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エンドレスワルツウォー  私が俺が、あなたの戦争を終わらせる  作者: 冬葉 ハル
第一章 理という名の重力に縛られた者達
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あなた達は何処にいますか

 戦争を賛美する政治家や軍人に国民、そして祖国愛を訴える者は、いつの時代も安全な場所で自分のエゴイズム(愛国心)を満たす為に愛国心を他人を強要する。


 シルヴィア・ウィンチェスター大尉 回想録抜粋


 ******


 良き理解者とされるウェッソン大佐と別れたシルヴィア。

 すると司会者からまたもシルヴィアにスピーチを頼んできた。

 最初は嫌がっていたシルヴィアだったが、大統領からも頼まれては一介の軍人には断れない。

 スピーチ原稿を渡されては仕方なく前に出た。

『真の連邦国民なら戦時国債を買おう!』と書かれた横断幕。

 まるで格好の道化みたいと思いながらシルヴィアはマイクに語りかけた。


「えっと、皆さん……既にご存知の方も多いと思いますが、シルヴィア・ウィンチェスターです。皆さんの祖国に対するたゆまぬ献身が戦場で戦っている兵士達の原動力になります。ですから是非とも戦時国債を買って下さい……皆さんの祖国に対する愛が前線で戦う兵士達に勇気を与え、連邦を勝利に導き、民主主義に安寧をもたらすのです。以上で終わります……」


 すると先ほどの式典とは違い拍手喝采が起こった。

 まるで式典の時にシルヴィアが訴えた言葉が最初から無かったみたいに称え賛美する。


「素晴らしい祖国愛を御持ちのご令嬢だ」

「是非とも援助しましょう」

「流石はウィンチェスター家の跡取り、英才教育の成果ですな」

「民主主義を掲げる私達が、劣悪な専制主義などに劣る訳がないですしね」

「聖戦に負ける訳にはいかないからな」


 拍手喝采で賛美する出席者達。

 無論彼らの子供や親戚は戦場ではなく、安全な後方で兵役に就いている。

 全ては出自とお金で決まってしまうベルトシステムによってだ。

 お金を持っていないアステロイドベルトの下に生まれた子供は高額な税金が払えず兵役に就くしかない。

 兵役に就いた方が一番報酬が高いからそれしか選択が出来ないのだ。

 だが高額な報酬には裏があり、翌年は更に高額な税金を払わなければならず、払えなければ兵役を延ばすしかない。

 いわば飼い殺しができ、死んでも代わりのアステロイドベルトは幾らでもいるからメインベルトの人間は痛くも痒くもない実に良く出来た劣悪なシステム。

 シルヴィアは、このベルトシステムを変えたいと訴えているが現実の壁はどんな要塞よりも堅く、また自分達の特権を手放したくないと思う者が大半を占めているから尚更たちが悪い。


「……あなた達は何処にいますか?」


 未だマイクの前に立っているシルヴィア。

 最初は誰が言ったのか分からなかったが、次第に静かになり、それがシルヴィアだと分かった。


「もう一度言います……あなた達は何処にいますか?」


 静穏はやがてざわつきに変わり。


「あなた達や、その子供達は何処に居ますか? この中に本当の戦場を知っている人はいるのですか? あなた達は卑怯です! 思ってもいない安っぽいエゴイズム(愛国心)をアステロイドベルトに強要し、安全な後方で戦争を賛美する……あなた達は卑怯者です! 恥を知りなさい!!」


