見えない援護
交差点の真ん中に膝立ちで倒れ込んでいるレガシーヴァイパー。
そして、それを真横からヴァイパーのスクリーン越しに見つめるシルヴィア。
初めての実戦。アドレナリンのせいで後から手が震えてしまうが、落ち着かせる為に深呼吸しながら呟く。
「サテライトリアクターの停止を確認……」
残すはナショナルズ・パーク付近にいるアイマン機と、アンドルーズ基地近くで緊急即応部隊と戦闘中のブライアン機。
緊急脱出したニコはパラシュートを開きながら降下しており、捕まらない為なのか、直ぐビルの陰に隠れていった。
「リーナ、パイロットの一人が緊急脱出してキャピタルパークタワー付近に降下していったわ。直ぐに地上班を向かわして確保を。無理なら地元警察に応援要請を」
『分かったわ。それとシルヴィが助けた兵士、今さっき救護ヘリで病院に送られたよ。衛生兵の話だと命は助かるって』
「そう、良かったわ」
助かると聞いてホッとするシルヴィア。
メイヤは助けられなかったシルヴィアには幾ばくかの慰めになるからだ。
操縦レバーを握る手に残る……メイヤの生きたいと願う遺志がシルヴィアを戦場に向かわせる。
******
アンドルーズ基地から出撃した緊急即応部隊だったが、やはり本国で怠けている部隊の為か、幾ら数が多くてもブライアンとの練度の差で次々と撃墜されては街を破壊していってしまう。
最後の一機を撃破した頃には、いつの間にか議事堂近くにまで戦線を拡大していた。
「やっとこれで最後の一機か……メインベルトの連中、数だけは多いな。弾薬の殆んどを使いき……っ?!」
シールド裏に装備してある最後の弾倉に手を伸ばした瞬間、レガシーヴァイパーの真左から銃弾がかすめていく。
「まだ生き残りがいやがったか!?」
ブライアンは機体を真左に向けるとヴァイパーがライフルを撃ちながら迫って来る。
レガシーヴァイパーは弾切れのライフルを投げ捨てては、腰部に装備してある対装甲ナイフを掴もうとする。
だがヴァイパーもライフルの弾が尽きると躊躇なく手放して、頭部にあるチェーンガンを撃ちながら突進してきた。
「バカ野郎が!!」
レガシーヴァイパーはシールドを使ってチェーンガンの弾丸を弾いていくが、跳弾が機体の間接等、脆弱な部分をかすめていく。
そして突進するヴァイパーはスラスターを噴射しながらタックルを仕掛けた。
脚部間接から火花を散らして耐えるレガシーヴァイパーだったが、対装甲ナイフの束を掴み、そのまま勢いよく横凪した。
ヴァイパーのシールドは鉄を融かす様に真っ二つに切断されたが、肝心のヴァイパーの姿が無い。
「いない!?」
再び接近警報が点滅しては鳴り響く。
ブライアンはスクリーンを確認するが左右や上の表示じゃない。
「真後ろかよ!」
機体を振り向かせようとすると背後にヴァイパーが対装甲ナイフを水平に構えて迫ってきており、対装甲ナイフの切っ先がレガシーヴァイパーの背部を貫いた。
戦車よりも堅牢な複合装甲を意図も簡単に貫いては赤い火花を散らしていくレガシーヴァイパー。
「リアクター圧力低下、クソったれ!!」
操縦席の下部にある緊急脱出レバーを引いて脱出を図るブライアン。
コックピットハッチが爆散し、操縦席ごと空に打ち上げられ、ヴァイパーは突き刺した対装甲ナイフを引き抜いては少し後退する。
火花が収まるとレガシーヴァイパーはそのまま地面に倒れ込み、シルヴィアはリアクター停止を確認し、脱出したブライアンを確保しようとした瞬間にリーナから無線が。
『シルヴィ、大統領が危ない! 最後の護衛機シグナルが今さっき消えたわ!!』
「アンドルーズ基地の緊急即応部隊はどうしたの!?」
『シルヴィが倒した奴にみんなやられちゃったよ! 基地から増援が到着するまで時間がかかるわ!』
シルヴィアは一瞬だが迷ってしまった。
目の前で緊急脱出したパイロットは今なら確保出来る。
確保出来れば背後関係を洗い出し、どうやって連邦首都を攻撃出来たか分かると思ったからだ。
だが直ぐにシルヴィアは機体を大統領が居るであろうナショナルズ・パークに向けた。
民主主義の軍隊に於いては人命が最優先だと信じているから。
「リーナ。パイロットが脱出したから、今から送る座標に地上班を向かわせて。私は大統領救出に向かうわ」
