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救援

 ゆっくりと後ろに傾いていく『ウラル』に、アリシアは捕まれた手から飛び降り、そのまま民家の屋根に落ちていく。

 撃破された『ウラル』を見て、隣に居た機体がルナを見ると、アリシアと同じく無誘導ロケットを構えており。


『ッ!?』


 ルナが放った対戦車榴弾は『ウラル』の腰部関節に命中。

 関節部品が吹き飛ばされた『ウラル』は直立姿勢を保てずに倒れていき、それを見た別の『ウラル』は退避しようと下がった瞬間に背部が爆発。

 ストリートとギデオンが放った対戦車榴弾だ。


『クソ、冷却装置がやられた! 機関部の油温が上昇中!!』

『落ち着け! 補助冷却装置に繋げるんだ! それで持ちこたえ――うわッ!?』


 次々と『ウラル』に放たれる対戦車榴弾。

 冷却装置を破壊された機体に頭部を破壊された機体。

 もちろん追撃の対戦車榴弾を放ち、装甲が脆弱な脚部関節を破壊し、地響きを響かせながら倒れるこんでいく無数の機体。

 中には体勢を立て直す『ウラル』も現れ、頭部に備えられた3〇ミリ機銃弾による牽制射撃を放つ。

 激しい土柱が上がり、機銃弾はトラックを貫いていく。

 トラックが爆発すると思ったルナは急いで飛び退いた。

 その直後トラックが爆発し、破片が降り注ぐなか身体を起き上がらせては視線を上げると、アサルトライフルを構える『ウラル』が眼前に迫っていた。


「ヤバ……」


 逃げ場はない。思考しても身体が付いてこれないと悟ったルナ。

 トリガーに指かけるマニピュレータが動き出した刹那、ルナの身体を何者かが抱き抱えるかのように横に飛び退く。

 舞い上がる粉塵。地面に横たわるルナの心臓の鼓動が速い。

 あの瞬間、自分が死んだと思ったからだ。


「大丈夫か、ルナ」

「あ、ありがとう」


 ルナに覆い被さる様な体勢のウォーカー。

 自分の鼓動が聞こえるんじゃないかと思った。

 だがウォーカーは無言で立ち上がると、ルナの手を引いて立ち上がらせては、肩に担いでいる二つのロケット砲のうち一つを渡し。


「アリシアを助けろ、俺はコイツを仕留める」


 それだけを言い残し、ウォーカーは残ったロケット砲を担いでは砂塵に消えていく。


 そう。


 これがレイ・ウォーカーだ。


 誰かのレイ・ウォーカーではなく、皆のレイ・ウォーカー。


 ルナ・トゥルソワという一人の女の子を心配したのではなく、一人の仲間として心配してくれたんだ。


 そう思うと急に胸が痛くなってしまう。


 わかっているでしょと自分に言い聞かせ、ルナはアリシアが落ちた民家に急いだ。


 ***


 ルナと別れたウォーカーはそのまま『ウラル』に向かって滑り込んでいく。

 頭部機銃の射界では捉えられない位置になり、アサルトライフルで仕留めようと構えたが遅かった。

 構えたロケット砲を撃鉄。

 放たれた対戦車榴弾は腰部と右足を繋げる関節部に命中。

 飛び散る関節部品、姿勢を崩しては倒れていく『ウラル』。


「これで終わりか」


 激しい黒煙に包まる集落。民兵達のヴァンパイアは全機撃破したと思ったのも束の間。

 黒煙の中から現れたアサルトライフルを構える一機の巨人。

 照準はウォーカーを捉え、彼は思わず唇を噛む。

 ロケット砲の残りはなく、あるのはサイドアームの45口径自動式拳銃のみ。

 拳銃とヴァンパイアでは喧嘩にもならない。

 シルヴィアが付け加えた言葉を果たせないと悟り、最後の悪あがきで拳銃を構えては撃鉄。

 いくらストッピングパワーがある45口径の弾でもヴァンパイアには豆鉄砲に等しい。

 7発目。最後の弾を放ち、終わりと思った刹那。

 目の前に立つ『ウラル』の頭部が突如爆発。

 火線の方を見るとロケット砲構えたシルヴィアがいた。

 構えたロケット砲を捨てて近づいて来るシルヴィア。その姿にウォーカーは少しだけ笑みを溢し。


「お陰で命拾いしました。一つ貸しですね」

「なら何処かで返して下さいね。とっても大きい貸しですから」


 これはもちろんシルヴィアなりの冗談だったのだが、ウォーカーもウォーカーなりの冗談で返答した。


「わかっています。後で大尉の奴隷として働けば良いんですよね?」

「そうそう奴隷に……って、奴隷は要りませんから!」

「じゃあ召し使いですか?」

「それも違います! もうからかわないで下さいよ!」


 必死に否定するシルヴィアにウォーカーは『わかっていますよ、後で好きな願いを言って下さい』という。

 戦闘が終わったと思い、緊張の糸が切れかけてきたのか急にウォーカー頭が痛くなる。

 この頭痛は遠い過去に経験した頭痛と似ている感触。


「大丈夫ですか、ウォーカー軍曹。頭に怪我を?」

「いえ、ただの頭痛です。それよりも発煙弾を投げて下さい。もう救出ヘリが来ます」


 ウォーカーが大丈夫といい、頷いたシルヴィアは発煙弾のピンを抜き、そのまま開けた場所に向け投げた。

 だが発煙弾は何かの壁に辺り、地面に虚しく落ちて発煙。

 発煙弾から焚かれる緑の煙が、その何かを形取った姿にシルヴィアは声が出ない。


『現地の民兵は役に立たないな。ロケット砲ぐらいで全滅か』


 緑の煙の中から現れたエックスを描く赤い四眼。

