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デルタ・マークII

 リーナに海軍と作戦会議だと呼び出され、そのまま三人は基地司令部のある会議室に向かうとシルヴィアは思った。

 だが向かった先は戦闘機やヴァンパイアを格納するハンガー。

 ウォーカーは下士官は作戦会議では必要ないと思い、席を外そうとしたが、リーナに『ドラグーン隊は全員召集がかかってるから』と言われて動向する嵌めに。

 ハンガーに入ると既にドラグーン隊の面々はモニター前に用意されたパイプ椅子に座っており、海軍のフライトスーツを着たパイロット達と一緒に席に着いていた。


「何をしている、名誉勲章持ちのウィンチェスター大尉。早く席に着け」


 背後を振り向くと基地司令官のサミュエルが立っている。


「す、すみません」


 しかも彼の背後には海軍が使うネイビーカラーのデジタル迷彩服を着た女性が一人。

 何処かで見た顔だ。


「大統領の主催したパーティー以来ですね、シルヴィア・ウィンチェスター大尉」

「パーティー以来……あっ!」


 目の前の女性は大統領主催のパーティーで会った、海軍大佐のクラリス・ウェッソン。


「あ、あの時は大変失礼しました!」


 大統領主催のパーティーで酔って絡んだ事を思い出し、心拍数が跳ね上がっては全身から嫌な汗が吹き出しながら頭を下げる。


「ああ、大丈夫ですよ。頭を上げてください大尉」

「……はい」


 下げていた頭を上げると、クラリスはニコニコしながらシルヴィアを見ていた。


「いつか時間を作って貴女とはゆっくり話がしたいわ。特に貴女のお兄さんとは、亡くなる前に何度か戦場を共にしたのよ」

「兄さんが……いえ、兄がですか?」


 つい身内の呼び方をしてしまい、急いで訂正する。

 実際、兄とは親しかった。親しかったが、軍務については機密事項が多く、家族であっても話すことは無かった。

 そしてシルヴィアは気になる事を口にしてしまう。


「あの……兄は海軍ではなく、私と同じ海兵隊――」

「統合参謀本部直属、特殊作戦軍所属。主任務は連邦政府の敵対者の排除に、連邦に貢献するであろう海外要人保護と警護」

「え……? 特殊作戦軍所属って……兄は海兵隊のはずです! それに敵対者排除って……」


 クラリスから告げられた答えに戸惑いを隠せない。

 そんなシルヴィアにクラリスは追討ちをかけた。


「特殊作戦軍所属だから表向きの身分を言っていたのよ、貴女のお兄さんは。任務の性質から家族が狙われる場合があるの。だがら悪く思わないでね」

「……そうですか」


 家族を守る為に嘘をついた兄。

 特殊作戦軍所属なら父は気付いていたのか、あるいは家族全員を騙していたのか分からない。

 兄の素性を初めて知った感情の波を落ち着かせようと深呼吸するが、クラリスがウォーカーにも声をかける。


「ウォーカー()()……軍曹も久し振りですね。あの部隊以来かしら」

「ご無沙汰しています。ウェッソン中佐……失礼しました。昇進して大佐になられたのですね」

「ありがとう。あの時は私もパイロットの一人だったけど、今じゃ第七艦隊の分艦隊司令官兼強襲揚陸空母の艦長を任せられるくらいになったのよ」

「それは随分と出世しましたね」


 相変わらず声音が変わらず、一定の声量で話すウォーカー。

 そんなウォーカーの表情と、肩と襟に付いた階級章を見て。


「君は飛んでた時が一番生き生きしていたわね」

「そうですか?」

「うん。君の元ウィングマンも寂しがってたよ。君に似て感情表現が苦手な子だけどね。それと、ストリート君も久し振り」


