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大事な商品

 ウォーカーが何か言おうとしていたが、勇み足のシルヴィアには届かず、ウラルの元に向かってしまった。


 夜も明けぬオセアニアのジャングル。民兵達は焚き火を囲っては点在して休んでいる。

 幸いにも民兵達が所有しているウラルは起動しておらず、その巨体を静かに眠らせていた。

 夜営地の中央には数人の民兵に張り付けられているオリバー。

 拷問されたのか、上半身には無数の切り傷。

 それを囲うように、左側には囚われている女性達。右側にはコンテナに木箱、そしてウラルが駐機している。

 シルヴィアは木箱の物陰に隠れながらゆっくりと、そして迅速に近付く。

 対するウォーカー達も闇夜に紛れて女性達に近付いた。

 ウラルまでちょっとの所で、シルヴィアの近付く巡回する民兵。

 急いでシルヴィアは木箱の陰に隠れて息を殺す。

 ライフルでは取り回しが悪いのと、静かに対処する為にナイフを構えて。


「たく、奴らは人使いが荒すぎるぜ。俺達は留守番で、アイツらはビジネスと言って散歩してるんだからな」

「まあそう言うな。ヤツらのお陰で俺達は戦えているんだ。反政府軍の連中なんか、帝国の派遣軍に教練してもらっていれしいぞ」


 民兵達の雑談交じりの会話。

 その中には気になる単語があった。

 帝国の派遣軍と、民兵達が言うヤツらという存在。

 サミュエル司令官の言うとおり、反政府軍や民兵達は第三勢力の軍事援助を受けているらしい。

 その中でも帝国の派遣軍は連邦軍にとって脅威レベルが高い。

 恐らく彼らの言う帝国派遣軍は欧州二大列強の一つだろう。

 だが今は救出が最優先。巡回する民兵達が遠のくなり、シルヴィアは両膝と両手を地面に付いて駐機しているウラルによじ登る。

 コックピット付近にあるハッチの開閉レバーを引っ張っては驚愕。


「複座式!?」


 複座式のコックピットに驚いたと同時に、士官学校時代の座学を思い出した。

 東欧のヴァンパイアは連邦を含めた西側諸国のコピーが始祖になる。

 単にコピーならいいのだが、劣悪なコピーヴァンパイアと言われていた。

 インターフェースも時代遅れで、西側は最初から単座式をメインに開発していたのに対し、東欧は開発に遅れていた為に操縦とレーダー管制システムを別々に制御。

 おまけに装甲開発も遅れていて爆発反応装甲なんていう、東欧お得意の装甲を採用して第三国に輸出したモンキーモデルは壊滅的損害を被って西側に笑われたくらいだ。


「ウィンチェスター大尉」

「ウォーカー軍曹!? 何故来てるのですか、あなたには救出の指揮を任せたはずです」


 眼下にいたウォーカーはシルヴィアの問いに答えることもなく上がってきた。


「救出の指揮はストリートで十分です。ルナやマリア、アリシアも優秀な下士官ですから心配要りません」

「それはそうですが、私はあなたに頼んだのですよ!?」

「悪いですが現場指揮官の判断でしました。処罰は後で受けます。それよりも……やはり初期型のウラルでしたか」


 複座式のコックピットを見ながらいうウォーカー。


「やはりって、知ってたのですか」

「一応は。民兵達が使うヴァンパイアは第三世代が主ですから。しかも初期型の払い下げや、輸出型のモンキーモデルが奴らの主武装です」


「知ってたら何故言わないのですか!?」と言いそうになったが口を紡ぐ。

 自分が離れる際、ウォーカーが何か無線で言っていたのを思い出したからだ。

 自分の未熟さを恥らっていると、ウォーカーが訊いてきた。


「大尉。操縦とレーダー管制、どちらに付きますか? ウラルの操縦は難しいですよ」


 ウォーカーとしては気を使ったつもりだっだが、シルヴィアの琴線に軽く触れてしまう。

 いくら現場経験豊富だからといって命令を訊かないのは癪に障るし、シルヴィアだって士官学校を首席で卒業した自信がある。

 ウラルの操縦は座学では習ったつもりだ。

 だから――。


「私が操縦します。ウォーカー軍曹はレーダー管制をお願いします」

「大尉。ウラルはヴァイパーと違い、ペダルの重さが――」

「命令です、軍曹」

「……了解しました」


 やや不服そうな顔をするウォーカー。

 いつも冷静沈着な先任軍曹でも、こんな顔をするんだと驚きと一種の独占欲みたいなのを満たす。

 シルヴィアは操縦席に座るなり、スイッチと計器類の多さに驚いた。

 ヴァイパーの光学スクリーンに映し出されるデジタル計器と違い、その殆んどがアナログ計器仕様。


「えっと、メインスイッチは……」

「中央のレーダー画面右下にあります」

「し、知ってますよ! あ、ありました」


 ウォーカーの言われた通り、レーダー画面右下にあるスイッチを押す。

 すると計器類がアンバー色に照され、身体を固定するアームベルトがロック。

 続いて中央の光学スクリーンには起動時に映るチェック項目が表示された。

 ウラルの機体が映し出され、各部が異常無しと表示するグリーン色に。

 ほっとしたのも束の間、静けさが纏うジャングルに猛々しいメカニカル排気音が鳴り響く。


「ウォーカー軍曹!?」


 まるで故障したみたいに唸る機械音にシルヴィアは慌てるが、後方から冷静沈着な指摘が入った。


「ウラルの初期型はディーゼル仕様、バッテリー仕様は後期型からですよ。しかも静粛性が高いサテライトリアクターと違い、これが普通なんです」

