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エンドレスワルツウォー  私が俺が、あなたの戦争を終わらせる  作者: 冬葉 ハル
第一章 理という名の重力に縛られた者達
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悔しいよ

 救国同盟に襲われた日の夜。シルヴィアとリーナは軍警察に護衛されて官舎に戻った。

 シルヴィアは自分の部屋に戻るなり傷だらけのドレスを脱ぎ捨ててベッドに倒れ込む。

 未だ残る恐怖からか、部屋の明かりは消したが机にある卓上ライトは点けっぱなしの状態にした。

 真っ暗闇にしてしまうと恐怖が甦るから。


 そして大好きな兄と一緒に写った写真立てを下着姿のまま、まるで赤ん坊の様に丸くなりながら抱いて瞳を閉じた。


 写真立てのガラスにヒビが入っている事すら気付かずに夢の世界に堕ちていくシルヴィア。

 だが恐怖で眠りが浅いのか、暫くすると薄っすらと瞳を開けては立ち上がる。

 そして机の引き出しからリボルバーを取り出し、今度は写真立てと一緒にリボルバーを抱きながら眠りに入った。


 ******


 ラッパによる連邦国歌の演奏が始まると同時に国旗の掲揚が始まる。

 これは一日の始まりを意味し、訓練の賜物なのか、いつもの様にシルヴィアは目覚めてしまった。


 官舎に着いたおりに上官からは休んでいいと言われていたので、生まれて初めての寝坊というやつを試したかったのだが出来なくてちょっとだけ不機嫌になるシルヴィア。

 元々時間通りには起きるが、幼少期から寝起きが悪いと今更ながら母に言われたのを思い出してしまった。


 服を着ることなく、そのまま机にある端末を開いて連絡事項を確認する。

 画面には新着メッセージが表示されており、クリックして開くと午後一番に統合参謀本部に出頭しろと記載されていた。

 恐らく勲章授与と新しい昇級辞令を渡すだけだろうと思い、シルヴィアはニュースのチェックを始めようとしたら誰かが部屋をノックする。

 躊躇いもなくシルヴィアはドアを開けようとしたが急に立ち止まる。そして踵を返しては机に置いたリボルバーを取り、それを背中に隠しながらドアを開けた。

 もちろんチェーンを掛けたままだ。


「おはよう、シルヴィ」


 ドアを開けた先には恐らく自分も同じような顔をしてるだろう、目の下に隈が出来ているリーナが立っていた。


「おはよう、リーナ。早いわね」

「それはこっちの台詞。女性用官舎だからって服は着てよね。それ立派なセクハラだから」

「……え?」


 リーナに指摘されてシルヴィアは自分の体を見ると、たちまち恥ずかしくなり顔から湯気が出るんじゃないかと思うくらい赤くなった。


「あああ、ごめんなさい!! 昨日はその、あんな事があったから疲れていたのよ!!」

「別にいいよ。シルヴィの下着姿くらい見慣れているし。なんだったらその姿でお見合い写真を作ったら? きっと引く手あまただよ」

「リ、リーナ!!」

「冗談だって。それより、だいぶ()薄くなったね。良かったよ」

「……うん」


 リーナの言葉に短く頷き、シルヴィアは自身の左胸を大事そうに触る。

 そこには年端のいかない少女に似つかわしくない傷痕が刻まれていた。

 シルヴィアが気まずそうな表情を見せ、リーナは手を叩いて話題を変える。


「朝ご飯食べに行こ。今日はシルヴィと一緒に統合参謀本部に行くからさ」

「リーナも?」

「そ。なんだろうね、昨日の件の聴取かな。もしかしたらシルヴィがパーティーや式典で言ったのが原因で一緒に降格か左遷かも知れないね」


 リーナは笑いながら言ってはいるが、シルヴィアは言葉に詰まる。

 自分のした行動の結果で降格または左遷は受け入れるつもりだった。

 だが自分の行動で親友の未来までも左右されるのは忍びない。


「ごめんなさい、私が忠告を聞かなかったばかりに昨日はあんな目に遇ってしまったのよね。もし降格処分とかだったら私が人事部に直接申立てをするから。なんだったら私の階級を二階級どころか、三階級降格処分にして勲章も全部返して納得させる!」


