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わたしがやる

 暗視ゴーグルを付け、暗い地下道を捜索するシルヴィアたち。

 暗い地下道はレイの言っていた通りの迷路。

 複雑に要り組んでおり、所々に蝋燭の明かりが灯っている。

 暑苦しい地上と違い、暗く冷たい空気がシルヴィアをゆっくりと誘う。

 隊列の先頭を歩くシルヴィアだったが、不意に後ろの誰かが肩を掴む。


「嬢ちゃん。死にたくなければ先頭を歩くな。レイの言っていた通り、嬢ちゃんは経験が浅い。ここは俺達に任せろ」

「ですが、わたしは隊長です。隊長なら先陣に出て行かないと部下に……あなた達に示しがつきません」


 ギデオン始め、その場にいた隊員達全員が思ってしまう。

 ウィンチェスター家の血筋が知らないけど、前線知らずの甘ちゃんは困ったもんだと。

 ギデオンは嘆息吐きながら説明する。


「あのな嬢ちゃん。俺達は何も嬢ちゃんの心構えを疑っちゃいないんだよ。地下道はブービートラップとか仕込まれているから、経験不足な嬢ちゃんだと罠にかかって死んじまうって言っているんだ。俺達としても、着任早々にサクリ……戦死されても困るからな」


 ギデオンのいうことはもっともだとシルヴィアも痛感している。

 自分は着任早々の新人指揮官。

 ここはアウェーであって、ホームである本国ではない。

 それに本国の連邦施設を警備していた時とは違う。

 ただ時刻通りに施設を巡回し、出入りする車輌の検問とは違い、ここは殺すか殺されるかの戦場。

 自分の我を通すと仲間を危険に晒す。

 だからここは悔しさを飲み込み、引き下がった。


「わかりました。ですが、先頭は……」


 哨戒任務と同じで、先頭とケツ持ちが一番危ない。

 誰が我先に死ぬ可能性が高い先頭に行きたがると思っていたが、後方から声があがる。


「いいよ、わたしがやる」


 声の主を暗視ゴーグルで見ると、ルナが手を挙げていた。


「トュルソワ伍長……いいのですか?」


 一応ルナの意思確認をする。

 やりたくないが、もし誰もいない場合は指揮官権限で指名する気だったし、なし崩し的に決めるのはいけないと思ったからだ。

 だがルナは相変わらず素っ気ない返事だが、その言葉からは自発的だと感じ取れた。


「別に。最近やってないからやるだけ。わたしのせいで手足が吹き飛んでも恨まないでよね」


 これはルナなりの冗談であったが、シルヴィアの生真面目が災いし。


「はい、もちろんです」


 その言葉にルナは呆れた表情を暗視ゴーグルから覗かせて言った。


「アンタさ、周りからバカって言われない?」

「え? ……時々言われます」

「だと思った。バカそうな顔してるもん、アンタ」

「ええ!?」


 つい大声を上げてしまい、ルナは人差し指を口に持っていっては、後方に立つマリアがシルヴィアの口元を鬱ぐ。

 幸いにも民兵や反政府軍の声は聞こえてこず、シルヴィアの声だけが木霊していた。


 ******


 地下道を進みながらウォーカーとストリートの班に合流したシルヴィア。

 ルナの的確な先導にシルヴィアはただ関心してしまった。

 敵が仕掛けたであろう対人地雷を絡めたブービートラップを、ことごとく突き止めては解除していたからだ。

 正に歴戦の兵士が成せる技で、シルヴィアだったら確実に戦死か、よくて手足が無くなるだろう。

 本人曰く『敵の気持ちになれば自然とわかる』らしい。

 そして合流した場所は作戦本部なのか、天井こそ地下道と同じだが、幾つもの部屋がある。

 部屋の壁には手書きの地図が幾つもあり、連邦軍との前線が記されていた。


「ウィンチェスター大尉、()()を」


 一枚の紙をシルヴィアに手渡す。

 擦りきれた紙で、建物の見取図みたいな絵が描いてある。

 その見取図を見てシルヴィアは何か違和感を感じずにはいられなかった。


「ウォーカー軍曹、コレは……」

「ええ。我々の基地、それも配置が精巧に描かれている基地の見取図です」


