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代わりはいくらでもいます

 オセアニア上空を飛ぶ旅客機。

 人と外界を隔絶させる機内窓。その外からは大都市の輝きに負けない光を放つ場所が幾つも点在している。

 もちろん輝きの正体は大都市の輝きではなく、命が散っていく輝き。

 すなわち戦闘による戦火。

 その輝きを眺めてはワインを口にする金髪碧眼の男。


「隣、いいですか?」


 一人の男が金髪碧眼の男に話し掛けた。

 その瞬間、背後に座っていた少女が上着の中に手を入れる。

 男も一瞬身構えたが、直ぐに金髪碧眼の男が手で静止。


「別に構わないよ。一緒にワインでも如何かな? 合成酒ではなく本物だよ」

「……頂きます。Mr.リューゲ」


 男がリューゲの隣に座るなり、彼のグラスにワインを注いでいく。


「下界は未だに戦争中ですか」

「ああ。オセアニアは現在引き起こした戦争の中で指折りの激戦地だ。だから我々としても介入し易いし、これも計画の内だ」


 注がれたワインに口をつけると男は思わず。


「っ!? やはり本物は違いますね」

「分かるかい? まあ君の国はワインの名産国だから分かって当然か」

「……かつて、ですよ。食糧難で、先進国と言われた名残りすらありませんから」

「それは残念だ」


 口では言っているが、まるで気持ちが込もっていないリューゲの言葉。

 そんなリューゲに男は怒らずにワインを飲み干しては。


「ウチも第五次導入計画から本格的にシステム導入が決まりました。既に予算編成を終え、議会の承認も取り付けてます。現在進行中の第四次導入計画に間に合わなかったのが残念ですが」

「仕方ないよ。君の国……いや、かつて欧州の先進国と言われた国は自分達が一番じゃないと気がすまない人種だからね。過去の栄光が忘れられずに未来が見えないんだよ、帝国以外は」

「まったくです、Mr.リューゲ。既にシステム対応型のドローン、並びに第五世代ヴァンパイアの生産も計画通りに行われています。懸念はパイオニア連邦と、その帝国ですが」


 空になったグラスに再びワイン注いでいる最中、「その点は大丈夫たよ。最後のピースも、ほぼ決まったようなものだ。いかに足掻こうが時代の流れは止めることができない」リューゲの言葉に男が口を開こうとした瞬間、客室乗務員からアナウンスが入る。


『当機は間もなくオセアニア国際空港に着陸の予定になりますが、只今当機の予定進路上にて連邦軍機が優先権を行使しております。そのため進路が空き次第着陸になりますので、今暫くお待ち下さい。繰返します、只今当機は――』


 眼下の戦火を見下ろしながらリューゲは呟いた。


「既に賽は投げられたよ、我が愛しき人。勝つのは選ばれし人類を導く彼女か、それとも旧態依然として生きる人類を導く彼女か。君がギャラルホルンを吹く日が、私は楽しみで仕方がない」


