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 サミュエルから哨戒任務を言い渡されたシルヴィア。

 しかもドラグーン隊のヴァンパイアは大半が修復中で、新型のセンチュリオンも調整中で出撃出来ない。

 だとすると歩兵として任務をやるしかないのだ。

 着任挨拶で()()調()()だと命令に従ってくれるのかも定かでないし、下手したら着任初日にサボタージュされてしまう。

 不安の中、格納庫前を歩いていると例の新型ヴァンパイアを整備班が急ピッチで整備していた。

 胸部のバックパックユニットを取り外し、機体から排出されたケーブルを小さくて黒い箱に連結しては再び機体に格納している。

 何の部品か整備員に聞こうとした瞬間、背後の方からそっ気ない声が。


「大尉、出撃ですか?」


 振り向くと境界線の向こうに立っていたのはウォーカー軍曹。

 そして彼の視線はシルヴィアが握る命令書を見ている。


「ええ、二○○○時より哨戒任務につけと。軍曹の方こそ、こんな所で何をしているの?」

「自分は……」


 ウォーカー軍曹が指さす先にはヴァイパーの残骸の山。

 撃破され、部品取りにもならない機体の墓場だ。


「仲間の遺品を探しているんです。生き残った者が墓に供える約束をしてるので」

「約束? お墓?」

「ええ。俺たちは私物の所持を厳しく制限されてますから」


 肝心な事を忘れていた。

 アステロイドベルトは私物の所持を厳しく制限され、武器になりそうな物を所持出来ない。

 また私物の基準も曖昧で、ペン一本でもメインベルトが私物と言えば私物なり、メインベルトの匙加減一つで変わる。

 だから最後の瞬間に居た機体から何か取り出し、それを供えるのだ。

 家族に連絡を取りたくても通信はセンターベルトからで、アステロイドベルトの彼らは紙に書いた手紙を送るしかない。

 それも途中の検閲や、悪意あるメインベルトによって手紙を捨てられる事もある。

 しかもアステロイドベルトは満足に学校すら行けてない人が多く、またそれにより文字の読み書きが出来る人が少ない。

 それすらもメインベルトは馬鹿な家畜と嘲笑う。

 既にウォーカー軍曹の手に持つ箱には回収したであろう遺品が沢山入っている。

 メインベルトの目を盗んで所持していたであろう家族写真やアクセサリーに類い。

 それに数えきれないくらいの認識票もだ。

 そしてウォーカー軍曹の口から出た『お墓』という言葉が気になり。


「待ってください、ウォーカー軍曹! お墓って……遺体は家族の元に帰しているはずです!」

「誰がそんな事を言ったのですか?」

「だ、誰って……軍の規定には……」


 真っ直ぐとシルヴィアの瞳を見ながら言うウォーカー軍曹。

 冷たい虚無の瞳が、またもシルヴィアを否定する。


「それはあなた達の規定です。我々アステロイドベルトの遺体は家族の元に帰りません。皆、基地の敷地内に埋めてありますから」

「何を……言って……」

「あなた達に言わせれば我々アステロイドベルトの遺体を輸送機に載せるのは燃料の無駄らしいです。だから遺体は安置所に暫く置いてもらい、その間に墓を掘って埋めます。遺品も家族の元に送られません」


 シルヴィアにはウォーカー軍曹の言っている事が信じられなかった。

 いくら軍が酷くても流石にそこまでやるのかと。


「嘘だと思うなら見たらどうです?」


 ウォーカー軍曹の指さす方はヴァイパーの残骸の奥。

 その光景に、シルヴィアは思わず後退りしてしまう。

 ウォーカー軍曹の言う墓は数えきれない程あり、まるでゴミの様に機体の残骸も置かれていた。


「うそ……だってこんなの……おかしいわよ。彼らは仲間のはず……」

「別におかしく何かありません。あなた達にとっては普通です。例え黒でもメインベルトが白と言えば白になりますから。では失礼します、まだ回収が残っていますので」


 ウォーカー軍曹は仲間の遺品が収められた箱を大事に抱えてヴァンパイアの墓場に向かう。

 またも敬礼する事なく。


「待って……待って下さい、ウォーカー軍曹!」


 必死に叫ぶシルヴィアの言葉は彼には届かず、晴れやかだった空は灰色に変わり、スコールが降りだした。


 *******


 基地司令官というのも忙しく、かつ面倒くさいものと思いながらサミュエルは各部隊から上がる報告書に目を通していた。

 本国の統合参謀本部から毎日の様に戦況を伺ってくる督促が来ているから、面倒くさいと思ったサミュエルはいつも「戦局は流動的。気になるなら自分の眼で見ろ。ライフルにヴァンパイア、どれでも好きな物を貸してやる」と添えて送り返している。


