あなたの戦争
サミュエルとの取引により、猶予を貰えたシルヴィア。
野次馬達が散ると、直ぐに隊に指示を出す。
「私はこれから捜索に向かいます。その前にウォーカー軍曹にはコレを渡しときます」
ウォーカーの目の前に差し出される一枚の折り畳まれた紙。
「これは?」
「暗号表です。万が一、私が捕らわれた時は敵に絶対に渡せませんから。それに安心して下さい。もしもの時は自分で後始末をつけます」
後始末という言葉に隊員達の顔が険しくなり、一際ウォーカーの顔は曇る。
それはウォーカーが言った。反政府軍や民兵に捕まれば拷問では済まないという話。
シルヴィアの様な若い女性、それも少女が捕まれば死ぬよりも苦しい陵辱が待っている。
殺して欲しいと願うくらいに。
だから女性隊員達は自決用の弾を一発。若しくは毒入りのカプセルを胸に忍ばせている。
辱しめを受けて弄ばれない為に。
「あなたは馬鹿ですね」
「……えっ」
「あなたが自分で言ったのでしょ。仲間は見捨てないと。俺達にとってもオリバーは仲間です。海兵隊は仲間を絶対に見捨てないって鉄の掟があります。だから一緒に行きます」
ウォーカーの『一緒に行きます』を皮切りに、次々と隊員達が支度を始める。
「大尉ばかりに良い格好つけられないしな。オリバーは俺達の仲間だ」
「ま、嬢ちゃんを死なせたら酒が不味くなるからな」
「そうそう。大尉さんには生きて貰わないと、レイ君のからかうネタが無くなるものね」
「勘違いしないでよね。リンのお礼だから。あ、誰かロクハチの予備弾倉ある? もうストックが」
「持ってるわよ。それと軽機関銃の予備弾薬は? もうベルト半分しかないの」
「私の首に掛けてあるやつを使って」
地面に膝を着き、各々の武器や装備をチェックするドラグーン隊。
「皆さん……本当にありがとうございます!」
頭を下げて感謝するシルヴィア。
そんなシルヴィアを見てストリートが頭を掻きながら。
「大尉はオリバーの為に危険をおかしたんだ。下手すりゃアンタの立場を危うくするのにな。仲間を見捨てないという、大尉の言葉を信じてみようと思ったバカがドラグーン隊には残念ながら大勢いるみたいだ。そうだよな、ノア」
一人佇むノアに隊員達の視線が注がれる。
するとノアも照れくさそうにヘルメットを被りながら俯く。
「まぁこれ以上僕のゲーマー仲間が減るのは御免だから。またオリバーと対戦したいし……」
「だ、そうだ。俺としてもオリバーは弟みたいなものだからな。だから助けたい。どっかのバカみたいに図体ばかりデカイ、世話の焼ける弟もいるけどな」
ストリートを含め、ドラグーン隊の全員がウォーカーを見ている。
当のウォーカーは鉄火面の様に表情を崩さず返す。
「何?」と。
いつもと変わらないウォーカーに隊員達は次々と噴き出して笑う。
シルヴィアも緊張しているのに不思議と笑ってしまった。
そして思った。
この隊に来れて良かったと。
力及ばず戦場で倒れても、この仲間達なら後悔はなく、むしろ望むところだと。
そしてシルヴィアは、ある決断を下す。
「ウォーカー軍曹、隊を整列させて下さい」
ウォーカーの指示により整列する隊員達。
そんな隊員達の前にシルヴィアは立ち、親友であるリーナが見守る中、ポケットから何かを取り出し。
「調教首輪、アクティベート……」
シルヴィアの言葉に反応し、首輪の連結部が赤く点滅し始めた。
そして次の瞬間。誰もが目を疑い、耳を疑う光景に直面する。
「パスコード……アステロイドリコリス!」
カチン。
次々と彼らが忌み嫌う調教首輪が外れては、虚しく地面に落ちて解放される。
