それだけは無理
統合参謀本部の一室に設けられいる会議室。
昨夜の一件があるから小さな会議室で密かに事を終わらすだろうと思っていたが、シルヴィアとリーナが通された会議室はスクリーン付きの大会議室。
スクリーン前に用意された席に座るなり扉が開かれ、三人の男性が入室してきた。
「ウィンチェスター大尉、パークス大尉、待たせて悪いな」
一人は海軍カラーであるネイビー色の軍服を着た男性、もう一人は海兵隊の制服を着ている。
敬礼する二人に返礼し、着席を促した。
「私は海軍のアレックス・ドーソン中将。こちらは海兵隊の太平洋戦隊作戦部、リチャード・アセリンスキー少佐に中央情報局のメイソン・グレイ氏だ。二人とも座ってくれ」
「「はっ!」」
着席するなりシルヴィアは三人を見て疑問に思った。
昇進辞令や勲章授与なら人事担当官で事足りるのに、海軍に海兵隊の太平洋戦隊作戦部長。しかも中央情報局の人間まで来るのはただ事ではない。
中央情報局は諜報と防諜が任務だから。
「任務説明はアセリンスキー少佐とメイソン氏から行う」
「任務説明……でありますか?」
不意に口から出てしまい、シルヴィアは急いで口を隠す。
「ああ、昨日のパーティーや式典での発言を咎められると思ったのか? 安心しなさい、政府からは何も出ていない。むしろ大統領から君の意向を叶える様にと通達がきたくらいだからな。ただ……」
「ただ?」
「個人的な見解を言えば軍人が政治的な発言をするべきではない。それは政治家や国民の領分であり、我々軍人が口を出していい事ではない。シビリアンコントロールから逸脱するからな」
「……申し訳ありません」
「何も咎めてる訳ではない。むしろ昨日の発言で私は君のファンになったくらいだ。私はお父上とも一緒に戦場を共にした事がある。それに昨日の戦闘は見事だった。パークス大尉も混乱した司令部をよくぞ立て直した。情報部にしとくには勿体ない人材だな」
ドーソン中将の言葉に二人は立ち上がり再び感謝を込めて敬礼した。
「さて、話がそれると隣に居る二人に悪いからな。単刀直入にウィンチェスター大尉は本日付けで第一海兵機甲師団第一海兵連隊所属のドラグーン隊隊長に任命。パークス大尉は同連隊本部の作戦情報部に配属とする」
突然の異動命令に二人は言葉が出なかった。
昨日の一件でシルヴィアは左遷される覚悟は出来ていたし、なんだったらリーナが降格または左遷されたら人事部長に抗議する決意もしていた。
でも実際は長年希望していた最前線勤務になりシルヴィアは内心喜んでいたが、親友であるニーナの異動命令が気掛かりだった。
「あの、ドーソン中将。私は構いませんが、パークス大尉まで何故ですか?」
「うん? なんだ友人から聞いてないのか、パークス大尉も異動願いをずっと出していたんだよ。生意気にもウィンチェスター大尉と一緒の隊という条件でな」
「リーナがですか……」
隣に座る親友の顔を見ると恥ずかしそうに視線をそらしながら。
「別にいいでしょ……シルヴィは私がいない駄目なんだからさ」
「リィィィナナナァァァ」
親友の言葉に感極まり、上官の居る前で満面の笑顔に変わっていくシルヴィア。
堪らずリチャード少佐が咳払いし。
「君たちには通常任務をこなして貰らうが、ある特別任務が別にあるのだが、そちら中央情報局のメイソン氏から説明を」
リチャード少佐の合図の下、メイソン氏が説明を始めた。
「ウィンチェスター大尉から上がった報告書にもあるレガシーヴァイパーだが、所属を現す機体番号は消されていたのだ。またサテライトリアクターも通常、レガシーヴァイパーに搭載される物ではなく、ヴァイパーに搭載されているサテライトリアクターが搭載され、各部をカスタムした形跡がある」
スクリーンに映し出されるレガシーヴァイパーの残骸。
胸部装甲を外しては中の部品番号を指差す写真に変わる
「これは機体の構成する部品の一つだが、機体番号が消されていた為に我々中央情報局は部品番号から追跡したのだが――」
メイソン氏の説明を聞いているシルヴィアの耳にリーナが「本国の奴らもバカじゃないね」と耳打ちしてしまう。
所属を表す機体番号は消えていても、軍は構成部品番号を管理しており、何処の基地に運び使われたから分かるからだ。