 ***


 舗装されていない泥濘んだ道を勢いよく走り抜けるトラック。

 窪みを踏む度に車体が激しく揺れ、荷台の床から身体が浮いてしまい、うっかり口を開いたらりしたら舌を噛みそうになる。

 激しく揺れる荷台。シルヴィアは必死に荷台を覆う幌の骨組みを掴む。


「……痛っ!? ウォーカー軍曹! 集落はまだですか!!」


 油断した隙に舌を軽く噛んでしまうシルヴィア。

 この商人達が使うトラックは年代物なのか、エンジンの騒音もけたたましく、おまけに走行音がダイレクトに響いてくる。

 シルヴィアの問い掛けにウォーカーが荷台から顔を出して。


「もう直ぐのはずです! このジャングルを抜けれ――」


 ウォーカーがみなまで言う前にトラックがジャングルを抜けて田園地帯に飛び出した。

 シルヴィアも荷台から顔を出してやっと安心できると思った。

 だが眼前に見える集落からは黒煙が見える。

 更に運が悪いとしか言いようがない光景。

 複数の『ウラル』の姿に二人の顔が険しくなる。


「急いでバックしろ!」


 ウォーカーの叫びにトラックは急停止。土煙を上げながら止まると、ライトを消してジャングルに引き返す。

 ジャングルにトラックが隠れるなりエンジンを切って息を潜めた。

 幸いにも『ウラル』は動いていない為に気付いていない。


「どうするよ、軍曹さん。ありゃ民兵達だぜ」

「分かっている。何か武器が……」


 ウォーカーが荷台に積まれている木箱に目がいくなり、男が視線を遮る様に間に入った。


「これはダメだ! 大事な商品なんだから!」


 有無を言わさずウォーカーが木箱の蓋を抉じ開けると、中には円筒状の武器が幾つも収められていた。

 その武器を見るなりシルヴィアが。


「対戦車ロケット砲!?」

「携帯型無誘導ロケット砲ですね。しかも刻印は消されていますが、形状からしてロスロア連邦共和国製と思います」

「ロスロア連邦共和国……帝国といい、大陸二大国家がオセアニアに介入しているなんて」


 ロスロア連邦共和国は大陸東部を統治する強国。

 パイオニア連邦の仮想敵国でもあり、欧州の半分を統治する帝国と並ぶ二大大陸国家だ。


「まだロスロアが介入してるとは限りません。あの国は連邦共和国になる前の前身国家が半壊してます。その際に兵器を売って外貨を稼いでいましたから」

「それは……そうですが」


 確かにロスロア連邦共和国の前身国家は経済が半壊し、外貨を得る為に国家のあらゆる財産を第三国に売り捌いた。

 通常兵器である小火器から戦車に始まり、自国で生産する機密性が極めて高いヴァンパイアまでも商品にした。

 このロケット砲も、その一部だろうとシルヴィアも思った。

 いや、思いたかった。

 仮に帝国と連邦共和国の二国がオセアニアに介入している場合はパイオニア連邦とオセアニア政府軍に勝機は無い。

 軍事力だけに限って一対一の殴り合いならパイオニア連邦も負けない戦いは出来るが、反政府軍や民兵を合わせ、更に帝国と連邦共和国を合わせたら勝ち目なんかなく、単純に屠られてしまう。

 だがシルヴィアには分からなかった。

 連邦共和国の介入は定かではないが、帝国が介入するメリットがだ。

 戦争を長引かせてパイオニア連邦を弱らせる狙いなのか、はたまた別の狙いがあるのか。


「取り敢えず()()で何とかします。救出ヘリも、もう直ぐ来るでしょうし」

「コレでって、対戦車ロケット砲でですか!? 自殺行為です! 対戦車ロケットではヴァンパイアの装甲は破壊出来ませんよ!」


 シルヴィアの意見はもっともだった。

 対戦車ロケットの弾頭では戦車の装甲は貫けてもヴァンパイアの装甲までは貫けないからだ。

 だがウォーカーはシルヴィアの意見に耳を傾けずにロケット砲を担ぎ始めた。


「大丈夫です。パイロットにはパイロットの戦い方がありますから。それに俺がやらないと救出ヘリと部隊は全滅します」

「俺がって、私だって戦えま――ッ!?」


 痛みに耐え兼ねて傷口を押えるシルヴィアを見てウォーカーは言う。


「その傷では無理ですよ。貴女は死ぬべき人ではありません。()()()()()()()()()()()()()()()()


 悲しい言葉を平然と言うウォーカー。

 代わりは幾らでもいるという言葉にシルヴィアが何か言おうとした瞬間、草の葉が擦れる音。

 誰か来たと思い、ウォーカーはシルヴィアの腕を強引に引っ張っては荷台奥に追いやる。

 直ぐにナイフと拳銃を構えて身構えた。

 段々と近付く足音。

 枯れ草や枝を踏む音からして相手は複数おり、不利な現実に唇を噛む。


「俺だレイ。銃を下ろせ」


 発せられた言葉に遅れて複数の隊員が現れる。

 ストリートにギデオン。それにルナとアリシアだった。

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