 緑の煙に縁取られ、それがヴァンパイアだと直ぐに分かった。

 分かったのに煙のみで姿が見えない。


『それに頭痛原因はお前か。見たところ俺と同類ってところだな』


 姿の見えないヴァンパイアから発せられる声にたじろぐウォーカー。

 やがて煙を掻き分けるようにヴァンパイアが迫り、その姿を現した。

 連邦とは違う流線形デザインのヴァンパイア。

 見るからに東欧系のヴァンパイアと分かるが、何より驚いたのは、あのヴァンパイアと同型機であること。


「インヴィジブルシステム……」


 ポツリとウォーカーが言った言葉にシルヴィアは驚愕した。

 インヴィジブルシステムは先進国、それも先進国の中でも大国しか採用していない。

 しかもパイオニア連邦でさえも主力量産機にはインヴィジブルシステムは搭載しておらず、特殊作戦群向けのカスタム機に搭載されていると噂されるくらい。

 そのヴァンパイアがブルパップ式のアサルトライフルを二人に向け。


『まあここで会ったのも何かの縁だ。悪く思うなよ』


 マニュピレーターが動こうとした瞬間、突如アサルトライフルが爆発。

 吹き荒れる爆風からシルヴィアを守ろうとし、彼女を抱き締めながら背中を爆風に向ける。

 何が起こったのか分からないシルヴィアだったが、ウォーカーが轟音を響かせながら飛ぶ、スズメバチの愛称が付けられた鳥を見上げながら。


「間に合ったか。海兵航空団戦闘機です大尉」

「海兵航空団? 何故彼らが此処に!?」


 確かに救出ヘリは呼んだが戦闘機は呼んでない。


「自分が商会の人間に会った時に頼んだのです。可能な場合は救出ヘリの護衛に」


 更に山陰から現れた無数の戦闘ヘリによるミサイルの猛攻がヴァンパイアを襲う。

 その後方には漆黒色に迷彩塗装された救出のティルトローター機が編隊飛行に先行して、大型輸送機も顕る。

 ミサイルの猛攻を食らったヴァンパイアだが、ハンドガンを大型輸送機に向けて反撃。

 耳をつんざく発射音。弾は一直線に輸送機に向かって軌跡を描くが、弾は大型輸送機を掠めていく。

 集落上空に差し掛かると大型輸送機は後部ハッチを開放。直後に荷物をパラシュート降下させた。

 その荷物が何なのか分かったウォーカーは降下地点に駆け出し、ヴァンパイアも危険を察知したのか、荷物に向けてハンドガンを発射。

 弾は再び軌跡を描きながら飛び、パラシュートと荷物を繋ぐケーブルを切断。

 まるで隕石が墜ちたかのような轟音に地響き。

 そして舞い上がる砂塵の中にある荷物にシルヴィアは。


「あれは……『センチュリオン』!?」


 大型輸送機が投下したのは連邦軍の新型ヴァンパイア『センチュリオン』。

 ウォーカーが機体をよじ登り、コックピットハッチを開放して乗り込む。

 メインスイッチを押し、眠れる巨人を起こす。

 ヴァイパーとは違うと瞬時に分かる。

 サテライトリアクターが立ち上り、各部にエネルギーが巡る力強い駆動音。

 正面と左右、そして上面のスクリーンが起動。

 更にメインスクリーンの下段にある球体状の画面には文字が浮かぶ。


「Administrator System……?」


 システム起動の文字が浮かび上がったと思ったら直ぐに滲むようぬ消えてしまい、スピーカーから女性の声が流れる。


『この機体が無事にアステロイドベルトの、あんたに届いていることを願うわ』


 この声はシルヴィアの親友であるリーナの声。


『それから、まだ組立てしたばかりの新品なんだから無茶しないこと。壊したら給料から差し引くから覚悟しときなさい。あと武装は頭部機銃と腰に装備してある実剣のみなの……本当だったらシルヴィを守る為に新型ライフルを装備させたかったけど許可が下りなかった……シルヴィに謝っといてちょうだい』


 こういう所がパークス大尉らしいとウォーカーは思った。

 親友の為なら何でもするところがだ。


『それと……シルヴィを守ってあげて。私じゃ駄目だから』


 音声メッセージが終わり、最後のメッセージの意味を考える前に、まず目の前の脅威に立ち向かわざる得なくなる。

 さっきのヴァンパイアがハンドガンを構えては撃鉄。

 弾丸は即座に銃口から射出され、真っ直ぐ『センチュリオン』に向かっていく。

 回避しようと操縦桿を引くが、間に合わないと覚悟したウォーカー。

 今までの戦闘経験から最悪胸部破損、良くても腕を破損すると思った。

 だが機体はハンドガンの弾丸を見事に避けてみせる。


「ッ!?」

『ッ!?』


 互いに何が起きたのか分からない。

 確かに弾は『センチュリオン』を捉えていたし、避けられる間合いではなかったはず。

 それなのに避けてみせ、『センチュリオン』のツインアイを隠す薔薇色のバイザーが輝く。


『そうか、遂に連邦もバックアップを受けているってことか……らなッ!!』


 腰部に装備していた実剣を抜いては向かって来る。

 それを見てウォーカーは頭部機銃で牽制しつつ、同じ様に実剣を構えては鍔迫り合い。

 鈍い金属がぶつかり合う音を響かせながら火花を散らし。


『同じ性能なら、パイロットの腕で決着をつけるしかないよな! 同類さんよッ!!』

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