 今にも泣きそうな顔しながらリーナの手を掴んで訴えるシルヴィア。

 穢れ一つない、その蒼い瞳を見てリーナは本気で言っているのだと察した。


「別にそこまでしなくても大丈夫よ。士官はメインベルトからしか成れないんだし、三階級降格して下士官の曹長になったらメインベルトを剥奪されてセンターベルトになっちゃうよ? そしたら一緒に入れる店も限られるし、そうなったら私は退役願いを提出するわ。親友を売ってまで軍に残る気なんて無いし」

「リ、リリリィィィナナナァァァ!!!」


 感極まって泣きながらリーナの体を抱き締めるとリーナは優しく頭を叩いた。


「はいはい。暑苦しいからやめなさいよね、まったく」

「だって……だっでぇぇぇ!!」

「当たり前でしょ、だって私達は親友なんだからさ……」


 少し寂しそうに言うリーナにシルヴィアは強く抱き締めて返事した。


「ええ。私達はずっと親友、生きるも死ぬも――」


 シルヴィアの言葉に合わせる様にリーナも口にしていく。


「「――二人一緒。常に友情に忠誠を、センパーファイ!!」」


 ******


 軍服に袖を通しては制帽を被り、シルヴィアはいつもの様に兄の写真立てに敬礼する。


「シルヴィア・ウィンチェスター大尉、行ってきます! 私と親友を守って下さいね、兄さん」


 廊下で待っていたリーナは何故か部屋のドアを拭いていた。

 足元には紙袋があり、中には貼り紙らしき物が沢山入っている。


「どうしたの、リーナ?」

「別に、ドアがちょっと汚れていたから拭いてあげてたの」

「そ、そう……ありがとう」


 一緒に官舎の食堂に行くと空気が一変したのが分かる。

 皆の冷たい視線は一気にシルヴィアに集まり、その視線にシルヴィアはシルヴィアで心がゆっくりと確実に、そして強く締め付けらていった。

 配膳皿を受け取っては配膳係が盛っていくが、明らかにシルヴィアの配膳皿にはグチャグチャに盛られている。

 そして同期の士官達が目に入るとシルヴィア達はいつもの様に同じ席に座ったが、二人が席に着くと座っていた人達は離れていき、中には舌打ちする者までいた。

 それも仕方が無い事だとシルヴィアは噛み締めながら我慢する。

 ここは士官用の官舎で、住んでいる人間は皆メインベルトの人間。

 シルヴィアも同じメインベルトだが、昨日の式典での発言は皆が観ていたし、パーティーでのスピーチは誰かが漏らしたのだろう。

 望まぬ作られた英雄は一夜にして犯罪者扱いに変わってしまい、そんなシルヴィアを見てリーナはわざと聞こえる様に言った。


「ま、予想はしていたけどね……()()()()()()()()()()()()()()()()()


 皮肉を込めて言ったのが功を奏したのか分からないが、周りから余計に人が居なくなってしまう。

 まるで世界で二人しか居ないみたいに。


「やめなよ、リーナ。 貴女まで標的にされるわよ……」

「平気平気。あいつらにそんな度胸なんて無いわよ。せいぜい陰口がいい所だよ。()()()()()()()()()()()

「リ、リーナ!?」


 リーナの皮肉を込めた言葉に誰も反応することなく食事を続けるかつての仲間。

 シルヴィアのグチャグチャに配膳された皿を見て、リーナはシルヴィアの配膳皿を退けて自分の配膳皿を真ん中に置いた。


「半分あげる。私、ダイエットしてるからさ」

「リーナ……ありがとう」


 配給制の為に軍の出す食事は味が薄くて美味しくなかったが、今日の食事は不思議と美味しかった。

 一口食べる度に感情が込み上げてきては蒼い瞳から輝く星が流れ落ち、シルヴィアはつい心情を吐いてしまう。


「うっ……私、間違ってたのかな……リーナ。悔しい……悔しいよ……」


 親友の涙を拭わず、リーナは言った。


「このどうしようもない不条理な世界は間違いを直したくないだけ。ただそれだけの事だよ」


 そう言ってリーナは足元に置いた紙袋をテーブル下に蹴飛ばした。

 紙袋の中身はシルヴィアを誹謗中傷する貼り紙。

 ドアには言われのない落書きがされていたのだ。

 このどうしようもない不条理な世界はシルヴィアが生きるには辛過ぎる世界。

 だからリーナは早くこの子を涙を拭ってくれる騎士が現れないかと、親友として()願わずにはいられなかった。

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