「それを早く言ってください!」


 なんで怒り気味に言われたのか分からないウォーカーと、初めてのディーゼル仕様ヴァンパイアに驚くシルヴィア。

 しかもけたたましいメカニカル音で民兵達が騒ぎ出した。


「誰が乗ってやがる!!」

「撃て! 撃てっ!!」


 民兵達がウラルに向かって発砲するが、ヴァンパイアの装甲を自動小銃で貫通出来るほど柔くない。

 戦車よりも堅固な装甲が柔なライフル球を弾いていく。


「大尉、反撃を。このままでは的になります」

「わかっています!」


 口ではわかっていると言ったが、ウラルに初めて乗ったシルヴィアは混乱する。

 教本では習ったが、実際に動かすとなると勝手が違う。

 アナログ計器だし、どれがどれのスイッチか分からない。


「まずは立ち上がってください。ウラルのレバーは油圧式ですので重いですよ」


 ウォーカーに言われるまま足先のレバーペダルを押していこうとするが、ペダルが奥にいかない。


「重っ!!」


 ヴァイパーの電気式と違い、油圧式のレバーは油圧アシストが入っても尚重い。

 これでもかと足先に力を入れ、ようやくペダルが奥にいった。

 きっと普段乗ってるパイロットに合わせて調整してるのだが、余りに重い。

 ゆっくりと立ち上がるウラル。

 だが立ち上がる手前で足先がつまづき、勢いよく地面に倒れ込んだ。


「っ!?」


 地響きに叩き起こされ野鳥達が舞い上がる。

 外を映す光学スクリーンには民兵達が撃ち続けていた。


「大尉、自分が操縦します。あなたは後部座席へ」

「ですが――」

「早くしてください。敵がウラルに乗りこんだら厄介なんです」

「っ!」


 ウォーカーからの冷静な指摘に唇を噛む。

 確かに今は敵が虚を突かれた状態だからいい。だが敵も体勢を立て直してくるのも時間の問題だ。

 まして民兵達がウラルに乗り込まれると厄介極まりない。


「了解です、ウォーカー軍曹に任せます」


 アームベルトを外し、急いで後部座席に移る。

 ウォーカーは即座に座り、アームベルトをロック。シルヴィアも座席に座ろうとした瞬間に機体が動きだした。


「きゃっ!?」


 サイドにある光学スクリーン画面におでこを思いっきりぶつけた刹那、けたたましい銃声音が鳴り響く。

 機体から伝わる振動で心臓の鼓動が分からなくなるくらいに激しい銃声。

 正面の光学スクリーンを見るとアサルトライフルの銃口から硝煙が立ち上り、隣に駐機していたウラルが蜂の巣状態。

 どうやらレイが発砲したらしい。


「失礼。大尉が遅いので処理しました」

「遅いって、ウラルは初めてなんで――っ!?」


 再び激しく揺れ動く。

 光学スクリーンの映像と、自分の感じる感覚からしてジャンプだ。

 しかもアームベルトを固定していないが為に、落下態勢にはいると天井に押し付けられる身体。

 必死に何かに掴まろうとするが、そもそもアームベルトを前提に設計したコックピットに掴まるものなんて無いに等しい。

 だから着地した瞬間に思いっきり叩きつけられる。

 コックピットの計器画面にぶつけたら怪我では済まない。

 だから可能な限り身構えたのだが、思っていたより何故か柔らかい衝撃。

 人の温もりに近い感触と思った矢先、冷静な声で。


「邪魔です、大尉」

「へ?」


 見上げると何故かウォーカーの顔がある。

 慌てて周りを見ると前部座席に落とされたみたいだ。

 しかもウォーカーの膝という、おまけ付き。

 たちまちシルヴィアの顔がヴァンパイアに搭載される接近警報並みに真っ赤になる。


「す、すすみません!!」

「別に。それよりも早く退いて下さい。大尉がいるとペダルが踏みにくいので邪魔です」

「は、はい!! 直ちに!!!」


 上官なのに下士官に敬語はおかしな光景に見えるだろう。

 だけどシルヴィアと違い、ウォーカーは現場経験豊富な下士官。

 どういう経緯で勲章没収という不名誉になったが知らないが、腕は確かだ。

 急いで後部座席に座りこみ、アームベルトをロック。


「では行きます」


 冷静沈着なウォーカーの声。感情なんてものが感じ取れない声音だが不思議と安心してしまう。

 そして陽動の為、頭部に備わるチェーンガンを派手に掃射。

 物資の木箱やらコンテナを蜂の巣にし、駐機しているウラルの首に対装甲ナイフを突き刺しては眠りにつかせる。

 民兵達も対戦車ロケットなどで応戦するが、無誘導弾の為に簡単には当たらない。


「敵が派手に応戦してきたので一旦合流地点とは反対に離れます」

「離れますって、合流地点には行かないのですか!?」

「無論行きますが、敵がこの場に釘付けだと救出が困難です。ですから一旦反対に離れて敵を引き付けるんです」


 初歩的な戦術論を言われて恥ずかしくなる。

 未だに本国気分でいる頭を叩きたくなり、本気で叩くと痛い為に優しく叩く。


「頭が可笑しくなったのですか?」

「ち、違います! ウォーカー軍曹は操縦に集中を!!」

「了解です、派手に動きますから舌を噛まないで下さい」


 撃破したウラルの腰部から予備弾倉を剥ぎ取ってはライフルに装填し、シルヴィア達が乗るウラルは闇夜のジャングルに消えていく。

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