望まぬ英雄の誕生
メイヤの遺体から離れ、高速道路の高架下に辿り着いたシルヴィア。
司令本部があるユニオン広場まで、あと3ブロック。
多くの市民達も高架下に避難しており、押すな押すなと怒号が飛んでいる。
高架下から出てしまうと戦闘に捲き込まれてしまうからだ。
そんな中、一人の男性がシルヴィア達に怒号を飛ばす。
「おい! お前達連邦の軍人なんだろ! 何でお前達が避難してるんだよ、軍人なら俺達の為に戦え! 何の為に高い税金を払ってお前達を養っていると思っているんだ!!」
「ち、違っ……」
リーナが反論しようとした瞬間に周りに避難している市民達も敵意を剥き出しに襲いかかる。
「そうだ! お前達軍人は戦え!」
「ここから出て行きなさいよ、この人殺し!」
「何で私達が死ななくちゃいけないのよ! 軍人なら戦って死んできなさいよ!」
同じメインベルトなのに怒りの矛先にされてしまい、怖じけづいたリーナにシルヴィアが高架下から出ようとしている。
「ちょっと、シルヴィ?! 何処に行くつもりなの!」
「何処って司令本部よ。まだ攻撃を受けてないなら私のヴァンパイアがある筈だから」
咄嗟にシルヴィアの腕を掴んだリーナ。
リーナはシルヴィアの制服に付いたメイヤの血に驚き手を離してしまう。
そして小さな悲鳴を出してしまい、手のひらに付いた赤い血を制服の裾で拭いてしまった。
その光景にシルヴィアは突き放す様な視線で言う。
「別に穢くないわよ。それは必死に生きたいと思った女の子の血。私や貴女……彼ら臆病者と同じ人間の血よ」
シルヴィアが言う彼ら臆病者とは自分と同じメインベルトの市民。
自分達は高い税金を払っているから何をしても、何を言ってもいいんだと思っている人間達。
アステロイドベルトやセンターベルトが同じ様に高架下に来ようとする追い払うメインベルトの市民達。
そんな見捨てられようとしている彼らにシルヴィアは指示を出した。
「高架下は危ないから早く地下鉄に避難して下さい! こんな所、ヴァンパイアがぶつかったら簡単に崩れてしまいます!」
シルヴィアの言葉に決めかねていると、一機のヴァイパーが近くの高架下柱に倒れ込んだ。
ヴァイパーは無事だが、機体を立て直そうと動き出す。
すると高速道路が崩れてしまい、シルヴィア達と同じ様に避難している市民の頭上に瓦礫の山が降っては押し潰された。
それを見て怯える市民にシルヴィアが叫ぶ。
「早くしなさい! 死にたいのですか!!」
シルヴィアの檄に市民達が一心不乱に地下鉄入口に向かって走りだす。
我先にと逃げ出すメインベルトの市民。
アステロイドベルトやセンターベルト市民を押し退けては自分だけは助かりたいと。
そんな中シルヴィアは逃げ遅れた彼らの手を引き、地下鉄入口に連れて行く。
そのシルヴィアの姿にリーナはかつて建国の御三家の中でも最も勇敢に闘い、自由の女神と言われたイヴァンジェリン・ウィンチェスターを思い出す。
自由と平等を旗印に民衆と共に帝政と闘い、民主主義の為に身命を懸けたうら若き乙女のイヴァンジェリン。
その最期の結末を思い出す前にシルヴィアが叫んだ。
「何してるの、リーナ! 早く私達も行くわよ!!」
シルヴィアの叫びに呼応して走り出すリーナ。
リーナが高架下から出た瞬間、彼らが安全な場所と思っていた場所に瓦礫が降り注ぐ。
あの場所に居たら死んでいたと思い、リーナはシルヴィアの背中に感謝したと同時にイヴァンジェリンの最期を思い出した。
イヴァンジェリン・ウィンチェスターは戦場で最後の瞬間を迎えたのでなく、親友に裏切られて最期を迎えたのだ。
******
ユニオン広場の司令本部に辿り着いたシルヴィア達。
だが目の前の光景に言葉を失う。
指揮車や仮設ハンガーに駐機させていたヴァンパイアの大半が破壊されていたのだ。
そこらじゅうに負傷者が倒れており、助けを求める声が木霊する。
シルヴィアが負傷者の一人に駆け寄り手当てを始めた。
「シルヴィ、その人はもう……」
リーナが言いかけた先に倒れている負傷者の右足は膝から先が無い。
切断面から出血が止まらず、緑の草が赤く染まる。
「まだ諦めるには早いわよ!」
シルヴィアが負傷者の腰からベルトを外し、太ももに巻き付けては締め上げる。
「ぐっ?!」
「我慢して下さい! 止血しないと駄目ですから! リーナ、ボサッとしてないで無線機を捜して早く救護ヘリを呼んで!」
茫然としているリーナ。そんなリーナにシルヴィアは頬を叩いて叱咤する。
「しっかりしなさい、リーナ・パークス大尉! 貴女も連邦将校なら指揮を執りなさい!」
「し、指揮?」
「私はヴァンパイアが動くか調べるから。生き残っている最高階級は貴女だけなのよ。だから現場指揮は貴女が執りなさい!」
シルヴィアに言われ周りを見るリーナ。
軽い負傷者は重傷者の手当てをしている中、皆がリーナを見ている。
「……分かった。上手く私に出来るか分からないけどやるよ」
「大丈夫。リーナなら出来ると信じてる。貴女は私の親友でもあり、私が認めている優秀な軍人なんだから」
シルヴィアは近くに落ちていた無線機を拾い上げてリーナに渡すと、血みどろになった無線機を今度は拭うことなく頷き掴んだ。
そしてリーナは敬礼しながら連邦軍海兵隊の標語を口にし、続いてシルヴィアも標語を口にする。
「海兵は前へ――」
「――前進あるのみ!」
走り出すシルヴィアの背中を見ながらリーナは血みどろの無線機に見て呟く。
「親友か……シルヴィはやっぱり凄いね」