「全く、海軍一家の潮臭さを嫌って海兵隊に入ったはいいが、存外楽では無いな。()()が側いればもっと楽だったろうに……」


 デスクの上に乱雑に置かれた書類の奥にある写真立てに何処か哀しげな声で話し掛ける。

 すると何やら部屋の外で騒いでいる声がした。


「困ります大尉! ちゃんとアポを取ってからでないと!」

「緊急の要件なんです! 急ぎ基地司令官と話をさせて下さい!」


 何処の馬鹿が騒いでいるのかと思ったサミュエルだったが、直ぐに声から名誉勲章持ちのお嬢様だと分かった。

 声が穢れを知らないお嬢様だからだ。

 世界がどれ程に穢いのかを知らず、かつ人の可能性を信じてやまない馬鹿なお嬢様。

 軽く舌打ちすると、サミュエルは扉の外に向かって叫んだ。


「構わん、通してやれ!」


 その直ぐ間に全身ずぶ濡れのお嬢様こと、シルヴィア・ウィンチェスターが入ってきた。

 蒼い瞳に怒りの炎を宿し、早歩きでサミュエルの机に迫る。


「どういう事ですか、准将閣下! アステロイドベルトの遺体を……彼らの遺体を何故本国に居る家族の元に帰してあげないのですか!!」


 鬼神に迫る勢いで叫ぶシルヴィア。

 だがサミュエルは眉一つ動かさずに、机の上に置かれた書類に視線を戻した。


「……何だ、その事か」

「何だって……彼らは私達の仲間なんですよ!? その仲間の遺体を何で本国に帰さないんです! 遺品だって返さないと聞きました……それでは家族には彼らの名前が刻まれた戦死通知書しか残らないじゃないですか!!」

「それがどうした?」

「え……」


 目を通していた書類から少しだけ視線を上げてシルヴィアを見る。


「それがどうしたと言っている。輸送機だってタダでは飛ばん。飛ばすには燃料が必要で、燃料は税金……詰まりは国防予算から買う。少ない納税者連中の為に何故輸送機を飛ばす必要性がある? それでは高額納税者が納得しないだろう」

「そ、それはメインベルトの理屈です! 彼らだって国に……民主主義に身命を捧げたんです! その彼らの犠牲に報いてあげなければ――」

「可哀想だと?」


 シルヴィアの言葉を遮る様にサミュエルの冷たい一言が彼女の口を黙らせる。


「お優しい事だ、流石は名誉勲章持ちのウィンチェスター大尉。だが一つ言っておく。奴らは身命を捧げたのではない。これしか選択出来なかったんだ。払えない税金を命で払うという方法でな……」


 そう言うとサミュエルは立ち上がり、窓の外を眺めた。

 外は暗い灰色の空が広がっており、降り頻る雨の中、時々雷鳴が鳴り響く。


「忠告しておく、ウィンチェスター大尉。奴らアステロイドベルトにとっては民主主義に未練も無ければ、忠誠心すらない。ただ生きていく上で仕方なく軍に居るだけだ。だから奴らを庇うと己の未来まで破滅させるぞ」

「そ、それは……」


 サミュエルの言っている事は、ある意味事実であり真実でもあった。

 アステロイドベルトは税金が払えずに軍に徴兵された。

 払えない税金の代わりに兵役に就いて、メインベルトから見れば微々たる報酬を貰い、それを滞納している税金に当てている。

 もちろん払い切れせない様にする為に更に課税して。

 それは最後の瞬間まで使い潰す為に。


「じゃお前が輸送機を手配するか? 言っておくが、軍の輸送機は民間の小型機と違って高いぞ。幾ら御三家の人間でも泣きたくなるくらいにな。まぁ頭を下げて、「お願いします。彼らの為に輸送機を飛ばして下さい」と懇願すれば考えてやらん事もない」


 サミュエルが意地悪く笑いながらシルヴィアに言い放つ。

 アステロイドベルトの為に頭を下げるなんてメインベルトにとっては屈辱的行為だ。

 そんな事をするくらいなら死んだ方がいいと普通のメインベルトなら考える。

 まして建国の御三家なら。

 だが次の瞬間、サミュエルは目の前の光景が信じられなかった。

 被っていた軍帽を取り、気高く高潔で生きようとする少女は躊躇いや躊躇もなく頭を深く下げ。


「お願いします……彼らの為に輸送機を飛ばして下さい! 仲間を家族の元に帰してあげて下さい、お願いします!!」

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