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エンドレスワルツウォー  私が俺が、あなたの戦争を終わらせる  作者: 冬葉 ハル
第一章 理という名の重力に縛られた者達
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ビギナーズラック

 仮設ハンガーに辿り着くと大半のヴァンパイアは破壊されていたが、一機だけ他の機体に覆い被さるように倒れていた。


「よかっ――っ!?」


 シルヴィアのヴァンパイアは無事なのだが、コクピットハッチの上に仮設ハンガーの瓦礫が被さっている。

 人よりも大きい鉄の瓦礫。シルヴィアが体を使って退かそうとするがビクともしない。

 何か道具が無いかと辺りを探すと一人の兵士の遺体が視界に入る。

 胸の戦術ベストに付いている手榴弾の束。


「ごめんなさい、使わせてもらいます」


 シルヴィアはそっと兵士の瞳を閉じさせては、自らの胸と肩で十字を切る。

 そして兵士から取った手榴弾の束を瓦礫の下に下に設置してシルヴィアは自分の愛機である、ヴァイパーに語りかけた。


「傷付いちゃうけどごめんね」


 愛機の装甲を撫でては手榴弾の安全ピンを外す。

 急いで機体から飛び降りて瓦礫の陰に隠れた瞬間、大きな爆発音と爆風が瓦礫に隠れるシルヴィアの頭上を飛び抜けていった。

 細かい塵が降り注ぐ中、瓦礫から顔を出すシルヴィア。

 コクピットハッチに被さっていた鉄骨瓦礫は見事に崩れさり、僅かな隙間が出来ていた。


「上手くいった!」


 シルヴィアは愛機ヴァイパーの外部スイッチを押し、コクピットハッチが開くなり乗り込んで起動スイッチを押した。

 すると正面のスクリーンが起動し、スピーカーから機械音声が流れてきた。


『姓名、階級。認識番号を確認』

「シルヴィア・ウィンチェスター少尉。認識番号2〇83〇7〇7」

『確認。スタンバイモードで起動しますか?』

「エマージェンシーモードで起動。フェーズワンからスリーのシークエンスを飛ばしてフェーズフォーからやりなさい」

『警告。フェーズフォーから開始しますとリアクターに重大な障害が発生する可能性があります。承認しますか?』

「承認。早く起動して!」

『確認。フェーズフォーから開始。メインリアクター圧力上昇、起動まで18〇秒……』


 メインスクリーンの下にある計器類の画面が点灯し、人形に映し出される画面はヴァンパイアのダメージパネルで各部がグリーン表示され異常無しとなっている。

 左右のサブスクリーンも起動し、周りの悲惨な光景にシルヴィアは改めて気を引き締めた瞬間、一機のレガシーヴァイパーが近づく。

 レガシーヴァイパーのデュアルアイが赤く輝いるのを見てシルヴィアは息を殺した。


「ヒューマンハンティングモード……」


 ヒューマンハンティングモードはヴァンパイアに搭載されている対人索敵抹殺モードの事で光学センサーに熱探知センサーや聴音センサー等をフルに使い、近くにいる人間を索敵して抹殺するモード。

 そのレガシーヴァイパーがヴァイパーのリアクター熱を感知したのか、頭部がシルヴィアのヴァイパーに向いた。


「お願い早く起動して……」


 メインスクリーンには1〇、9、8……とカウントが進むが、レガシーヴァイパーのライフルがシルヴィアのヴァイパーに向けられてしまう。

 LOCKONの警告表示が頻りに点滅表示され、スピーカーからは警報音が鳴り響く。

 レガシーヴァイパーのマニピュレーターが動いた刹那、起動完了と表示されシルヴィアはスラスターを全開に飛び出した。

 スラスターの噴煙により辺り一面土煙に包み込まれる中、レガシーヴァイパーはAIが算出した予測値を元にライフルを連射すると地上の戦闘なんか嘘みたいに静かな青空に曳光弾の軌跡が描かれる。

