騒乱
鍔迫り合いからの『センチュリオン』の頭突き。細かな装甲の破片が飛び散っては、相手も負けじと膝蹴りで胸部のコックピット周辺に打撃。
『どうした! お前の実力はこんなもんじゃないだろ!!』
再び『センチュリオン』の剣とぶつかり合った瞬間、ヴァンパイアの剣が二つ折れてしまう。
二つに折れて宙を舞う切先部分を掴み、そのまま『センチュリオン』の首元に突き刺した。
だがウォーカーもただでは殺られない。手に持っていた剣を振り下ろし、相手の右腕を切り落とす。
相手のヴァンパイアが動こうとした刹那、機体上背部から黒い制御棒みたいな物が飛び出す。
すると再びインヴィジブルシステムを起動。
姿が不可視に変わり、後方に退避して下がったのだろう。土煙とジャンプに伴う振動を残し痕跡を消した。
ティルトローター機がホバリングモードに移行し着陸。
戦闘ヘリは救出機援護の為に旋回飛行しながら上空援護。ジャングルに逃げる民兵を狩るために戦闘機がジャングルにナパーム弾を投下する。
ナパーム特有の激しく燃え上がる炎の渦がジャングルに逃げた民兵を焼き払う。
ティルトローター機の後部ハッチが開くと、完全武装した兵士達が降りてきては、安全確保の為円周防御陣を築く。
その兵士の中の二人がシルヴィアに近づいて来た。
「ブライアン・シュガート二等軍曹だ。タクシーを呼んでいるって聞いてな」
「同じく、アイマン・グエン一等軍曹。ウィンチェスター大尉はいるか!?」
ティルトローター機のホバリングにより砂塵が吹き荒れる中、シルヴィアは髪に手を当てながら前に出る。
「自分がウィンチェスターです!」
両軍曹が互いの顔を見ては、アイマンが手を差し伸べた。
「どうも大尉! ワシントンの英雄に会えて光栄たが、部下と急いでヘリに乗って下さい! 我々は帰投中だったので、ヘリと戦闘機の燃料が厳しいのです!」
「分かりました! 部下と人質を急いで乗せます!」
ウォーカーに合図を送り、捕らわれていた人質に部下をヘリに搭乗させる。
アリシアは負傷したのか、ルナと救出に来た衛生兵に担がれながら乗り込む。
帰投する最中、ある光景をシルヴィアは目撃してしまった。
それはジャングルの中から現れた焼けながらも歩く人に向け、武装ヘリとティルトローター機のガンナーによる機銃掃射。
また田園地帯に差し掛かると、連邦軍のヘリを見て逃げ惑うオセアニアの農民達にも機銃掃射を放つ。
シルヴィアが止めるようにいうが、ヘリガンナーは「民兵と農民の違いがアンタに分かるのか」と言って止めなかった。
***
ヘリの窓から見るオセアニアの朝日。
真夜中の見張り任務から始まり、ようやく安息が得られると思った隊員達。
殆んどの者が床に座り込む中、ウォーカーは衛生兵に手当てされるオリバーに声を掛けた。
「調子はどうだ」
「最悪に決まってる……拷問されたんだよ」
オリバーの身体はナイフによる拷問だろうか、身体中が切り傷だらけ。手首や足首は痣が出来ている。
「それはお前のミスだ。俺は言ったはずだ『離れるなら声を掛けろと』な」
「うるさいな。そのくらい分かってる。ちょっとトイレに行っただけなのに、メインベルトの女みたいに怒るなよ」
ふてくされて言うオリバーにウォーカーは胸ぐらを掴みながら持ち上げた。
「いい加減にしろ。お前の、そのちょっとだけという甘えた根性が部隊を全滅させるんだ。それに、そのメインベルトの女に助けられたんだからな」
「メインベルトの女にって……」
その時はじめてオリバーはウォーカーから聞かされた。
