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エンドレスワルツウォー  私が俺が、あなたの戦争を終わらせる  作者: 冬葉 ハル
第一章 理という名の重力に縛られた者達
17/47

これからも闘い続けます

 人の価値は出自で決まらない。その者が何をしようとして生き、また何を成して今を生きてきたかで決まる。


 イヴァンジェリン・ウィンチェスター 手記抜粋


 ******


 シルヴィアとリーナに下された任務。

 謎のヴァンパイアの破壊任務、レガシーヴァイパーを横流しした犯人の確保。

 およそ新米指揮官の領分を超えているが、そこは軍隊たがらやらなければならない。

 シルヴィアは官舎の荷物を輸送部隊に預けると出発前くらい挨拶と思い、母が住むウィンチェスター家に朝から訪れていた。

 母と一緒に朝食を採る広い部屋は穢れなき純白の白壁に囲まれ、同じ様にテーブルも白い。

 まるで清廉潔白を強調するかの様な部屋。

 そんな部屋に置かれているテーブルの両端に二人は座っている。

 幼い時から生誕祭の時は手が届く位置に座っていたのに、今の二人は手が触れられないくらいに遠い。

 まるで赤の他人みたい。

 シルヴィアが入室した時には既にこうなっており、暗に拒絶しているのが嫌でも分かる。


「シルヴィア、昨日の戦闘は見事でした。流石はウィンチェスター家の娘。先祖もさぞ鼻が高いでしょうね」

「はい……ありがとうございます、お母様」


 ウィンチェスター家の娘。

 決して私の娘とは言わない所に距離を感じてしまう。


「ですが昨日の式典での発言はなんですか。貴女はウィンチェスター家の跡取り娘なのですよ。ただでさえ火薬臭い体なのに、そんな事では良い婿は来ません。全く何を考えているのですか?」


 これはウィンチェスター家の呪縛。

 昔からシルヴィアはこれが嫌だった。

 御三家であるウィンチェスター家の血筋を途絶えさせてはいけないと思い込む母の凶気。

 兄が生きていた時は兄が継ぐ事になっていて厳しくなかったが、兄が亡くなってからはシルヴィアに矛先が向いている。

 だがシルヴィアも仕方が無い事だと思った。

 目の前にいる母も幼い時から、この呪縛による犠牲者なのだから。


「すみません、お母様。……でも、私は間違った事は言ってま――っ!?」


 母が持っていたグラスをテーブルに勢いよく叩きつけた。

 グラスに入った飲み物が全て溢れるくらいに。


「貴女はウィンチェスター家の人間であり御三家の一員なのですよ! その貴女があんな事を言ったら御三家である家名に傷が付きます。それに助かったから良いですが、救国同盟に襲われて傷物になったら結婚だって無理なのは分かっているのですか!?」


 言葉が出ないシルヴィア。

 兄が亡くなって母は変わってしまったのか、シルヴィアの事を政争の具としか見ていない事に肩を落とす。

 もはや何を言っても母には……この人には届かないのだろうと諦めさえ考えてしまう。

 そしてシルヴィアは席を立ち上がりながら母に宣言する。


「お母様の言い分は分かりました。……ですが私は間違った事は言っていません! 人の価値は出自で決まらない。その者が何をしようとして生き、また何を成して今を生きてきたかで決まるのです! 私はこの言葉を信じてこれからも闘い続けます!!」


 シルヴィアの決意を込めた言葉。

 その姿はまるで伝説として語り継がれてきた『自由()平等()博愛()』のトリコロール腕章を着けて戦ったイヴァンジェリン・ウィンチェスターの生き写しの様な気高く高潔な姿。

