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 ウォーカーに担がれたまま懲罰房に容れられたルナ。

 海兵隊の懲罰房は晒し者にするのが目的で金網張りの囲いになっており、屋根なんて大層な物はなく、トイレ以外は全てが見える。

 しかも前線基地の懲罰房なんて簡易造りもいいところで、床は泥濘んだ土に、ベッドはベンチみたいに硬い材質。

 もちろんマットなんか無い。

 ルナを放り投げる様に懲罰房に容れるなり、ウォーカーが言い放つ。


「ウィンチェスター大尉に感謝するだな、ルナ」

「はぁ!? 何でわたしがお嬢様に感謝しなくちゃいけないの!?」


 懲罰房に放り投げられるなり、金網越しにしがみついて抗議する。


「あれがお前を守る最善策だからな。憲兵達も来ていたから収集をつける為だ。それに大尉の友達……パークス大尉は完全にお前を殺す気でいたぞ」

「殺すって……いくらなんでも突き飛ばしただけで!?」


 ルナの考えは普通だった。

 普通突き飛ばしたくらいで殺しはしない。悪くて懲罰房で暫く隔離だ。

 だがウォーカーの答えは違う。


「それはお前の甘い考えだ。ウィンチェスター大尉はメインベルトで、パークス大尉もメインベルト。理由なんて後から幾らでも付けられる。それが喩え嘘でもな。メインベルトのやり方を忘れたのか」


 それはウォーカーが以前シルヴィアに言った言葉。

「メインベルトが白と言えば白になり、黒と言えば黒になる」と。

 メインベルトの匙加減でどうとでも変わってしまう世界。


「突き飛ばしただけでも上官反抗罪になる。それがメインベルト相手なら略式裁判無しで、その場で銃殺だって出来たんだぞ。それをウィンチェスター大尉はお前を守る為にわざと芝居を打ったんだ」

「何よレイ! まさか、あんなお嬢様の味方をするの!?」

「違う。俺はただ事実をお前に言っているだけだ。それにウィンチェスター大尉は自分から進んで遺品回収を手伝ってくれたんだ。仲間だからってな」

「仲間……あのお嬢様が」


 普通のメインベルトはアステロイドベルトを仲間とは思わない。

 それはセンターベルトも同じ。

 仲間とは思わず、自分を守る盾として見る。

 なのに残骸の場所で見たシルヴィアは全身ずぶ濡れで、ルナを見たときに心の底から嬉しそうな表情をして、リンの縫いぐるみを見せてきた。

 普通のメインベルトだったら絶対にしない。

 本当にアステロイドベルトを仲間と思っているのかもと思ってしまったルナは、頭を両手で叩いては堅いベッドに横になった。


「気分悪いから寝る!!」


 その光景にウォーカーは軽く鼻で笑い、懲罰房近くにあるコンテナ端から隠れて見える金髪のアホ毛を見ながら言う。


「分かった。それと二○○○時から哨戒、監視任務だ。ウィンチェスター大尉が呼びに来ると思う」

「りょーかい! どうせ来ないわよ……臆病なメインベルトのお嬢様なんか」

「そうかもな。だが信じるのも悪くないと俺は思う。()()()お前達を救ってあげられなかったからな」


 いつの間にかスコールは止み、南太平洋らしく目映い夕陽が空を彩っていた。


 ******


 再びスコールが降りだす中、ルナをウォーカーに託し、シルヴィアは託された箱を大事に抱き締めながら歩く。

 その後ろを歩く、親友であるリーナが不機嫌そうにいう。


「ちょっとシルヴィ! 懲罰房なんて甘過ぎない!? あいつは上官であるシルヴィに反抗したアステロイドベルトなんだよ!?」

「あれが適切だと私は判断したのよ」


 親友の忠告に足を止める事なく歩き続けるシルヴィア。


「適切って……普通だったら上官反抗罪で、略式裁判無しで処刑出来るんだよ!?」

「それは一部のメインベルトの普通であって、私にとっては普通じゃないわ。突き飛ばしたくらいで処刑していたら()()()()()を失います。それに()()()()()です」


