今さら意味ない
オリバーを捜しに、再びジャングルを突き進むドラグーン隊。
闇夜のジャングルからは銃声が鳴り響き、隊員達の気を引き締めさせる。
トリガーにオリバーの服を嗅がせては道無き道を進んでいると、急にオリバーが伏せて動かなくなった。
直ぐ様ウォーカーが近づき、地面にある草の塊を蹴る。
「やっぱりか……」
ウォーカーの視線の先にあるのは小さな穴。
それはドラグーン隊が休憩した場所から遠く離れていない。
シルヴィアがウォーカーに近づくと。
「ウォーカー軍曹、これは?」
「地下道です。民兵や反政府軍が使っているやつで、中は迷路の様になっています」
リーナの報告書にも書かれていたジャングルの地下道。
この地下道を使って敵は境界線を通り抜けて、連邦の支配域に攻撃を仕掛けてきている。
連邦は巨大な軍隊で、正面の戦いなら強いが巨大過ぎるゆえに足が重い。
部隊展開が遅く、集団で動く為に小回りが利かない。
おまけにヴァンパイアは、こうしたゲリラ戦での対人戦闘が苦手と。
「大尉はここで待っていて下さい。俺とストリートの班で行きます。他は護衛として残し、日の出までに帰らなかった場合は穴の爆破を」
「まっ、待って下さい! わたしも行きます! わたしが言い出したのですから!!」
「それはダメです」
まるで何も知らない子供を見る様な視線でシルヴィアを見る。
「あなたは配属されたばかりで、ここでの戦闘経験が少ない。慣れない地下道での戦闘は足手まといになります」
「足手まといって、それはわたしに対する侮辱です!」
「どう捉えて頂いても結構です。事実は変わりませんから」
「事実はそうだとしても、経験を積む為に行かせて下さい! じゃないといつまでも未経験のままです!」
――チッ。
闇夜のジャングル。微かに聞こえたウォーカーの舌打ち。
その一瞬でシルヴィア以外の隊員達がビクって体が反応してしまう。
いつも冷静沈着なウォーカーが舌打ちする時はかなりイラついている時と知っているから。
堪らずギデオンが両者の間に入った。
「二人とも落ち着きな。歪みあっていたら助けられるものも助けられないぞ。嬢ちゃん、ここはレイの言い分にも一理ある」
一理あると聞いた瞬間にシルヴィアの視線が鋭くなる。
流石は御三家……いや、イヴァンジェリンの血筋といったところ。
血筋なのか性格か分からないが、先陣に立ちたいという本能があるみたいだ。
「慣れない地下道での戦闘は手こずる。手こずると、その分オリバーの生還率が下がっちまう。それは嬢ちゃんも不本意だろ?」
「……ええ」
若干、不満そうな表情を浮かべるシルヴィアにギデオンは続ける。
「まずはレイとストリートの班を先発で行かせる。嬢ちゃんや俺達は安全を確保次第、地下道に行くってのはどうだ。これなら互いに納得すると思うんだが。どのみち地下道は広いから人手は必要だしな」
理路整然と喋るギデオン。
頷くシルヴィアを見ながらウォーカーに視線を送る。
お前、女性の扱い方が下手過ぎと。
ウォーカーもウォーカーで「俺はただ事実を言っただけなのに、大尉が怒る意味がわからない」と言わんばかりの視線を送り、ギデオンに特大のため息をつかせた。
「……わかりました。そういう事なら二人に先発を任せます」
一応の納得はしてくれたみたいだが、まだ不満そうな声音。
これは波乱がまだまだ続きそうだと隊員達を悩ませる。
******
「なに怒ってんだよ、レイ」
「別に」
闇夜より暗い地下道を暗視ゴーグルを付けなから進むウォーカーとストリート。
他の隊員達とは別れ道ごとに分散し、今じゃ二人だけとなった。
「お前がそういう態度してる時は怒ってんだよ。あの部隊からの腐れ縁だから分かるぞ」
腐れ縁という言葉に一瞬だが、ウォーカーの足が止まったが直ぐに歩き始める。
先を歩くウォーカー。暗視ゴーグルから見える彼の背中が語りだした。