 同じウィンチェスター家の血筋を引いている筈なのに母は圧倒され無言になる。

 呆然と椅子に座る母にシルヴィアは軍人らしく敬礼し。


「では失礼します、お母様。どうかお体をご自愛下さい」

「ま、待ちなさい、シルヴィア! まだ話は終わってないわよ!!」


 母の制止を無視し、シルヴィアは静かに扉を閉めた。

 自分の家なのに、まるで他人の家にいる様に思えるくらいに落ち着かない感覚。

 扉にもたれ掛かってはため息を吐いた瞬間。


「また母さんとやりあったのか? シルヴィア」

「お父様!?」


 シルヴィアにお父様と言われた男性。

 海兵隊の制服を着ており、制服には数々の勲章やリボンバッチを着けては脇に軍帽を挟んで立っていた。


「すみません、お父様。出勤前にお騒がせしてしまって……。ですが、お母様が分からず屋なので……」

「そういう所は親娘で似ているな。正しくお前はウィンチェスター家の女だ。気高く、高潔に生きようとする姿がな。……少し外を歩きながら話をしないか?」

「私は構いませんが、お父様は大丈夫なのですか? 統合参謀本部勤めは忙しいはずですし……」


 これはシルヴィアなりに気を使った言葉だった。

 あの発言により父に対する軍からの風当たりが強くなったはず。

 何かあれば好機とみて重箱の隅をつつくみたいに父の立場を脅かすだろう。

 だが父は全く意に介する事なく優しく笑いかけた。


「なに構わんさ。私一人いなくても代わりの者が軍の仕事をみる。だがお前の父は私しかいないんだ。どちらを優先すべきかは明らかだよ」


 そう言って父は付いて来いと語る様に背中を見せては歩き出し、シルヴィアは少しほっとした気持ちになり後を付いて行った。


 ******


 ウィンチェスター家の屋敷は御三家と言われる程で普通のメインベルトの家よりも大きく、さながら邸宅という言葉がお似合いの家だ。

 緑の芝生が生い茂る広い庭には庭師が手入れをしており、敷地にはプールも付いている。

 邸宅にはメイドや執事も複数おり、みなシルヴィアが幼い頃からの顔見知りだ。

 だが、この邸宅にもベルトシステムの差別は存在し、メイドや執事はセンターベルト。

 庭師などはアステロイドベルトが就いている。

 そんな中、シルヴィアと父は庭園を歩きながら話をしていた。


「エマの事は余り悪く思うなよ、シルヴィア。あれは一種の病にかかった人間なんだ」

「病、でありますか?」

「そうだ。ベルトシステムという特権階級意識が病を育て、増長させてしまった犠牲者であり加害者。無論それは我々メインベルト全体も同じだ。私の知る限り唯一人の例外を除きだがな」

「その例外は誰なのですか?」


 シルヴィアは知りたいと思った。

 自分の考えと同じ人がいるなら是非とも話したいと思ったから。

 その言葉に父は庭園に咲いている赤いリコリスを見ていた。

 このリコリスは先祖であるイヴァンジェリンが生前好きだったと手記に記されており、以来先祖代々から大事に育ててきた。

 またイヴァンジェリンの功績を讃え、連邦にはリコリス祭がある。

 リコリス祭は大事な人にリコリスの花をプレゼントする祭り。

 これも生前のイヴァンジェリンが共に戦う仲間達にプレゼントしたのが由来。

 それはイヴァンジェリンにとって共に戦う仲間は誰よりも大事な存在で、赤いリコリスの花言葉は情熱と独立。

 そんなリコリスを採ってはシルヴィアの胸に差す父。


「それはお前だ、シルヴィア。お前はイヴァンジェリン・ウィンチェスターの生き写しの様に気高く、高潔に生きようとする。メインベルトで婿養子の私が言うのも何だが、お前の言っている事は間違っていない。たとえ世界中から非難されても私はお前の味方だ、シルヴィア。だから自分の思う通りにやりなさい。家の事など気にするな」