 パイプ椅子に座るストリートに手を振るクラリスに、ストリートは静かに会釈。


「ふふ、彼も相変わらずね」


 昔話に華を咲かせるクラリスとウォーカー。

 特にウォーカーの経歴書は黒塗りばかりで分からないし、彼も自分の事を話さない性格だから尚の事知らない。

 なのにクラリスだけがウォーカーの過去を知っていて、不意に心のさざ波が乱れて少し痛い。

 頭が混乱し、茫然と立っているとサミュエルから檄が飛ぶ。


「早く席につけ! 名誉勲章持ちのウィンチェスター大尉!」

「は、はい!」


 急いでレイの隣に座り、恥ずかしいのか、顔が少し紅い。

 そんなシルヴィアを見て、フライトスーツを着た海軍パイロット達が小声で話し始めた。

 もっとも会話の内容はドラグーン隊にも聴こえるくらいの声量で、銀髪の少年は「あれがワシントンの英雄か……見た目通りのお嬢様だな」などと言い。

 隣に座るドレッドヘアの褐色少年も「どうせ親の七光りだろ。海兵のトップらしいじゃん、親はさ」と相づちを打ち。

 褐色少年の隣に座る栗色のセミロングヘア少女は「でもさー、今回の作戦はあっち主導なんでしょ。なんでウチラみたいなトップガン組が陸戦屋に従う訳? 海兵なんてバンバン同じ的を皆で撃つしかない脳筋なのに」などと揶揄し、それを聴いていたドラグーン隊の面々からバチバチに上等だ!? と視線が飛ぶ。

 それを見たサミュエルは嘆息、シルヴィアの隣に座ったクラリスは咳払いし。


「あなた達いい加減にしなさい! 今回は統合参謀本部直々の作戦なの、嫌ならフライトデッキでゴミ拾いさせるわよ!!」


 クラリスの言葉には従うのか、海軍パイロット達は黙り込んで前を向いた。

 まるで学校で注意された生徒と叱る先生みたいだ。


 サミュエルはリーナに視線で合図を送り、彼女は移動台に載せられたモニター横にある教壇に立ち。


「今回の作戦は極めて重要な作戦になります。私の情報筋によると、民兵を訓練している謎の組織幹部と反政府軍を支援している帝国の派遣軍幹部、並びに民兵と反政府軍組織の幹部会合がオセアニアの旧首都で開かれると判明しました」


 リーナの言葉にドラグーン隊は息を飲む。

 自分達の仲間を殺したヴァンパイアを倒せるならラッキーに値するが、そんなに統合参謀本部は甘くない。

 必ず仮定した要求以上のものを求めるはず。

 その証拠にリーナはモニターに映しだされた幾つもの顔写真を見ながら。


「この作戦は殺害目的ではなく、最優先人物である各組織の幹部達を生捕りにして欲しいの」


 顔写真は幾つもあるが、謎の組織は誰か分からないみたいで、黒塗りの人の形をした写真にはエックスと表記。

 民兵と反政府軍は顔が割れているみたいで、名前と最近撮られたであろう顔写真付き。

 そして一際注目を集めた写真が一枚。

 帝国派遣軍、皇位継承権第二位『ヴィクトリア・フォン・アルムルーヴェ』と表記された黄金の金髪に紅い瞳を宿した女性。

 それを見た栗色少女がポツリと「やば……ワルシャワの悪夢じゃん」

 先程まで海兵隊を揶揄していた栗色の少女の顔が険しくなる。

『ワルシャワの悪夢』という言葉の意味は、直ぐにリーナが資料映像をモニターに流してくれた。

 映し出された映像にはワルシャワの街に展開するロスロア連邦共和国の〈ウラル〉が十機。

 それも機体カラーや携行武器はカスタムされた〈ウラル〉で、リーナの説明では特殊部隊アルファ仕様だと。

 そこに現れた黄金に塗装されたヴァンパイア。

 中世の騎士を模した装飾が施された重装甲機体をスラスターで軽々とホバー移動させながら、両肩部付けられた黄金獅子を刺繍された真紅のマントを靡かせては〈ウラル〉の放つアサルトライフルの銃弾を避けて距離を詰めていく。