「構成部品番号から、現在我が軍と戦争状態にあるオセアニア前線基地からだと判明した。よって君達にはレガシーヴァイパーを横流しした奴の逮捕、並びにある機体の破壊が君たちの任務だ。また報告書にも書かれていた通り、テロリストは我が軍の敵味方識別コードを使っていたから軍内部にスパイがいる可能性がある」
再びスクリーンに映し出されるヴァイパーと見知らぬ一機のヴァンパイア。
連邦製と違い、東欧製に共通する曲線が目立つ機体と交戦するヴァイパー。
謎のヴァンパイアは軽々と射線をかわしては距離を詰める。
手に持っていたハンドガンらしき武器を至近で放つとヴァイパーが紙くずみたいに吹き飛ぶ映像に二人は息を飲む。
たった一機で次々とヴァイパーを破壊し、隊長機である頭部にブレードアンテナを装備したヴァイパーの胸部にハンドガンを突き付けては凶弾を放つ。
弾丸は機体を貫通するどころか、コックピットをくり貫く様に大穴が開き、そのまま地面に倒れ込んだ。
直ぐ様、対装甲ナイフを振りかぶるヴァイパーが映り込んだ所で映像が切れた。
一緒に映像を見ていたアセリンスキー少佐が説明を再開する。
「今のはドラグーン隊が交戦した映像だ。謎のヴァンパイアにより部隊の半数以上撃破され、その際に前任者である隊長は戦死。ウィンチェスター大尉には現存戦力を持って、このヴァンパイアの破壊が特別任務になる」
「ドラグーン隊の現存戦力って……補充は無いのですか!? 今の映像を見る限り、あのヴァンパイアは我軍のヴァイパーよりも性能が上ですよ!? 半数以下で戦ったら全滅します!」
シルヴィアの指摘はもっともだったが、アセリンスキー少佐からは非情な言葉しか返ってこない。
「補充は無い。あくまで噂だが、近い内に休戦協定が結ばれると言うから、敵はその前に領土拡大を狙っていると思われる。その為に全戦線に圧力をかけられて余裕がない。その代わり海軍から強襲揚陸空母を旗艦とした空母打撃群、空軍からはガンシップ。海兵航空団から武装ヘリによる近接航空支援が得られる予定になっている。幸いにもあの国は沿岸国家だから強襲揚陸空母に搭載されてる艦載機も使える手筈だ」
「ですが、あのヴァンパイアの強さは――!」
「話は以上だ。パークス大尉と協力してテロリストに横流しした犯人の確保、並びにヴァンパイア撃破が君達の特別任務だ。スパイの件はこちらで探りを入れるから気にするな。幸いにもドラグーン隊には優秀なパイロットが揃っているが、その中でも優秀なパイロットが一人いる」
「優秀なパイロット?」
するとモニターに一人の少年が映し出された。
漆黒の黒髪の少年、顔からしてシルヴィアと同い年と思えるくらいに若い。
「レイ・ウォーカー軍曹。彼が最先任になっているから、実質彼が隊長代理だ。優秀なパイロットだから安心したまえ」
******
三人が部屋から出て行き、静粛を取り戻した大会議室。
シルヴィアは未だモニターに映るパイロットの顔を見ていた。
「レイ……ウォーカー……」
その姿にリーナが横槍を入れてきた。
シルヴィアが珍しく男の顔に魅入ってるから。
「シルヴィったら気になるの? そうよね~シルヴィも年頃の女の子……だものね~」
わざとらしく間を開けて言うとシルヴィアはたちまち顔を赤らめた。
「ち、違うから! そんなんじゃないから!」
「うわ~余計に怪しい~!」
リーナはそう言いながらシルヴィアの手から人事ファイルを奪っては開いて見た。
「なになに。え~、レイ・ウォーカー軍曹……お、歳はシルヴィと同い年じゃん! あとは………ちょっと何よ、コレ!?」
驚愕するリーナの横からシルヴィアもファイルを覗くとウォーカー軍曹の経歴は黒塗りされており、数々の勲章も没収と記載されている。
しかもベルト階級はアステロイドベルトと記されていた。
「しかも隊員全員がアステロイドベルト……最悪過ぎて吐きたくなった。返す……」
シルヴィアの胸に人事ファイルを突っ返しては大会議室から出ようとするリーナ。
「ちょっと、リーナ! 彼らはあなたの両親が巻き込まれたテロとは関係ないわ……きっと話せば良い人達だろうし、分かり合えるわよ」
シルヴィアの言葉が届いたのか、リーナは扉前で歩みを止める。
だが決してシルヴィアを見ようとしない。
「それだけは無理……あいつらアステロイドベルトは私から両親を奪ったんだから。それだけは死んでもごめんよ」
それだけ言い残しては、リーナは静かに扉を閉め、閉ざされた扉を見ながらシルヴィアはファイルを握る手に力が入る。