『了解。気をつけて、シルヴィ。悔しいけど奴ら腕だけはいいわ』
「ありがとう、リーナ」
******
戦闘が始まって数十分が過ぎ、アイマンは粗方のシークレットサービス機を撃破した。
アイマン機の銃口先にはキングこと大統領の車列が止まっている。
もはや護衛のシークレットサービス機は居らず、アンドルーズ基地から出撃した緊急即応部隊すらいない
「悪く思うなよ、大統領。これも世界の為だ。せいぜい派手に殺してやるからな」
アイマン機のライフルが大統領車を捉え、メインスクリーンにLOCKON表示が出た。
トリガースイッチを握るアイマンの指先に力が入った瞬間、左側面のサブスクリーンから接近警報のアラーム音が鳴り響きながらスクリーンが赤く点滅した。
「接近警報? ……っ?!」
サブスクリーンを見た瞬間、何かが突進してきてるのが視界に入った。
だがアイマン機は身構える事も出来ずに、衝撃を受けて倒れ込む。
衝撃を受けて揺れ動く視界。
アイマンは揺れ動く視界を治す様に頭を振ってはメインスクリーンに映る奴を見た。
都市迷彩カラーにペイントされたヴァイパー。
ヴァイパーは持っていたライフルを投げ棄てては、対装甲ナイフを握って展開させる。
直後対装甲ナイフの刃先が真下に向き、アイマンは串刺しにされると思い、急いでメインスラスターを噴射した。
舞い上がる粉塵。まるでロケットブースターの如く粉塵を舞い上がらせて串刺しを避けようとするレガシーヴァイパー。
脚部にあるサブスラスターも全開にし、機体を地面に引き摺らせながら火花を散らして脱出させた。
機体を立て直すアイマン。その直後、ヴァイパーから無線通信が入る。
『武器を捨てて大人しく投降しなさい! もう貴方しか残ってないわよ!』
若い女の声。声からしてニコより少し歳上だと思うが、この若いパイロットに二人が撃墜されたのかとアイマンは疑心暗鬼になってしまう。
「それはお互い様だろ、連邦の軍人さん。こっちも事情があるんで簡単にヤられる訳にはいかねぇんだよ」
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アイマンのレガシーヴァイパーも同じく対装甲ナイフを握っては構え、シルヴィアのヴァイパーも身構えるとレガシーヴァイパーが仕掛けてきた。
ぶつかり合う対装甲ナイフ。蒼い火花を飛ばしては、互いに一歩も退かずに刃を振るう。
シルヴィアの足元には大統領が乗っている車列があり、一歩間違えば巻添えを被ってしまう。
「っ、強い。だけど私だって!」
レガシーヴァイパーの対装甲ナイフを弾いた瞬間、ヴァイパーがスラスターを噴射して相手を押し出していく。
『無茶苦茶な操縦しやがる!』
押し出されるレガシーヴァイパー。
すかさず反撃して、左腕でヴァイパーの左肩を掴む。
そして右手に持つ対装甲ナイフで串刺しにしようとした瞬間、ヴァイパーのチェーンガンが火を噴く。
狙いは右腕の肘関節。
可動域の為に装甲は薄く、みるみる内に蜂の巣にされて肘関節から右腕が吹き飛んだ。
これで勝負がついたと思われたが、レガシーヴァイパーはシールドを地面に落とした。
シールド裏に装備していたショートマシンガンを引き抜く為だ。
「ショートマシンガン!?」
ショートマシンガンの銃口が目の前に迫り、シルヴィアは息を飲む。
シールドも持っていない、この距離ならショートマシンガンの口径でも楽々ヴァイパーを撃ち抜ける。
この場所が自分の死に場所と悟り、覚悟を決めたその刹那。
目の前のレガシーヴァイパーの頭部が突如として吹き飛んだのだ。
しかも吹き飛んだ際に火器管制システムも壊れたのか、ショートマシンガンを四方八方に乱射しながら撃ち続けている。
その瞬間を見逃すまいと、シルヴィアの乗るヴァイパーはレガシーヴァイパーの左腕を対装甲ナイフで切り落とす。
両腕を失い、戦闘継続困難と判断を下したのか、レガシーヴァイパーのパイロットは緊急脱出した。
シルヴィアが捕獲しようとした瞬間、ヴァイパーの動きが止まる。
メインスクリーン下にある計器を見るとリアクター温度急上昇の為に緊急停止と表示が。
シルヴィアは操縦レバーを叩いては呟く。
「こんな時にオーバーヒートなんて……直ぐ目の前に敵がいるのに」