 まるで銃弾の軌道が視えているみたいに華麗に避けては、左手に装備したショートマシンガンで〈ウラル〉を数機撃破。

 中距離はショートマシンガンで応戦し、接近戦は腰部に装備していた実剣で斬りかかる。

 実剣はヒートソードなのか、掴んだ瞬間に刀身が赤く発光。刃が装甲に触れた瞬間に火花を散らせながら〈ウラル〉を切断。

 ショートマシンガンの弾が切れたのか、そのままショートマシンガンを〈ウラル〉に投げつけ、怯んだ隙にコックピットブロックを実剣で火花を咲かせながら串刺し。

 串刺しにして実剣が抜けない所を背後から〈ウラル〉が襲おうとする。

 だが黄金のヴァンパイアは振返りざまに隠し武器の投げナイフで機体腹部を刺し、怯んだ敵の腰部から対装甲ナイフを奪い、立て続けにコックピットブロックを串刺しにして仕留めた。

 僅か数分で特殊部隊アルファ数機を撃破し、敵は勝てないと思ったのか、退却用の閃光弾すらばら撒かずに敗走して映像が途切れた。


「見ての通り、この帝国製ヴァンパイアは強力な機体よ。情報部の見立てでは第四世代をアップデートした新型の四・五世代ヴァンパイアと踏んでいるわ」


 リーナの補足説明にパイロット全員が険しい表情に変わり、数名は小さく溜息を吐く。

 ロスロア連邦共和国の特殊部隊といえば、世界有数の強力な部隊。

 隊員達は選抜を勝ち抜いたエリート揃いで、尚も厳しい訓練と戦場を経験した古参揃い。

 その古参揃いのヴァンパイア達を、いとも簡単に撃破していき、相手に強烈なトラウマを植付けて敗走させたヴァンパイアのパイロットは正しく。


「並の手練れを超えた、真のエースパイロットだな。コイツは」


 ウォーカーの言葉にドラグーン隊の皆が納得する中、リーナは非常な命令を伝える。


「尚、今回の作戦は市街地での戦闘が予測される為、上空援護は海軍の新型ヴァンパイアに任せます。更に拠点強襲部隊はドラグーン隊を動員。ヴァンパイアは数機のみ選抜したパイロットにやらせ、残りは拠点強襲部隊よ」


 リーナの言葉に異義を唱えようとするドラグーン隊に対し、シルヴィアが代表して挙手した。


「例のヴァンパイアに関係する作戦には参謀本部からは海兵航空団とガンシップが使えるはずです。それにドラグーン隊はパイロットばかりで白兵戦の経験が不足しており、任務の成功に支障をきたします」

「もちろんガンシップ等の申請はしたわ。けどワシントンの政府が却下したの。()()()()()()ってね」


 リーナの非情とも取れる言葉にドラグーン隊の隊員は苦虫を潰したような顔。

 軍が出す無謀な命令には慣れているが、今回の作戦は無謀を通り越して自殺行為に近い。

 あのヴァンパイアは自分達でも逃げ出すくらいに強い。

 だがオセアニアの現首都と違い、旧首都とはいえ民間人が多いから仕方ないと自分を納得させるしかないと思うしかない。


「困難な任務なのは知ってるわよ。けど命令ならやるしかないの。でも軍だって馬鹿じゃない、その証拠に――」


 ハンガー外に広がる青空を指差す。

 青空に現れた一機の戦闘機。いや、戦闘機よりも大型だ。

 そのままハンガー横を轟音を響かせて低空飛行。

 明らかな安全義務違反の飛行にサミュエルは舌打ちし、クラリスは笑いを堪えている。

 ドラグーン隊は、ただの大型戦闘機と思ったが違った。

 その戦闘機は高度を上げ、そこから一気に人型に変形。

 ライトブルーに塗装された機体は〈ヴァイパー〉に近いが、機体関節は細くて、装甲は重量低減を狙ったのか薄く見える。

 重量級の長砲身ランチャーを右肩部に担ぎ、左腕に装備したシールドも機体に似て細くて長い。

 背部に備えた大型バインダー形状のスラスターを吹かしながらゆっくりと着地するなり、機体の前にクラリスが出て。


「ご紹介します。ノーフォーク海軍工廠製、新型第五世代可変ヴァンパイア。機体名〈デルタ・マークII〉」


 デルタ・マークIIと言われ、可変式ヴァンパイアに皆が驚く中、ウォーカーのみ表情が険しくなっていた。

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