 やはり連邦の最前線基地の見取図。

 何処が地雷原になっているかや、戦車やストライカー装甲車の配置まで描かれている。

 兵舎の位置や司令部の位置、ご丁寧に歩哨の交代時間まで緻密に。


「まさか民兵や反政府軍が基地襲撃を考えているのですか!?」

「恐らく。敵にしてみれば我々は目の上のたんこぶ。オセアニア政府を支援してる邪魔な存在ですから」


 ここまで緻密に調べてあれば基地の急所だってわかってしまう。

 最悪、基地が陥落すると連邦軍は大きく後退する。

 急いでサミエル基地司令官に報告しないといけないのだが、ウォーカーは更なる不法をもたらした。


「それとオリバーの居場所がわかりました」

「オリバー上等兵は何処に居るんですか!?」


 再びシルヴィアの大声でドラグーン隊の空気がピリッと変わる。

 いい加減に学びなさいよ! とルナの冷たい視線に自ら口を鬱ぐシルヴィア。


「……ハッキリ言いますが、状況は最悪です」


 ******


 ウォーカーの最悪という意味。シルヴィアとしてはオリバーが負傷しているのかと思った。

 だが状況はシルヴィアの予測値を超えていたのだ。

 その最悪の意味とは、ウォーカーに案内されるまま地下道の梯子を昇ってわかった。

 地下道と地上を隔てる竹細工の蓋を開けると話し声が聞こえてくる。

 一人二人じゃない大勢の敵兵が見えた。

 ウォーカーに先導されるまま物陰に隠れて伺うシルヴィア。

 焚き火の光で暗視ゴーグルでは見えず、ゴーグルを上げて息を殺す。

 鉄製の檻には幾人もの女性が閉じ込められ、オリバーは十字の梁に張り付けにされていた。


「オリ――ふッ!?」


 またも声を出そうとしたシルヴィアの口をルナが鬱ぐ。


「ちょっと、わたし達まで殺す気!?」

「す、すみません」


 階級ではルナは伍長でシルヴィアは大尉。それも将校と下士官なのに敬語を使ってしまう。

 空かさずウォーカーが通信してきた。


『大状況は我々に不利です。敵兵の数が多く、幾ら正規兵じゃないとしても厳しいかと』

「わかっています。わかっていますが……」


 シルヴィアとしてもオリバーを救い出したい。

 体勢を立て直していたらサミエルとの約束の時間を迎えてしまう。

 それに敵だって増援の可能性があるから、必ずしも立て直しが正解とは言えない。

 更に最悪なのは敵のヴァンパイアが5機駐機していることだ。


『機体からして東欧のヴァンパイア。見たところ旧式のウラルです、大尉』


 こっちにヴァイパーがあれば、旧式のウラルなんて敵ではない。

 サテライトリアクターも積んでいない、旧世代のガスタービン式ヴァンパイアなら運動性能が段違いだからだ。

 だが今はウラルがもっとも脅威度が高い。

 旧式とはいえ口径の大きいライフルはヴァイパーの装甲でも当たれば危険だし、頭部には3〇ミリ機銃が4門ある。

 特に、この機銃は毎分15〇〇発以上撃てる機銃で人間なら手足に1発でも当たれば吹き飛んでしまう。


「私がウラルに乗り込み敵を惹き付けます。その間にウォーカー軍曹達はオリバー上等兵と捕虜の人達を救出してください」

「ちょっとアンタ死ぬ気!? ウラルに乗ったことあるの!?」

『そうよ大尉。ルナちゃんのいう通り、あのウラルは化石みたいな機体よ。満足に動くかどうか』

『嬢ちゃん、悪いことは言わない。ウラルの操縦ならレイとストリートなら多少はわかる』

『そうだ。俺かレイのどちらかが囮役をやる。だからアンタは救出の指揮を執れ』


 ルナにマリア。それにギデオンにストリートもシルヴィアが囮をやるのは危険だという。


「大丈夫です。ウラルなら訓練教本で習ったことがありますから」

『大尉、待って下さい。あなウラルは――』


 ウォーカーが何か言おうとしていたが、勇み足のシルヴィアには届かず、『ウラル』の元に向かってしまった。

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