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連邦軍再編計画

 シルヴィアとウォーカー。二人の前に立ちはだかる謎のヴァンパイア。

 幸いにも二人が乗機している『ウラル』は攻撃こそ受けたが破損したのは左腕部のみ。

 メイン武装であるライフルを持った右腕は生きている。

 空かさずウォーカーがライフルの銃口を謎のヴァンパイアに向けるなりトリガーを押す。

 ライフルの銃口から放たれてる高速徹甲弾。

 相手は態々至近距離まで近付いてくれた。

 普通の人間の反応速度なら、まず避けることは不可能。

 だがそのヴァンパイアは意図も簡単に避けて距離を取り、まるで小馬鹿にしたように両手を上げながらアピールしてきた。


『危ないあぶない。銃口は人に向けてはいけませんってママに習わなかったのでちゅか~』


 その言葉にウォーカーは唇を噛み、再び銃口をヴァンパイアに向けてはトリガーを押す。

 だが高速徹甲弾はヴァンパイアに当たる事は無く、まるで予期しているかの様に避けられてしまう。


『つまらんつまらん。もうネタ切れか、連邦の仔猫ちゃん』


 ゆっくりと近付きながら、人差し指を左右に振り煽ってくるヴァンパイア。

 機体の性能差やパイロットの技量を越えた動きをする敵に二人の思考は混乱。


「ウォーカー軍曹、一旦退きましょう。敵のヴァンパイア……あのヴァンパイアは危険です!」

「……」


 シルヴィアの言葉に無反応のウォーカー。

 堪らずシルヴィアは声を荒げた。


「しっかりしなさいレイ・ウォーカー軍曹! 一時退却します!!」

「っ!? 了解!!」


 謎のヴァンパイアに『ウラル』はライフルを撃ちながら退却。

 第四世代のヴァンパイアならスラスターを吹かして一気にジャンプするが、第三世代のヴァンパイアにはスラスターを使う程の動力は無い。


『逃がすかよ! こちとらお前達の所為で大事な商品が盗まれたんだからな!!』


 敵のヴァンパイアがハンドガンを構えた。

 ハンドガンとライフル。火力差で弾幕を張っていれば逃げ切れる。

 そう確信した矢先、敵のヴァンパイアが構えるハンドガンの銃口から閃光。

 その光が見えた瞬間、再び強い衝撃が二人を襲う。

 ウォーカーが計器を見ると、左腕を破損した以外に右足を破損したと警告する赤い表示。


『人の物は盗んだらイケナイって一般常識だろうがぁ!!』


 次々と放たれてる凶弾に『ウラル』の特殊装甲が剥がれていき骨組みが見えていく。

 左足が捥がれ、ライフルを持っていた右腕も吹き飛んでしまう。

 圧倒的な力の前に蹂躙される恐怖。

 コックピットのスクリーンがひび割れては飛び散り、破片がシルヴィアの頬を切っては、その純粋無垢な肌に恐怖を植付けていった。


『さてさて。どんな奴がお痛をしたのでちゅかね~』


 謎のヴァンパイアが地面に横たわる『ウラル』に近付いては、頭部下にあるコックピットハッチを引き剥がした。


『これはこれは。幼気な仔猫ちゃんと野良犬じゃないか』


 シルヴィアとウォーカーを見つめる四眼のヴァンパイア。


『お前たち怒らないから商品を何処に逃がしたんだ。ライベンお兄さん言ってみなさい』


 小馬鹿にするように謎のヴァンパイアは聞き耳を立てる素振り。

 まったく反応がない二人にライベンは溜息を漏らす。


『やれやれ……恐怖でオシッコチビっちゃったかなぁ~』


 その瞬間『ウラル』の頭部が謎のヴァンパイアに向き、即座に頭部にある3〇口径機銃が火を噴いた。

 だが対人用である機銃弾ではヴァンパイアの装甲は貫けずに虚しく弾かれてしまう。


『質問には直ぐ答えるってママから教わらなかったのかぁ!!』


 ライベンの怒声に呼応して謎のヴァンパイアは『ウラル』頭を蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばされた頭部は無残に砕かれ、残骸はジャングルの奥地に消えていく。

