反攻開始
暗闇の中から現れたストリートにギデオン、それにルナにアリシア。
突然現れたことにも驚いたが、四人だけで他の隊員や拐われた人もいない。
「ストリート、マリアはいないのか」
「マリアは他の連中と一緒に向こうにいる。俺達は偵察に出ていたから助かったがな」
集落の方を指差しながら言うストリートにウォーカーは冷静に返す。
「そうか。大尉が負傷してるから診て貰おうと思っていたんだ」
「負傷? 重傷なのか!?」
驚くストリートにシルヴィアは直ぐに首を振りながら訂正する。
「だ、大丈夫ですよ。破片が刺さっただけで、直ぐにウォーカー軍曹が手当てしてくれましたから。それよりも、あなた達が無事で良かったです」
自分の身体より仲間の心配をする所が、いかにもシルヴィアらしいと言えばシルヴィアらしい。
その言葉にストリートを初め、ルナ達は溜息を吐く。
「レイがいたから良かったが、大尉だけなら死んでいたな」
「だな。嬢ちゃん、これからは一人でどうこうしようとするんじゃないぞ」
「そうそう。せっかくレイを弄る材料が死んだらつまんないし」
「てか、あんた馬鹿なの? 訓練教本で読んだからって、直ぐに操れるほど『ウラル』は甘くないんだから」
「ええ!? みんな酷くないですか!?」
シルヴィア的には温かく迎えてくれると思っていたけど、実際は保護者の手を焼く子供扱いに驚いてしまう。
だけど実際はシルヴィアの事を心配していたのが感じ取れた。悪態や悪口は照れ隠しだなと思ったからだ。
「で、どうするんだレイ。何か作戦はあるのか」
ストリートの視線の先にいるウォーカーはロケット砲を担いでおり、不利な状況なのに戦う気に満ちていた。
「あるにはある。だが一か八かの作戦……いや、作戦とは呼べない作戦になるがな」
珍しく弱気な発言にシルヴィア以外の皆が目を丸くする。
「お前、本当にレイか?」
「どういう意味だ?」
質問返しをするウォーカーにストリートは頭を掻きながら。
「いや、珍しく弱気だなって」
「別に弱気になっていない。ただの確率の話だ。いくらロケット砲で武装しても敵だって馬鹿じゃない。『ウラル』はパイロット次第で手強いヴァンパイアになる。旧世代だからって油断は禁物だぞ、ストリート」
「そりゃそうだけどよ。それで、その肝心の一か八か作戦はどんなヤツなんだよ」
ウォーカーの言う一か八か作戦を聞く為に集まる一同。
作戦を説明していくにつれて皆の顔が渋くなっていく。
「ねぇレイ。その作戦、本気でやる気?」
不安そうな顔をするルナにウォーカーはいつもの冷静な声で答えた。
「これしかない。救出ヘリが来るまでに『ウラル』を倒さないと駄目だ。『ウラル』の武器ならヘリを簡単に落とせるからな」
「そうだけど、失敗したら?」
「失敗したら俺達や仲間は死ぬだけだ。どのみち助かるにはこれしかない」
ウォーカーが告げる非情な現実。
普通だったら否定するところだが、ルナは否定しなかった。
もしドラグーン隊の全員がいたとしても否定はしない。
皆、ウォーカーがいなければ死んでいるということをわかっているからだ。
自分達は何も知らず、教えられずに配属されたから。
あの日、ウォーカーが配属されなければ土の中に埋められている。
だからウォーカーの瞳を見て、ルナは信頼の言葉を託す。
「……分かった。レイに命を預けるよ」
戦いに向けて準備し始めたルナを見届けては、ウォーカーはシルヴィアの前に立ち。
「大尉、作戦の許可を頂けますでしょうか」
「許可します、ウォーカー軍曹。皆の命、あなたに一時預けます」
「了解しました」
ウォーカーにストリート。ギデオンやルナにアリシア。各々が準備を整えたのを見届け、シルヴィアが皆に作戦概要を付け加えた。
みっともなくてもいいから生き抜く勇気を捨てないでと。
***
集落に続く側溝を這うストリートにギデオン。