「はい、ありがとうございます……お父様」


 父親としての優しさに嬉しくなり、つい瞳を潤わせてしまうシルヴィア。


「お前は昔から泣き虫だったな。そんな顔をすると折角の美人が台無しだぞ」

「だって……だってぇ……」


 父は困った者だと思ってしまう。

 目の前にいる娘は自分や大人達と同じ海兵隊の制服こそ着てはいるが、中身はまだ少女のままという事実に。

 その泣き姿を見てしまうと娘の将来を心配してしまう。


「もういい加減に泣き止みなさい、シルヴィア。お前の向かう戦場では辛く、逃げ出したくなる現実が無慈悲に襲いかかってくる。それは指揮官として避けられず、必ず通る道だ。だから、もし限界と思ったら体裁など気にせず家に帰ってきなさい」

「分かりました……ですが私は帰りません! 帰る時は仲間と共に帰ります! そして誰一人として戦場に置いていきません!!」


 涙を滲ませながら宣言するシルヴィア。

 その立派な指揮官姿に父は先程思った困った者をそっと心の中で訂正した。

 そして目の前に居る指揮官に敬礼する。


「それでこそ海兵隊だ。海兵は前に――」

「――前進あるのみ!」


 ついこの前まで子供と思っていた娘は、いつしか立派な指揮官に成長して父は嬉しくなったが付け足した。


「軍人としては娘が立派な指揮官に成長して嬉しいが、父としては早く彼氏の一人くらい作って貰いたいものだがな。あはは」

「お、お父様!!」

「なに、私だって可愛い娘を持つ一人の父親だ。いくら戦場で人殺しの業を背負ったとはいえ、娘の晴れ姿くらい死ぬ前に見ても罰はなかろうに」

「そ、それはそうですが……善処します」


 顔を赤らめてソワソワするシルヴィアを見ては父は改めて娘の将来が心配になってしまう。


「そうしてくれると助かるよ。エマもミカエラを失って悲しんでいるんだ。だからせめてお前だけは幸せになれ。兄もきっとそう思っているだろうよ……」


 何処か寂しげな顔をする父。それを隠す様に軍帽を深く被ると海兵隊の制服を着た男性が走って来ては父に耳打ちする。

 すると父はため息を吐きながらシルヴィアに別れの挨拶をした。


「すまないな、シルヴィア。もっとお前との時間を取りたいのだが、偉くなれば成る程忙しくなる。大統領や国防長官から例の完全自立国防システムについてせっつかれてるのだ」

「アドミニストレータシステム……無人機を動かすシステムですね。新型の第五世代ヴァンパイアからは既にシステムの初期的バックアップを受けていると聞いています」

「そうだ。無人機なら誰一人悲しまないと触れ込みで先進各国が順次採用してはいるが、得体の知れないシステムに全てを預けるのは気がすすまない。第一、ブラックボックス化され過ぎているからな」

「でもシステムバックアップを受ければヴァンパイアの性能をフルに引き出せます。そうすれば戦死者の数はぐっと下がると思いますが……」

「それは違うぞ、シルヴィア」


 父は庭園に咲くリコリスを見ては、遠く離れた基地から飛び立つ戦闘機群を見る。


「確かに数の上では下がる。だが無人機に戦争をやらせれば人々は死の痛みを忘れ、やがて戦争がゲームの様に感じる事になってしまい平和の価値を忘れてしまう。そして殺戮の限りを尽くすだろう。古来から人類は戦争がやめられない生き物だ。皮肉な事にそれは歴史が証明している」


 無人機によるヴァンパイアの戦争は確かに()()では犠牲者はいない。

 戦場で惨たらしい最期を迎える人は少なくなるが、人々は平和の尊さを忘れて飽くなき要求を満たす為に戦い続ける。

 戦争がゲームの様に感じてしまい、感情の無い無人機はそれこそ相手を絶滅させるまで殺戮を続けるだろう。

 情や情けなどの人が持つ感情などは機械には分からないから。

ご愛読ありがとうございました。

この話で第一章は完結になりして、次章オセアニア編(仮)になります。

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