 手持ちの武器はなく、機体の動力源が失われてしまい計器類がブラックアウト。

 残された手段は一つしかなく。


「脱出レバーを、軍曹!!」

「ッ!!」


 背後に座るシルヴィアの声に従い、ウォーカーはヘッドレストにある脱出レバーを両手で掴みながら勢いよく手前に引いた。

 即座に二人の座席は機体から飛び出し、遥か上空でパラシュートを展開。

 それを見たライベンは機体を動かそうとするが、突如機体が固まって動かない。

 スクリーンに映る計器を見ると、赤文字のリアクター温度急上昇警告。


『またオーバーヒートか、クソクソーん! 数発しか撃ってないのに! このポンコツヴァンパイアが!!』


 ***


 暗闇の中で声が聞こえる。

 懐かしくも温かみを感じる男性の声にシルヴィアは微かに意識を向けた。

 薄っすらと見える男性と女性の姿。

 周りには幾つもの端末に、天井に吊るされているモニター。

 そのモニターには子供の写真が幾つも映し出されており、赤く表示されている写真もある。


『君は分かっているのか。君達がやっている実験が旧世紀の再現だということを』


 平静を装っているが、その声音には明らかに怒りを滲ませている。

 その怒りを向けられた女性が口を開く。


『分かっています。しかし連邦軍再編計画の一部だということも分かって頂きたい、ウィンチェスター閣下』

『連邦軍再編計画とは聞こえはいいが、実態は連邦の利権を食い物にしている軍産複合体とマッドサイエンティストの実験場だろうに。明らかに君達の実験は常軌を逸している、シェリー・ウォーカー博士』

『常軌を逸していて結構。これは連邦軍……いえ、連邦政府の意向なのです。敵国より強いヴァンパイアを、敵国より優れたパイロットを、とね』


 女性も負けじと怒気を滲ませては一歩も引かない。

 シルヴィアは思い出した。

 ここは幼き日に父親に連れて来られた場所だ。


『連邦政府を盾にするとは白々しい……君は自分のエゴの実現に何百人の子供達を犠牲にする気だ』

『白々しい? 笑わせないで、何百人犠牲になろうが誰も悲しまないわ。この子達は○○○○なのよ。それにウィンチェスター家の思惑だってあるじゃない。今さら()()()()()に縋るんだものね。彼女はその為の存在でしょ』

『それは彼女を盲信する一部の者がやり始めたことだ。私はこの計画を知った瞬間、自分がいかに化け物どもが巣食う家に来てしまったと後悔したくらいだ。だが大人として君と君の家とは違い、責任は取るつもりだ。それがウィンチェスター家に嫁いだ男のせめてもの償いだと信じている』


 女性の言葉が掠れて聞こえてしまい、意識が集中出来ないでいると、怒りを滲ませてウィンチェスター准将が一枚の紙をウォーカー博士に突き出した。

 その紙を受け取るなりウォーカー博士の額に汗が滲む。


 最重要機密命令

 発 統合参謀本部 宛 ノーフォーク研究所


 大統領令により連邦軍再編計画は中止とする。

 全ての機密ならびに試作機を破棄、または処分を速やかに遂行されたし。

 また計画関係者は次の命令あるまで待機。


『そんな……あり得ないわ!』

『現に統合参謀本部から大統領命令が出ている。君達の実験を知った大統領が決断したことだ。評議会や公聴会も計画に気付き初めている。パイロット養成に遺伝子操作や薬物投与は常軌を逸しているとな。まして君は自分の子供を――』


 その瞬間、シルヴィアは激しい激痛で目が覚める。

 手足の感覚はあるが、地に足が着く感覚が無い。

 気が付くと自分の身体が木にぶら下がっているのが分かった。

 脱出した際、パラシュートの紐が上手く木に引っ掛かったらしい。

 不意に部下であるウォーカーを捜して辺りを見回す。


「ウォーカー軍曹……ウォーカー軍曹何処にいますか! 返事をしてください……ウォーカー軍――痛ッ!?」


 急に脇腹が痛み出し、激痛箇所を見てみると細い破片が脇腹に刺さっている。

 出血量からして大事ではないが、傷口から感染症を引き起こすと厄介だ。


「こんな時に……救急キットは」


 太股に備え付けていたはずの救急キットに手を伸ばすが虚しい感触が伝わる。

 イライジャの治療に自分の救急キットを使った事を失念していた。

 予備の救急キットはバックパックの中だが、そのバックパックも隊員達に預けたままときた。


「そうだ、脱出した座席裏に」


 ヴァンパイアの構造は東西で違うが、こと救急キット等は座席裏に装備してるのが世界共通なのを思い出す。

 旧式の『ウラル』でも救急キットはあるはずだし、上手くすれば組立式の短機関銃があるはずだと。

 更に座席には救難ビーコンがあるから、脱出用ヘリが見つけてくれるかも知れない。

 そんな淡い期待を抱くシルヴィアだが、まずはこの状況から脱しないといけない。

 何とか手持ちの武器になりそうな物を探す。

 サイドアームのリボルバーはあるけど、ジャングルでの発砲は敵に気付かれてしまう為に使えない。

 そうこう考えているとジャングルの葉を揺らす音が近付いてくる。

 息を殺しては、サイドアームに手をかけた。

 一人なら何とかなるが、複数なら終わりを意味する。

 ウォーカーのいう通りに自分で方をつけなくてはいけないからだ。


「大尉? ウィンチェスター大尉ですか?」


 闇夜のジャングルから現れたのはウォーカー軍曹。

 彼の声はシルヴィアにひとときの安息をもたらした。

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