 全く耳を貸さず、所々で語尾を強めるシルヴィアにリーナは苛立ちを覚え。


「アステロイドベルトの人間に優秀な奴なんか居ないよ! うちらメインベルトが優秀だから今日まで奴らは生きて来れたんだよ!?」

「それは違うわ!!」


 歩みを止めるシルヴィア。

 そのままゆっくりと振り向き、親友であるリーナに冷たい視線を向け。


「リーナ、それは危険な選民思想よ。人の生死を優劣で決めるべきじゃない。誰にだって生きる権利はあるわ」

「生きる権利? アステロイドベルトの連中が……パパとママを殺した連中に生きる権利があるって言うの!?」

「違う……違うわよ。私はただ彼らにだって生きる権利があると言いたいの……私達に彼らの未来を奪う権利は無いわ」


 シルヴィアとリーナ。

 互いに悲しげな表情を見せながらぶつかり合い、今のリーナに何を言っても想いが届かないと思ったシルヴィア。

 踵を返し、境界線まで歩き始めたのを見て、リーナは親友をアステロイドベルトに奪われると思ってしまい。


「シルヴィ……シルヴィ!! 行かないでよ、シルヴィ!!!」


 境界線のゲートが開き、歩き始めるシルヴィアに叫ぶリーナ。

 アステロイドベルトとメインベルトとを分け隔ている境界線の先に進むシルヴィア。

 リーナは雨で濡れた地面に崩れ落ちながら泣いてしまう。


「お願い……お願いだから置いて行かないで……わたしを一人にしないでよ……シルヴィッ!!」


 シルヴィアに届かない想いわかりながらも、少女は儚い想いにすがりつくしか出来ない。


 *****


 ドラグーン隊の隊舎に向かう途中、ウォーカーとルナが懲罰房の金網越しに何か言い合っているのが見えた。

 何故か分からないが、シルヴィアは近くにあったコンテナに急いで隠れてしまう。

 さっきの出来事でルナと顔を合わせるのがちょっと気まづいから。

 だが直ぐに背後から冷たい口調で声を掛けられた。


「何をしているのですか? ウィンチェスター大尉」


 一瞬、体が小動物みたいにビクッとし、恐る恐る声の主を見る。


「ウォーカー軍曹……奇遇ですね」


 何処が奇遇なのか分からないが、つい何か言わないと場が持たないと考えたシルヴィア。


「それはこちらの台詞です。ここは俺達の住む世界で、あなたの様な人が住む世界じゃない。早く帰った方がいいですよ」


 まるで迷子の子供に言う様な口振りをするウォーカー。


「ルナに用があるなら懲罰房で寝ていますよ。リボルバーの銃床で金網を叩けば起きると思いますが」

「そんな可哀想な起こしかたはしません! ……あ、すいません。つい……」


 子供扱いされてしまい、つい大きな声を上げてしまった。

 さっきのリーナの件もあるし、心に余裕が無いんだと感じてしまう。


「別に気にしないで下さい。では俺は任務の準備がありますので」


 いつもの様に淡々とした冷たい言葉を残し、ドラグーン隊の隊舎に向かおうと歩き始めるウォーカー。

 シルヴィアは彼の袖を掴もうとするが、虚しく空気を掴む。

 段々と離れていくウォーカーの背中にシルヴィアは叫ぶ。


「待って……待って下さい、ウォーカー軍曹!」


 あの時は振り向くどころか、歩みさえ止めなかった足が止まる。

 止まっては少しだけ視線を向けて。


「まだ何か? ウィンチェスター大尉」


 未だ冷たい視線。その鋭く冷たい視線なら人だって刺し殺せるじゃないかと思ってしまう。

 だがシルヴィアは臆する事なく、ウォーカーに頼んだ。


「その……恥を忍んでお願いします。洗濯のやり方を教えてくれませんか!」


 ウォーカーの視線がシルヴィアの軍服を見る。

 ルナに突き飛ばされて泥だらけになった軍服を。


「軍服の洗濯なら洗濯係に言えばいいのでは? それとも懲罰か何かの一種ですか?」

「どっちも違います!」


 替えの軍服なら部屋にあるし、ウォーカーに洗って貰おうとも思っていない。


()()の洗い方を教えて欲しいんです!」


 ウォーカーの前に出したのはクマの縫いぐるみ。

 それはリンとルナの大切な想い出の品。

 だがルナに突き飛ばされた際に泥で汚れてしまったのだ。


「その……縫いぐるみの洗い方って知らないので。恥を忍んで言いますと……洗濯自体生まれてから一度もやった事がありません」

「一度もですか?」


 シルヴィアの言葉が俄に信じられずに、つい同じ言葉を返してしまう。

 だが目の前にいる少女は本当に洗濯を知らないらしく、顔を少し赤くしながら頼んできているのを見て、僅かにウォーカーの口角があがる。


「な、何が可笑しいのですか!?」

「別に。ただ幾らメインベルトの人でも洗濯のやり方くらい知ってると思ったので」


 いつもだったら無機質な表情なのに、シルヴィアにはウォーカーが笑っている様に見え。


「バ、バカにしないで下さい!」

「バカにはしてません。ただ珍しいと思っただけです」

「それをバカにしていると言うのです! 悪かったですね、洗濯のやり方も知らないメインベルトで! いつも家にはメイド達がいたので彼女達に任せていたのです!!」

「……怒っているのですか?」

「怒っていません!! わたしが本気で怒ったら、こんなんじゃ済みませんから!」


 それを怒っていると言うでは? と、ウォーカーは喉元まででかかった言葉を引っ込める。

 戦士の勘ではないが、彼女を怒らせると危険な感じがすると感じとったから。


「じゃあついて来て下さい。自分より適任者がいるので、ソイツに頼みます」

「はい、ありがとうございます!」


 いつもの冷静な口調で言ったのだか、シルヴィアにはそれが嬉しくて、嬉々としてウォーカーの後を付いて行った。

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