 シルヴィアの言葉にリーナは目頭を押さえては項垂れ、式典の時に擁護した大統領の顔は険しくシルヴィアを見ている。

 シルヴィアはシルヴィアは堂々と一礼してはマイクから離れた。


 すぐにリーナが駆け寄り心配そうな表情を浮かべながら言った。


「不味いよシルヴィ! 式典の時は大統領も面子があるから助けてくれだけど、流石に支援者が多い場所で顔を潰されちゃ最悪左遷だよ」


 だがシルヴィアの表情は式典の時とは比べ物にならないくらい晴れやかな顔をしていたが、その瞳に迷いはなく。


「平気よ。最前線なら私の願いが叶うもの」


 その後、シルヴィアの言葉はメインベルトの議員達や支援者からすこぶる不評だったらしく、中には反逆罪や愛国者法違犯で裁きにかけようとする者すらいた程だ。

 だがシルヴィアにお咎めは無かった。

 なんでも出席者の中に連邦政府最大の援助者がおり、罰を下さない代わりに多額の献金をしたらしいと噂が上がったが、連邦政府は直ぐに否定する声明を出しては揉み消した。


 ******


 パーティーが終わり、シルヴィアとリーナはホテルから官舎に戻る為に軍が用意した送迎車に乗り込んで帰路についていた。

 いつの間にか雨が降りしきり、まるで泣けない誰かの為に泣いている様。

 暫くしてリーナが異変に気付く。


「ねぇ、官舎に向かう道とは違う道だけど?」


 すると車は急停車し、ドライバーは走って逃げてしまった。

 辺りを見回すと住宅街の路地裏に連れていかれており、リーナは直ぐにドアを開けようとするが開かない。


「っ!?」


 シルヴィアもドアノブを引くが、全く反応がない。

 降りしきる雨を照らすヘッドライトの光。その光の先に黒ずくめの連中が現れた。

 手には鉄パイプを持っており、顔は覆面でわからない。

 ワイパーが往復する度に、まるでワンフレームずつ近づくみたいに黒ずくめの連中が二人にゆっくりと迫り来る。

 黒い覆面には赤い十字の模様が見えた瞬間、リーナが叫ぶ。


「救国同盟!? 不味いよ、シルヴィ!!」

「分かってるわよ!」


 シルヴィアは直ぐにポーチの中に手を入れるが生憎と相棒の姿は無い。

 事前にパーティー会場には武器の持ち込みが禁止と通達があったからだ。

 だから官舎の机に入れたのだが、この為かと思い唇を噛む。

 救国同盟の連中は車を取り囲み、一人が車のボディを鉄パイプで引っ掻いて恐怖を煽っては窓を叩いて叫んだ。


「シルヴィア・ウィンチェスター! 貴女は国家に対する恩を忘れ、崇高なる国家システムに異義を唱えた。よって国家に代わり、真の愛国者たる我々が裁きを下す!」


 その言葉と同時に一斉に車を鉄パイプで叩き始めた。

 防弾ガラスの為に簡単には割れないが、恐怖を植え付けるには十分だった。

 叫ぶリーナを庇う様にシルヴィアが覆い被る。

 恐怖で震える親友の手を離すまいと強く握り、誰かが助けを呼ばないかと祈る。

 いくら住宅街の路地裏でも、ここはメインベルトの居住区域。

 これだけの騒ぎなのに人ひとりすら出てこない世界にシルヴィアは心底怒りを覚える。

 車のクラクションが鳴り響き、絶対に気付いてる筈なのに見てみぬ振りをしているメインベルト。


 やがて防弾ガラスには蜘蛛の巣みたいにヒビが入り、細かい破片が車内に飛び散ってくる。

 タイヤはパンクさせられ、身動きが取れない。

 すると救国同盟の一人がフロントガラスに小さな粘土状の物を取り付けた。

 それは建物の中に突入する際に軍が使う、破壊用のブリーチ。

 小さな爆発が起き、フロントの防弾ガラスは完全に破壊されてしまい、救国同盟の連中はシルヴィアの髪に手を伸ばす。

 外に引き摺り出されたら暴行されて最後は殺されると思い、シルヴィアはリーナ体を抱えながら必死に下がろうとするが座席が邪魔してこれ以上いけない。

 あと一歩。あと一歩の瞬間だったが、突如と眩しい光が車に当てられた。


「貴様ら何をしてる!!」


 男性が叫ぶ声に救国同盟の連中は怯んだ。


「いかん逃げろ!!」


 救国同盟の連中は蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。

 シルヴィアはリーナの体に覆い被さっていたが、先ほどの叫ぶ声と同じ声が語りかけてきた。


「君たち大丈夫かい!?」


 シルヴィアが顔を上げると腕の腕章には「MP」と印されており、周りは憲兵隊の車輌に囲まれて助かったと安堵した。


「私は大丈夫です……リーナは?」

「うん……大丈夫。けど凄く怖かったよ……」


 恐怖で震えるリーナの体を抱き締めて無事だった事を喜び、シルヴィアはある疑問を憲兵隊に問いかけた。


「あの、どうして私達の場所が分かったんですか? みんな見てみぬ振りをしていたのに……」


 誰だって触らぬ神に祟りなしと思い、救国同盟なんかに干渉してこないからだ。

 今回は身を持って思い知らされたが、憲兵隊からは意外な事実を知らされる。


「匿名の通報があったのです。あなた達が襲われてるって。しかも住所まで正確に。まるで近くで見ているかの様な言い方でしたよ」

「匿名の通報ですか……」


 まだ誇りを失っていないメインベルトの人にシルヴィアは感謝し、リーナに寄り添いながら憲兵隊が使っているSUVのリアバンパーに腰がけた。

 二人して毛布にくるまり、今は無事を噛み締めながら紙コップに入れてくれた珈琲を飲んで呟く。


「こういう時は美味しい筈なんだけど、やっぱり珈琲は不味いわね……」


 そんな二人を見守っていたのか、現場近くの通りに止まっていた一台の高級スポーツカーが甲高い排気音を響かせながら闇夜の街に消えて行った。

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