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エンドレスワルツウォー  私が俺が、あなたの戦争を終わらせる  作者: 冬葉 ハル
第一章 理という名の重力に縛られた者達
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現実は想像より残酷

 突然の戦闘に訳も分からず逃げ惑う人々の中、シルヴィアとリーナは必死に司令本部があるユニオン広場を目指した。

 シークレットサービス機のヴァイパーは眼下に居る人間等はまるで最初から存在しなかったかの様に戦闘を拡大させていく。

 要所に配備してある重武器を納めた動く武器庫こと『ウェポントレーラー』から持ってきたのか、アサルトライフルを撃ちまくっては外してしまいビルを破壊している。


「たく、あれじゃどっちがテロリストか分からないよ!」


 逃げながらシークレットサービス機の戦いに呆れてしまうリーナ。

 だがリーナが呆れるのも無理は無い。

 彼らは所構わずライフルを撃ち、足場も確認せずに歩き回って避難誘導している警察車輌を踏み潰したり、機体が爆散して民間人に被害が出てしまっているから。

 チェーンガンから排出された排莢が人間の頭に直撃し、倒れ込む姿に光景にシルヴィアは吐き気がした。

 リーナの直ぐ後ろを走るシルヴィア。

 銃声や爆発音が鳴り響く中、何処からか泣き声がした。

 シルヴィアは立ち止まって辺りを見ると一人の女の子が泣いている。


「シルヴィ?!」


 後ろにシルヴィアが居ない事に気づくリーナ。

 シルヴィアは泣いている女の子の元に駆け寄っていた。


「早くお姉ちゃんと一緒に逃げよ!」

「嫌ぁ! お母さんと一緒に居るぅ!」


 泣きじゃくる女の子の側には瓦礫に押し潰された人間だったものの中身が飛び散っている。

 その残酷な光景にシルヴィアは思わず口を覆ってしまう。

 それはかつて女の子の母親だったが、今じゃ人の形すら分からないものに変わってしまったから。


「シルヴィ!! 早くこっち!」


 遠くでリーナが身振りしながら叫ぶ。

 その瞬間シルヴィアと女の子の上空をヴァイパーがジャンプしては飛び越えて爆散した。

 シルヴィアその光景を背に女の子の前にしゃがみ込んでは、女の子の頬に両手を添える。

 涙で溢れる女の子の瞳をシルヴィアの蒼い瞳が見つめて離さない。


「ねぇ、お姉ちゃんに名前を教えてくれる?」

「ひっくっ……メイヤ」


 泣くのを必死に堪えながら名前を言うメイヤ。

 シルヴィアはそんなメイヤの頭に自分が被っていた軍帽を被せては。


「メイヤ……良い名前ね。お姉ちゃんはシルヴィア。友達は皆シルヴィって呼んでくれるの。だからメイヤもそう呼んでくれる?」

「うん……シルヴィ」

「よく出来ました。今メイヤに被せた帽子は幸運のお守り。悪い奴らからメイヤを守ってくれるからね。だからお姉ちゃんと一緒に逃げよ。怪我したらお母さんが悲しむから」


 シルヴィアの言葉にメイヤはただ黙って頷くだけであった。

 そんなメイヤの震える手を握りシルヴィアはリーナの元に走り出す。


「ほら頑張ってメイヤ! あともうちょっとだから!!」


 目の前にはリーナが必死に叫んでいる。

 高速道路の高架下なら一時的にでも安全が確保出来ると考えたのだろう。

 二人が走り抜けた刹那、背後からチェーンガンの掃射が迫る。

 狙いは高速道路に向かって逃げるレガシーヴァイパー。

 咄嗟にリーナが「二人とも伏せてっ!」と叫んだ。

 シルヴィアは無我夢中で飛び伏せ、チェーンガンの掃射が二人の体を土煙で隠す。


 大丈夫。まだ私の手に震えている手の感触がある。


 シルヴィアは土煙の中、自分の手に伝わるメイヤの震えに安堵した。


 あともう少しで辿り着ける。あともう少しだから頑張ってメイヤ。


 神に祈る様に自分に言い聞かせては掃射が終わるまで耐え忍んだ。

 そしてチェーンガンの掃射が終わり、シルヴィアは顔を上げて立ち上がる。

 だが直ぐに手から違和感が伝わり、咄嗟に自分の手を見て言葉を失ってしまう。


「ッ!?」


 握っているのは幼い女の子が恐怖に必死に耐えてる手ではない。

 もはや手から震えは伝わって来ず、肘から先が千切れている。

 地面にはチェーンガンの撃ち抜いた破片が刺さり、細切れになっていたメイヤの体。

 そして自分の制服にはメイヤの血と体の一部がこびりついている。


「うそ……なんで……なんでよ! さっきまで……ッ?!」


 突然襲われた吐き気にシルヴィアはお腹を押えながらしゃがみ込む。


 何がアナポリスを主席で卒業したよ。


 何が大統領になってアステロイドベルトの皆を救いたいよ。


 現実は想像よりも残酷で……私は思い上がったただの無力な人間。


 目の前の光景にシルヴィアは口に出さず無言で唇を噛み締めた。

 そしてメイヤが被っていた軍帽を拾っては自分の頭に深く被り、頬に付いた血と蒼い瞳から流れ落ちていく涙を拭う。

 シルヴィアは決意を決めた眼差しで未だ続く戦闘を見て。


「私が必ず止めてみせる。この手に残った想いにかけて」


******


 戦闘が始まって数十分が過ぎ、粗方のシークレットサービス機を撃破された。

 アイマン機の銃口先にはキングこと、大統領の車列が止まっている。

 もはや護衛のシークレットサービス機は居らず、アンドルーズ基地から出撃した緊急即応部隊(Q R F)はブライアン、ニコの僚機と交戦して大統領に近付けない。


「悪く思うなよ、大統領。これも世界の為だ。せいぜい派手に殺してやるからな」


 アイマン機のライフルが大統領車を捉え、メインスクリーンにLOCKON表示が出た。

 トリガースイッチを握るアイマンの指先に力が入った瞬間、左側面のサブスクリーンから接近警報のアラーム音が鳴り響きながらスクリーンが赤く点滅した。


「接近警報? ……っ?!」


 サブスクリーンを見た瞬間、何かが突進してきてるのが視界に入った。

 だがアイマン機は身構える事も出来ずに、衝撃を受けて倒れ込む。

 衝撃を受けて揺れ動く視界。

 アイマンは頭を振ってはメインスクリーンに映る奴を見た。

 都市迷彩カラーにペイントされたヴァイパー。

 ヴァイパーは持っていたライフルを投げ棄てては、腰部に仕込んである近接格闘武器『対装甲ナイフ』を握って展開させる。

 対装甲ナイフの刃先が真下に向き、アイマンは串刺しにされると思い、急いで脱出レバーを引いて緊急脱出した。

 その刹那。対装甲ナイフの刀身がレガシーヴァイパーを串刺しにする。

 蒼と朱の火花が刺した部分から飛び散り、その火花がより一層にヴァイパーパイロットの怒りを物語っていた。

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