自分が嫌っていたメインベルトのシルヴィアが庇わなければ、今ごろレディージョーカー発動させて処分されていと。
そして、隊員達を掻き分ける様にシルヴィアがオリバーに近寄り。
「まずはオリバー上等兵、あなたが無事で良かった」
まるで子供の無事に安堵する家族のような表情を浮かべるシルヴィア。
並のメインベルトの上官みたいに鉄拳制裁なかったと安堵する隊員だったが、突如として肌が激しく叩かれた音が響く。
なんとシルヴィアがオリバーの頬を叩いたのだ。
「軍において命令は絶対です! 仮にもあなたは上等兵、私は大尉でウォーカー軍曹は先任下士官。特にウォーカー軍曹は部隊の中でも最古参なのは分かりますね?」
「……はい」
「なら隊長と下士官の命令を聞きなさい! 私がメインベルトの上官で気に入らないのは結構! ですが、あなたの勝手な行動で部隊が全滅するなら、私は喜んでレディージョーカーを発動し、あなた以外の皆を守ります! 分かりましたか!?」
気迫の怒鳴り声に隊長達と救出部隊員は鳩に豆鉄砲を食らった顔。
あのメインベルトのお姫様が真剣に怒っているからだ。
当のオリバーは静かに俯き、そして。
「はい……勝手な行動をしてすみません」
オリバーの口から出た謝罪にシルヴィアは彼の手を握り。
「確かにお兄さんは残念でした……ですが、あなたまでいなくなったら故郷にいる家族が悲しみます。だから命を無駄にしないで下さいね」
その温かい言葉にオリバーは兄であるイライジャを思い出して涙をする。
口は悪いが面倒見が良かった記憶。
苛められていた所に兄が飛込み、複数の相手を前にしても兄は逃げずに闘った記憶。
家族揃ってアステロイドベルトの為に毎日がその日暮らし。少しでも家族に良い物を食べさせてたいと思い、一緒に軍に志願した記憶が昨日の様に思えてしまう。
必死に泣くのを我慢し、嗚咽を堪えるオリバーにシルヴィアは優しく語りかける。
「泣いていいんです。泣くのは恥ではありません。それに家族であるあなたが泣かずにどうするんですか」
その想いに細い一本の糸が切れ、オリバーの土汚れた頬には兄との思い出が流れ落ちていく。
***
オリバーの首に付けられているレディージョーカーを外し、ヘリは無事に前線基地に着陸。
目映い朝日を浴びれば眠気は飛ぶ所だが、生憎とドラグーン隊全員が寝ていない為に睡眠不足だ。
後部ハッチが開き、隊員達と一緒に降りて行く。
すると目の前に現れたのはリーナと基地司令官であるサミュエル・ウォーカー准将。
「これはこれは名誉勲章持ちのヒーローのご帰還だ。たかだかアステロイドベルト一人の為に海兵航空団の戦闘機と武装ヘリ、そして新型ヴァンパイア『センチュリオン』まで使うとは。いやはや、流石は名誉勲章持ちの大尉は違うな」
「ウォーカー准将……」
嫌味口調のウォーカー准将にシルヴィアは唇を噛む。
「例のヴァンパイアに対して戦力の投入は間違っておりません。あのヴァンパイアと交戦するに当たって、統合参謀本部から海兵航空団の使用許可は貰っております」
「物は言いようだな、名誉勲章持ちのウィンチェスター大尉。だが情報部は違うみたいだぞ。そうだよな、パークス大尉」
ウォーカー准将の影から現れたリーナ。
彼女の後ろにはライフルを持った兵士達がシルヴィア達に銃口を向けている。
「拷問に際し、オリバー上等兵が機密漏洩をしていないか取り調べをするわ」
「取り調べって……それは強制なの?」
オリバーを守る様に前に立つシルヴィアにリーナは冷たく言い放つ。
「そうよ。場合によっては逮捕し、軍法会議にかける。もっともアステロイドベルトなら死刑が適当刑になるわ」