 土煙で互いの機体が見えない。そんな中シルヴィアは土煙の中に一瞬影が写り込んだのを見逃さなかった。

 LOCKONはされていないがライフルを構えてトリガースイッチを押すがライフルから弾が発射されない。


敵味方識別装置(I F F)?!」


 メインスクリーンには友軍機マークが点灯しており、安全装置が作動してライフルのトリガーがロックされた。

 替わりにシルヴィアの方にLOCKON表示が点灯した瞬間にライフルの弾丸が土煙を晴らしては襲いかかる。

 だがシルヴィアのヴァイパーは間一髪、背後にジャンプし攻撃を躱した。

 そのまま着地するなり、シルヴィアは周りを見るがユニオン広場だけに遮蔽物がない。


敵味方識別装置(I F F)を切ってる間に敵にやられてしまう……ならッ!」


 シルヴィアはトリガーを引くと、空かさず頭部のチェーンガンから苛烈なマズルフラッシュが発火する。

 狙いはレガシーヴァイパーではなく、機体の足元。

 チェーンガンの弾丸が地面に当たるなり土煙が再び上がると、シルヴィアはその隙にユニオン広場から飛び出して街中に姿を眩ました。


 ******


 ヴァイパーを取り逃がしたレガシーヴァイパーはユニオン広場からシルヴィアと同じ様に街中に入る。

 ビルのガラス窓に反射するレガシーヴァイパーのデュアルアイ。


「ブライアン、アイマン! 悪いが一機取り逃がした。そっちから見えるか?!」

『悪いが今は取り込み中だ! アンドルーズ基地のヴァンパイアに手こずっている!』


 直ぐにブライアン機から返信があり、立て続けにアイマンからも返信が。


『こっちからも見えない!』

「……了解! なら俺一人で殺る」

『おい! 待て、ニコ!! お前の実力じゃまだ危険だ! 聞いてるのか、ニコ!』


 ******


 ビルの陰に逃げ込んでは息を殺すシルヴィアのヴァイパー。

 もちろんコクピットハッチの中に居たら息遣いなんて相手には分からない。

 だけど本能的にそうしてしまう。

 そしてメインスクリーンにタッチしては敵味方識別装置(I F F)を切り、深呼吸をして息を整える。


「これで五分と五分。後は相手の練度次第だけど……」


 幾らレガシーヴァイパーが旧型といってもベテランパイロットならシルヴィアじゃ敵わない。

 ヴァイパーが性能が上でもパイロット次第でどうにでも戦況が変わってしまうのが戦場だ。

 チェーンガンとライフルの残弾をチェックし、シールドの裏側に装備してある予備弾倉が無事か確めるシルヴィア。

 ガラス張りのビルの合間に隠れてはいるが、いずれ見付かって戦闘になる。

 ならばと、シルヴィアは()()()を思い付き、ヴァイパーを走り出させていく。


 ******


 レガシーヴァイパーが静かにビル群の中を歩く度にビルのガラスにヒビが入っていく。

 戦場から一番遠くて安全と言われたワシントンが黒煙を上らせ、ブライアンのレガシーヴァイパーはアンドルーズ基地から出撃した緊急即応部隊(Q R F)と戦闘中だ。


「どこ行ったんだ、さっきのヴァイパー……っ!?」


 レーダー画面とスクリーンを交互に見ながら探していたニコだったが、ビルの合間から都市迷彩らしき色が見えた。

 すぐに機体をビルの陰に隠し、背部をビルすれすれに密着させる。


「まだアッチは気付いていないな……」


 壁際から望み込むとヴァイパーの前面部が此方を向いて止まっていた。

 3ブロックも離れていない位置にヴァイパーがいる。しかも彼方はニコが乗るレガシーヴァイパーに気付いていない。


「ロックしなくても、この距離なら当たる!」


 そう確信したニコのレガシーヴァイパーはビルの陰から飛び出して、シルヴィアの乗るヴァイパーにライフルの銃口を向けて叫ぶ!


「死にやがれ、メインベルトのクソ野郎!」


 レガシーヴァイパーが持つライフルから発射された弾がヴァイパーを()()()()ては、ガラスが割れてビルが崩れていく。


「なんで弾が抜けるんだよ! ……っ!?」


 直後、レガシーヴァイパーに接近警報とLOCKON警告が表示された。

 ニコはメインスクリーンに表示される接近警報の矢印を見ると上空を指している。


「上?! さっきのはビルに反射した奴か!」


 頭部を上に向けると太陽の光がメインカメラを直撃してホワイトアウトする。

 しかも太陽の真ん中に小さな黒い影が見えた。


『お願い当たって!!』

「舐めんなよ!」


 シルヴィアのヴァイパーにニコのレガシーヴァイパー。

 互いの銃口が相手を捉えて火を吹く。

 レガシーヴァイパーが放つ銃弾は太陽でホワイトアウトしたせいか、ヴァイパーの真横を突き進む。

 そしてヴァイパーが放つ銃弾はレガシーヴァイパーのライフルを誘爆させ、無数の銃弾が機体を撃ち抜いていった。


「サテライトリアクターの圧力が低下してやがる……クソ!」


 ニコは操縦席下部の真ん中にある、緊急脱出レバーを引いた。

 胸部上面のコックピットハッチが爆散し、操縦席ごとニコは上空に飛び出していく。

 その直ぐあとにレガシーヴァイパーは機能停止をしたのか、地面に膝を着いて前のめりで止まった。

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