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パパとママへ
もし私に何かあったら遺族年金が軍から支給されますので、それを使って何か美味しい物をいっぱい、いっ~ぱい食べて元気になってね。
それと……もし許されるならママの作ったシチューが食べたい……食べたいよ。
最後に生きて帰るって約束は出来ないけど、私は最後の一人になっても仲間の為に戦い続けるから。
ルナ・トュルソワ伍長 家族に向けた手紙より一部抜粋
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ドラグーン隊に冷たくあしらわれたシルヴィアは重い足取りのまま隊舎を後に。
基地の中にもベルトシステムによる境界線があり、それぞれの境界線には鉄条網が張られている。
しかも鉄条網には高圧電流を流している所が臆病なメインベルトらしい。
境界線にある入口でブレスレットを改札機に翳すとリーナが待っていた。
「どうだった? もう仲良く遊ぶ約束でも出来た?」
皮肉っぽい言い方をするリーナにシルヴィアは短く。
「怒られたわ」
「そう。よく分かったでしょ、アステロイドベルトとメインベルトは絶対に相容れない存在だって。あいつらは自分達の主義主張の為なら平気でテロを起こすんだから」
いつものシルヴィアだったら「そんな事はない」とか言って返す所だが、完全に打ちのめされてそれ所じゃない。
何も言わず通り過ぎていくシルヴィアの背中にリーナは言葉をかけた。
「今すぐ基地司令官が来いってさ、シルヴィ」
リーナの言葉に歩みを止めるシルヴィア。
少しだけ顔が向き。
「わかったわ」
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前線基地の司令部は基地の中央にあり、そこはさっきまでいた隊舎と違う。
エアコンは各部屋完全完備され、プールまである。
食堂には食糧難に喘ぐ外国と違い、本国の食用プラントから送られてくる合成食材で作った料理が置かれ、メインベルトの兵士達は当然の権利の様に貪っていた。
シャワールームも当然お湯だ。
余りにアステロイドベルトの人達と違う待遇。
そしてこれは司令官室も変わらなかった。
司令官室の扉の前で深呼吸しては扉を叩く。
「シルヴィア・ウィンチェスター大尉。リーナ・パークス大尉、出頭しました!」
「……入れ」
従卒が扉を開けると目の前に司令官用の机があり、背後には窓。
窓の近くに連邦国旗が立て掛けられている。
そして司令官用の椅子に何処か見覚えがある顔の男性。
「基地司令官のサミュエル・ウォーカー准将だ」
「……ウォーカー?」
シルヴィアが聞き返すとサミュエルは薄ら笑いを浮かべた。
「ああ、そうか。アイツはお前の部隊だったな。レイ・ウォーカー軍曹は俺の弟みたいなものだ」
「弟!?」
確かに何処かウォーカーに似ている顔や声。
だけど一番の謎は士官や佐官はメインベルトしか成れない。
それなのにウォーカーはアステロイドベルトでサミュエルはメインベルトの階級。
「ヤツの経歴には目を通しただろ、なんだ、知らないのか」
「いえ……隊員のファイルは見ましたが、ウォーカー軍曹の経歴は全て黒塗りでしたので」
「黒塗り? ……成る程な。いかにも気の小さい奴らがやる事だ。あんな事件が表に出たら天地がひっくり返るからな」
一人得心がいって笑みを溢すサミュエル。
当のシルヴィアは何の事か分からず、蚊帳の外にいる気分だ。
「まあいい。統合参謀本部から例の任務については俺の所にも通達が来ている。海軍の強襲揚陸空母、空軍に海兵航空団の近接航空支援付きとは、また偉く太っ腹な事だな」