「大尉が怒る訳がわからない。俺は事実を言っただけなのに」
「お前、マジで言ってる?」
「ああ」
淡々と返すレイにギデオンと同じくらいに大きいため息を吐く。
「お前はパイロットとしては優秀だ。優秀過ぎるくらいにな。だがな、もうちょっと色々な興味を持て。人生つまんなくなっちまうぞ。ルナやマリア、あとアリシアとかにな」
「次の瞬間には死ぬかも知れないのに、今さら意味ないだろ」
ウォーカーの悪い癖が出たとストリートは思ってしまう。
昔から……初めて逢ったときから執着心のない奴だった。
まるで氷の様に冷たい人間。
氷剣の様に鋭い刃を持ちながら、それでいて脆く繊細で、おまけにさみしがり屋な奴。
「そうかもしれない。だけど、折角なら男を楽しめって言ってんだよ。いい顔してるのに勿体ねぇな」
少しだけ声音が高くなり、ウォーカーの前を歩こうと早歩きする。
ウォーカーを見ていたら、イライラして殴りそうだからだ。
当のウォーカーは相変わらず無表情のままで、ストリートの背中に問いかける。
「お前まで何故怒る? 意味がわからない」
「知るかっ! てめえで考え――っ!?」
不意に肩を掴まれて後ろに引き寄せられた。
「おい、何すんだよ!」
「足元を見ろ」
「はぁ? 足元って……っ!?」
ストリートの足元には細い一本のワイヤーが地面に張られている。
ワイヤーの先にあるのは、地下道の壁際に置かれた木箱の山。
その木箱を退かすと対人地雷が敷設されていた。
「あぶねぇ……助かったわ」
「感謝するのはまだ早い」
ストリートの足元にしゃがみ込んでは腰からナイフを取り出して、それをストリートが立つ背後の地面に刺していく。
しばらく刺していくと硬くて鈍い感触が伝わってきた。
手で円を描く様に地面の砂を掘る。
すると丸くて小さい物体が姿を現した。
「二段構えの地雷だ。踏んでいたら二人とも死んでいたな」
地雷を慎重に掘り出しては壁際に置き、ワイヤーを切断。
「悪りぃ、助かった」
「別に。気が揺るんだら俺達もイライジャみたいになるからな。もうお喋りは無しだ」
「……ああ」
まるで触れたくない話題を振られたから、わざと会話を断ち切る様な言い方をするウォーカー。
だがストリートは何も言わず、少しだけため息を吐いて彼の後を歩いていく。
******
ウォーカーとストリート達が地下道に入って一時間も経ってない中、シルヴィアは穴の入口を見ながら唇を噛む。
くやしい。
わたしだって連邦軍人でもあり、指揮官なのに彼らと共に戦えないなんて。
みんなと一緒に戦いたい。
そんな想いを抱きながら聞こえないくらいのため息を吐く。
だが気づかれないと思っていた、その小さなため息はアリシアの耳に聞こえてしまい。
「大尉。今すぐ地下道に飛び込みたい! って顔してますよ」
「ええっ!? ……そんな顔してました?」
「うん、してたしてた。なんか飼い主を待つ犬みたいな顔だよ」
「いっ、犬ですか……」
犬と言われたのは初めてだが、笑いかけるアリシアに思わず笑みが溢れてしまう。
きっとアリシアなりに緊張をほぐそうとしているのだろう。
だが一時の安らぎは直ぐに破られる。
インカムからウォーカーらしき声が聞こえたからだ。
『ジュリ――。一応の――確保――た。それと――知らせが――ます』
地下道で通信障害を起こしているのか、ウォーカーの声が途切れ途切れに聞こえてしまう。
「ロミオセブン。不明瞭にき、もう一度お願いします。ロミオセブン、聞こえますか!?」
シルヴィアが再度促すが、インカムのイヤホンから砂嵐みたいな音しか聞こえない。
「地下道は深いから、通信障害はよくあることだ。で、どうする嬢ちゃん?」
ギデオンに促され周りの隊員達を見ると、シルヴィアの一挙手一投足を彼らは見ている。
そんな彼らの期待通りにシルヴィアは。
「もちろん中に入ります!」