「これで、あなた達は自由の身です。それとごめんなさい、今の私にはこれくらいしか出来ません。これは私の戦争になりますが、今よりも偉くなって、いつか必ずベルトシステムを無くします。あなた達が笑って明日を迎えられる日を必ず勝ち取ってみせますから」
見るからにシルヴィアが強がっているのが分かる。
自分たちはアステロイドベルトと呼ばれて不貞腐れていた。
明日生きてればみっけもんだと。
うだうだ文句しか言わず、彼女の様に行動に移したか。
例え綺麗事の偽善者と呼ばれてても彼女の様に口に……言葉に現したか。
情けない。
こんな少女に全部背負わして戦わせるのか。
それじゃメインベルトと変わらない。
嫌っておきながら、自分達もメインベルトと同じ事をやっている。
苦しそうに笑顔を見せるシルヴィアに一人の少年が前に出た。
「ウィンチェスター大尉。あなたの戦争に参加の許可を頂けますか」
それはシルヴィアに最初に声をかけた無愛想な軍曹。
いつも淡々と喋り、笑顔が少ない軍曹。
けど、時おり見せてくれる笑顔は……その、可愛い男の子。
――そして。
「許可します……言っておきますが、この戦争は圧倒的に不利ですよ。仲間だって少ないですし、勝てるかどうかも分かりません」
「構いません。俺達は不利な戦況には慣れています。それにどうせ死ぬなら意義ある死を望みます」
「俺……たち?」
一人。また一人と前に出る隊員。
そしてウォーカーは規律よく軍靴を鳴らし。
「ウィンチェスター大尉。ドラグーン隊総勢十五名、あなたの戦争に参加の許可を頂けますか」
皆の首には長い間縛りつけていた呪いの痕が残っている。
肌に残る薄紫色の痣。
もしかしたら一生消えないかも知れない呪いの痕を残してしまったかも。彼らは赦してくれても、他のアステロイドベルトは赦さないかも知れない。
――だけど。
戦いたい……彼らと一緒に戦いたい。
「参加を許可します。ストリート軍曹が言うように、私に負けないぐらいバカな隊員達ですね……」
目頭を拭いながら、未だに強がるシルヴィア。
そんなシルヴィアにウォーカーは精一杯の言葉を掛ける。
「はい。部下は上官に似るといいますから」
多分気遣ってくれてると思うが、その不器用な言葉に思わず噴き出してしまう。
******
そしてシルヴィアはリーナの元に歩み寄ると、親友は心配そうな表情で。
「いいの、シルヴィ。下手したら軍法会議ものだよ。勝手に調教首輪を外したりしたら、ベルト降格だけじゃ済まない。最高レベルのレブンワース刑務所だってあり得るんだよ」
「わかってる。それに、もし私が倒れても誰かが私の遺志を継ぐもの。それにありがとう、リーナ。今まで忠告してくれて……こんな私を守ってくれて本当にありがとう」
まるで別れの言葉みたいだ。
アナポリスから席が隣で、部屋も同じだったシルヴィア。
最初の頃は満足に軍服を着れなくて、いつも朝の点呼時に手伝ってあげた。
曲がった錨の徽章を直してあげた。
同期の中でも尖っていた私に最初に話し掛けてくれた。
それが凄く嬉しくて嬉しくて、今でも鮮明に覚えている。
――パークスさん、良かったら友達になってくれませんか――。
「シルヴィの好きにしなよ。もしもの時の為に私はそっちには行けないけどさ。それでも私達の友情に変わりはない。生きるも……死ぬのも二人……一緒だからさ……」
そう。
もしも彼女が辛くて戻りたいと言った時、彼女の居場所を作っておかなくちゃいけない。
このメインベルトというの居場所を。
「うん。ありがとう……リーナ」
互いに抱き締めながら耳元で囁く。
友情に常に忠誠を。センパーファイ。




