馬鹿みたい
シルヴィアとウォーカー、そしてドラグーン隊がいなくなった民兵達のアジト。
捕虜や女性達が消えたアジトは一時の混乱を立て直しているかの様に見えた。
だが一機のヴァンパイアから降りてきたパイロットがアジトの有り様を見て叫ぶ。
「私がちょっと留守した途端に、この有り様とは……一体全体どうなっているんだぁ!! あぁ!?」
「すみません! 気付いたらウラルに乗る敵兵に――っ!?」
一発の乾いた銃声が鳴り響いた。
先程の男が民兵の眉間に自動式拳銃の弾を見舞い、倒れた民兵の襟首を掴んで揺らす。
「誰が発言していいと言った!? 発言する時は、まず手を上げてからって先生に習わなかったのか!?」
眉間を撃たれ無言の民兵。そのまま襟首を掴んでいた手を離す。
「ダメだ、死んでやがる。くそぉ!! 何で死んでるだよ!!」
頭を抱えながら叫ぶ男、周りの民兵が萎縮するなか一人近づく者。
「お前が馬鹿みたいに雑魚を殺してるからだろ、ライベン」
「あぁ?」
ライベンが振り向くと、一人の黒髪少年が立っていた。
少年の真後ろには漆黒に塗装されたヴァンパイア。
頭部のカメラはエックスを描くように赤い四眼が輝きを放つ。
「なんだレイヴン、私のやり方に楯突くのか」
「別に。お前が幾ら雑魚を殺そうと構わない。だが追跡するなは雑魚の手も欲しいからな。殺すなら終わった後にしろ」
「ふん! つまらん正論だな、可愛げのない」
「悪いがお前の気持ち悪い矜持に興味もなければ賛同もしない。いいから早く行くぞ。夜明けも近いしな」
気持ち悪い矜持と言い放ったライベンを見てから東の山を見る。
「それなら心配はいらん。おい!」
ライベンが撃破されたウラルにいる男に声を掛けた。
すると男はウラルに繋げていたケーブルをタブレットから放し、すぐさまライベンに渡す。
「いくらポンコツのヴァンパイアでも、近代化改修でミッションレコーダーに映像が残ってるからな。迂闊悪いことも出来ないときた」
タブレット画面に注目するライベンとレイヴン。
みるみる内にライベンの眉間にしわ寄せが。
「やっぱり連邦軍か……たく、人の商売を邪魔しちゃいけないってママに教わらなかったのか! 人が折角集めた商品を……くそぉっ!!」
タブレットを地面に叩きつけ、画面が割れても何回も踏みつける。
「で、どうする? 時間からして徒歩でも遠くに逃げたぞ」
「なーに心配いらん。このジャングルだ、慣れない人間は遠くには行けない。それに奴らのことだ、脱出用のヘリを呼んだに違いないからな」
ライベンが言うには、ここから遠くない場所に集落があると。
ヘリでピックアップするならそこしかないという。
それにはレイヴンも異論はなかった。
少数精鋭ならともかく、大勢の捕虜を連れてジャングルの移動は厳しいから、必ずヘリの脱出を考える。
だがレイヴンには同時に不安を感じてしまう。
敵は自分達から奪った『ウラル』で、それもたった一機で民兵達が使う『ウラル』の大半を撃破した。
幾ら民兵達が練度の低いパイロットとはいえ、戦力差を考えれば自分達が明らかに有利なのに敵が勝利した。
素直に事実を認め、導き出される答えは敵のパイロットは相当に腕が良い。
それもエースパイロットに近いと考えないと辻褄が合わないのだ。
「レイヴン、私は躾のなってない仔猫ちゃんを追う。お前は残りを率いて集落に向かえ」
***
闇夜のジャングルに響き渡る地響きに暗闇を照らす砲火の火線。
「大尉、残りの残弾は」
「予備弾倉二つ! 装填弾倉は半分です!!」
シルヴィアとウォーカー。二人が鹵獲したヴァンパイア「ウラル」を追い詰める民兵達の「ウラル」。
深いジャングルは足場が悪いのに、ウォーカーが操る「ウラル」は軽やかに身をこなして火線を避けていく。
初めてウォーカーがヴァンパイアを操る所を間近にみたが、シルヴィアはただ驚愕と感嘆を交えた複雑な感情になる。
士官学校からヴァンパイアの操縦には自信があった。
ワシントンでの戦いでも不利な状況覆した自信もある。
たがウォーカーの操縦を見ていると、そんな自信は自分を惨めにするだけだった。
彼の操縦技術は自分よりも卓越している。
第三世代の初期型ヴァンパイア。それもディーゼル仕様の「ウラル」を、まるで連邦が使う量産ヴァンパイア「ヴァイパー」の如く扱うからた。
関節機構だって「ウラル」よりも「ヴァイパー」の方が、より人間の動きに近い。
なのにウォーカーが操る「ウラル」は「ヴァイパー」のように動いている。
これが古参兵との実力差と思うと、自信なんてものは吹き飛んでしまう。
「最後の一機を撃破。大尉、大丈夫ですか」
あれ程の戦闘を繰り広げたのに、目の前に座るウォーカーは息一つ乱れていない。
対してシルヴィアは初めての戦地に、ワシントンの戦い以上の敵機を相手にして呼吸が荒くなってしまう。
「……はい。それよりも見事な操縦でしたウォーカー軍曹」
「これくらい普通です。自分にとっては『ウラル』は扱い易いヴァンパイアですし、本国にいた時は可変試作機のテスト――」
「可変試作機……?」
つい余計な事を言ってしまったとウォーカーは口ごもる。
何の事か分からない彼女の問いに答えることはなかった。
「……何でもありません。ストリート達と合流しましょう」
言いたくないという声音が混じるウォーカーの言葉にシルヴィアはただ黙って頷いた。
「わかりました。集落はここからだと離れています。合流時間が近いから急ぎましょう」
「了解です」
それは一瞬の出来事だった。
二人が乗っている『ウラル』が方向転換した際、サイドスクリーンに映る丘上から何かが発光。
小さな星が爆発したみたいな閃光が見えた瞬間、『ウラル』の左腕が吹き飛んでいった。
左腕が吹き飛んだと同時に感じた衝撃は強く、機体が地面に倒れてしまう。
突如スピーカーから聞こえる知らない男の声。
『ほう、胴体に風穴空けてやろうと思ったのに、一瞬で機体を僅かに動かすとは大したものだ』
強い衝撃を吸収しきれず、未だに視界がぼやけるシルヴィアとウォーカー。
倒れ込んだ『ウラル』を立ち上がらせると、後部に座るシルヴィアが驚愕の声を出してしまう。
「うそ……なんであの機体がここにいるの」
メインスクリーンに映る機体は民兵が使う『ウラル』ではない。
ドラグーン隊を、たった一機で半壊まで追い込んだ、あのヴァンパイア。
そのヴァンパイアの頭部からはエックスを描く四眼が輝きを放ち、丘上から飛び降りてきてはシルヴィア達の前に立ちはだかった。
『こんばんは連邦の仔猫ちゃん。さあ、人の物を勝手奪った罰で、お仕置きタイムのはじまりだぁ!!』