サミュエルはデスクに散りばめられた書類を取ってはシルヴィア達が立っている床に投げた。
「いったい誰に取り入ったらこんな支援が受けられるんだかな、名誉勲章持ちのウィンチェスター大尉。本国のバカ共はまるで前線の事が分かっていないと見える。反政府軍は帝国からの派遣軍、民兵達には得体の知れない組織が絡んでいる噂が立つのに、まったく」
サミュエルは部屋の壁に掛けられた地図を見ながらボヤく。
オセアニアは東に海、西は険しい森林が国土の半分を占める。
連邦はオセアニア政府軍の協力の下、東の海外線から中央の首都を押さえていた。
だが反政府軍や民兵達は森林に立て込もっていて、ゲリラ戦を仕掛けてきているから大軍で動く連邦は苦戦を強いられている。
そして兄弟でこうも違うものかと思わざるえないサミュエルの嫌みにシルヴィアは毅然と返した。
「それは統合参謀本部が考えた事です。一指揮官の自分には分かりかねます」
「ふん、逃げが上手いな。まあいいだろう、命令とあれば俺も従うから援護は任せろ。海兵航空団の武装ヘリで盛大に花火を打ち上げてやる。パークス大尉には情報収集に作戦立案を任せるからな」
後ろに控えていたサミュエルの従卒が扉を開けたので、シルヴィアとリーナは敬礼し、部屋を出ようとした瞬間。
「待て、ウィンチェスター大尉……」
振り返るとサミュエルが赤いファイルを手渡した。
ファイルには最高機密と印字されている。
「本国からのプレゼントだ。お前達に新しい玩具をやるらしい」
ファイルを開くと中には『センチュリオン』と記載されたヴァンパイアの性能評が書かれた書類。
「新型第五世代ヴァンパイアの試作機『センチュリオン』。性能的にはヴァイパーを凌駕している。ま、あくまでも紙キレの上でだがな。生かすも殺すもお前達次第だ。今、格納庫で最終チェックと組立てを急がしている」
確かに謎のヴァンパイアにヴァイパーで挑んでも虐殺されるのが関の山だと統合参謀本部考えたのだろう。
おまけに生き残った強運を使って試作機の性能を試して、死んでもデータが取れるから体の良い実験機部隊なると。
「ありがとございます、准将閣下」
嫌みばかり言ってくるから本当は敬礼なんかしたくない。
だがそこは軍隊の性。
シルヴィアも一応の感謝を込めて敬礼した。
たとえ試作機でも生存確率が少しでも上がるなら仲間が生きられる。
「それとウォーカー軍曹には気をつけろ。奴は狂戦士だからな。」
「狂戦士?」
「奴と一緒に戦えば直ぐに分かる。話は以上だ」
司令官室を出るなり、リーナは大きく生きを吐く。
「あ~怖かった。弟も無愛想だけど、兄も兄で無愛想で嫌みったらしい人だったね」
「まあ確かに嫌みはあるけど忠告してくれたりするから案外良い人かもよ」
「いやないから。まあ流石はウォーカー・アームズ社の家系だね」
「ねぇ、リーナ。ウォーカー・アームズ社って?」
シルヴィアの何気ない質問にリーナの口はポカンと開いては。
「ウォーカー・アームズ社ってのは連邦が委託しているヴァンパイアを生産している兵器製造会社。軍にとっては、超が付くほどのお得意様よ。それくらい御三家なら知っときなさい。余所で恥かくから」
「は、はい。勉強になります……」
「因みにメインベルトの中でも、かなりの上流家系だからね。ヴァンパイアの製造を殆んど請負ってるし、海兵隊を含めて陸海空の四軍まで影響力を持っているのから気を付けなさい」
リーナのまくし立てるような指摘に縮こまるシルヴィア。
それなりに勉強はしてきたつもりだか、その手の勉強は全くしていなかったから耳が痛い。
そしてサミュエルの事を一応庇ったシルヴィアだったが、直ぐに前言撤回する事態に。
サミュエルの従卒が走って来ては命令書を手渡していった。
『命令、本日二〇〇〇時から哨戒、監視任務』




