているかのような状況だった。
誰もが俺の才能を羨み、妬み、喜び、そして尊敬した。
しかし、俺はそんな自分が大嫌いだった。
俺はあの本に出てくる主人公のように、少しづつ苦難を乗り越えて成長していきたかった。
いっぱい努力して、心が折れそうなくらい鍛錬して、ようやく魔法を取得できると思っていたのに。
そうすれば爺ちゃんも俺を褒めてくれただろうに。
俺が天才だってさ。笑わせるな。
そんなモノになりたくてなった訳じゃない。
辞められるのなら辞めてしまいたい。
そんな気持ちとは裏腹に、俺の魔法の才能はどんどん伸びていった。
8歳になると、天災級の魔法は一通り使いこなせるようになっていた。
しかし、俺の心はずっと満たされないままだった。
そんな事を思っているうちに、爺ちゃんは俺を残して死んでしまった。
ずっと病気を隠していたのだ。
医者が言うには、最近巷で流行り始めている病らしい。
爺ちゃんは俺に本を残して召されて行った。
最後まで、俺の名前を呼んではくれなかった。
努力すればするだけ、俺は周りから“天才”だの“選ばれし者”だのって口裏を合わせたかのように褒められる。
なんて不愉快な話だろう。
俺はその日、爺ちゃんが目を閉じた瞬間に街を抜け出した。
魔法を全て使えるのだから、家に縛られる必要は無いと考えたのだ。
爺ちゃんがいつも読み聞かせてくれた童話を手に、俺はその日から、
たった1人の旅を始めたのだ———。
最後まで読んでいただき、
誠にありがとうございました。
今後とも、
この作品を完結まで描き続ける所存であります。
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