土を掘っただけの側溝は泥濘んでいては強烈な悪臭を放っていた。
「くッさ! なんなんだよ、この臭さはよ」
「生活排水だ。下水道みたいなもんだな」
ほふく前進で這う二人。ギデオンの言う通り生活排水で、洗剤みたいな泡が浮いてるし、ヘドロみたいな滑りまである。
「たく、海兵隊になって一番の糞溜めだな」
「ぼやくなストリート。それに海兵隊日和だろ」
「冗談じゃない。海兵隊なんか入らず陸軍希望にすればよかった。いつもいつも海兵ばっかり先頭だしよ」
ぼやくストリートにギデオンは思わず笑ってしまう。
ストリートのいう通り海兵隊は戦いの先陣を切ってるからだ。
海兵隊が慣らした陣地に陸軍が労せず手に入れるのが気に入らないだろう。
「お前のぼやきを聞くのは構わないが、そろそろ煙草を吸いたくなってきたな」
「煙草は諦めろ、とっつぁん。とっくに濡れてるぞ」
「濡れてる? ……あっ!?」
ストリートに指摘されて急いで胸ポケットを触るとグシャリと感触。
ほふく前進で側溝を這っていたから身体の正面は泥で濡れているのだ。
「ま、下水臭い煙草を吸いたいなら乾かせば吸えるかも知れないぜ」
「……うるせぇ」
笑いを堪えるストリートのブーツを小突くギデオン。
それから無言で進んで行くと巨大な陰が二人に覆い被さり。
「いよいよおっ始めるか、準備しろストリート」
「あいよ。頼むぜとっつぁん」
***
ギデオンとストリートが生活用水に溺れている頃、ルナとアリシアの二人は集落に向けてトラックを走らせていた。
舗装されていない荒れた農道を走らせれば車体は激しく揺れる度にルナが嫌味を言う。
「痛ッ!! なんて道なの本当! それに現地トラックはこれだから!!」
助手席に座るルナの嫌味にハンドルを握るアリシアは
「ぼやかないぼやかない。軍のトラックと似た様なものでしょ」
「それはそうだけど、車内が汚な過ぎ!」
ルナが激しい揺れに耐えながらも体躯座りで叫ぶ姿にアリシアも頷いてしまう。
車内には煙草の吸殻やら、食べかけ飲みかけのスナック菓子にジュースが散乱。
おまけにハンドルもベタベタして汚ないときた。
「作戦が終わったらシャワーを浴びしたい気分ね、次いでにレイをぶっ飛ばしてコキ使ってやる」
「賛成さんせい!」
盛り上がる二人をよそに、一機の『ウラル』がトラックに銃口を向けて。
『そこで止まれ!』
トラックが『ウラル』に従い急停止し、互いに視線を交わしてはルナは表に出た。
「私達は見ての通りの商人で、集落に商品を持ってきたのよ」
『商品だと?』
疑問声の音声に周囲の『ウラル』が集まってきては、アリシアが運転席から出て荷台にある麻袋を『ウラル』に見せつける。
「ほら、見ての通りの乾燥トウモロコシだよ。ウチのトウモロコシは甘いって評判なんだ。なんだったら食べてみるかい」
乾燥トウモロコシの粒を手のひらに乗せ、周りの『ウラル』にも見える様にクルクルと回る。
すると一機の『ウラル』が近づいて来てはコックピットハッチを開く。
『助かる。最近まともな食いもんを食べてないからな』
「そうかい。乾燥トウモロコシは沢山あるからサービスするよ」
麻袋に手を入れながら言うアリシアに、『ウラル』を操縦する民兵は思わず舌舐りした。
ルナもアリシアも現地住民の格好をしており、半袖短パン姿と麦わら帽子。
『ウラル』のパイロットは乾燥トウモロコシよりもアリシアに食指が動いてしまい、『ウラル』の手でアリシアを掴んで持ち上げた。
『出来れば手渡しで――ッ!?』
乾燥トウモロコシの麻袋ごとアリシアを引き込もうとした。
だが目の前に写るのは麻袋の中から無誘導ロケット砲を取り出し、それを『ウラル』のコックピットに向けて構えるアリシアだった。
「くたばりな」
そう短い言葉を放って撃鉄。
直後、対戦車榴弾がコックピットブロック内部を吹き飛ばしては、激しく燃えながら黒煙を上げた。




