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エンドレスワルツウォー  私が俺が、あなたの戦争を終わらせる  作者: 冬葉 ハル
第一章 理という名の重力に縛られた者達
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吐きたいわ

 大多数の政治家や政府を無能呼ばわりする国民だが、そうした政治家を当選させてるのは自分達だという事を都合良く忘れている。


 真の無能は彼らの本質を見抜けない我々大多数の国民なのだ。


 シルヴィア・ウィンチェスター大尉 回想録抜粋


 ******


 式典会場に着くなり、既に式典は始まっているみたいでシルヴィアは急いで壇上の席に上がろとした瞬間、リーナがあるファイルを手渡した。

 そのファイルを開くなりシルヴィアは息を飲み静かに肩を落とす。

 何やらリーナが怖い顔をして首を振る仕草をするがシルヴィアは制止して行ってしまう

 そして壇上の席に着くと大勢の国民が大統領を見ており、シルヴィアの目の前に今その国民達がいる。


「――今日、卑劣なテロ攻撃に我が連邦は晒されましたが、勇猛果敢にも戦った兵士がいます! 独立戦争のおり、我々を導いて戦ったうら若き指導者であるイヴァンジェリン・ウィンチェスター! 彼女の血を引く新たな英雄を迎えようではありませんか、国民の皆さん! 私の命の恩人……いや、連邦の恩人である、シルヴィア・ウィンチェスター少尉です!! 皆さん拍手を!!!」


 式典会場を揺らす程の盛大な拍手が巻き起こる。

 スポットライトはシルヴィアを照らし、カメラのフラッシュはまるで閃光弾の様に眩しい。

 テレビカメラはシルヴィアの一挙手一投足を逃すまいと喰らいついている。

 当のシルヴィアは慣れていない為に、おどおどしながらマイクの前に立つ。

 事前に軽くスピーチと言われていたが、いざ始まると緊張で頭が真っ白になってしまう。

 だが伝えないといけない言葉があり、シルヴィアは勇気を振り絞っては口を開く。


「皆さん、こんばわ。シルヴィア・ウィンチェスターです。今日は皆さんに伝えないといけない事があると思い、それを話させてもらいます。どうかご清聴下さい――」


 何やら不穏な空気が流れる中、シルヴィアは真実を語り出した。


「今日をテロ攻撃をしたグループの一人であった少年の名前はニコ・クラウディア。まだ歳は私より一つ下で15歳になります。彼がテロ攻撃をしようとした理由は1〇年前に両親と妹が交通事故に遇われたのが発端です。原因は我々メインベルトの議員が飲酒をしたこと。ニコの両親と妹さんに議員は同じ病院に搬送され、医者は選択に迫られました。どちらかを助ければ片方が死ぬという事実に。助かる見込みが高かったのはニコの両親と妹でしたが、医者が選択したのは議員を助ける方でした。理由はメインベルトの議員秘書が多額の報酬を払う、助けてくれたら病院に多額の献金をするからと言ったからです。事実、病院に多額の献金が振り込まれ、その医者は今では院長になっております。ニコが我々に牙を剥くのも私は理解できますし、誰だって同じ境遇になれば彼の様な選択を取ります! だから皆さん、今の様に彼らアステロイドベルトを差別すれば必ず今日みたいな悲劇は終わりなく繰り返され、ベルトシステムによる境界線を無くさなければ私たち連邦に新の自由と平等は訪れません!!」


 シルヴィアはお辞儀をしてマイクから離れた。

 拍手は無く、冷ややかな言葉がシルヴィアの耳を刺す。


「頭がおかしいんじゃないのか、アステロイドベルトが死んだって私達には関係ないのに」

「御三家が一番旨味を味わっているのに、何が新の自由と平等だ」

「所詮は小娘。世間知らずにも程がある」

「ウィンチェスター家の跡取りがあれじゃ、名家も地に堕ちたな」

「お兄さんも馬鹿な理想主義者だったけど、妹も同じよね」

「死んだ兄さんも浮かばれないな」


 皆が陰口を叩き、シルヴィアの瞳にうっすらと輝く滴が流れる。

 自分が馬鹿にされるのは一向に構わなかったが、大好きな兄さんを馬鹿にされれるのが悔しくて堪らなかった。

 言い返してやりたいが、言い返した所で彼らに言葉は届かない。

 そんな中、一人だけ拍手する者が現れた。

 壇上に居る中で一番偉い人物。

 連邦政府大統領だ。


「素晴らしいお言葉です! 流石はウィンチェスター家のご令嬢。その若さで連邦の未来を危惧して頂けるとわ、大変素晴らしい未来観をお持ちだ。いや、是非とも未来の政治家になって頂きたい。私はウィンチェスター少尉の功績に二階級特進と名誉勲章を授与したいと思います! 賛同して頂ける国民は是非とも御起立し、拍手で若き英雄を迎え入れようではありませんか!!」


 大統領の掛け声にさっきまでの空気が嘘の様に晴れやかになる。

 満面の笑みで立ち上がっては拍手喝采で若き英雄の誕生を祝した。

 その光景にシルヴィアは心底気持ち悪くなる。

 一刻でも早く立ち去りたいが、大統領がシルヴィアの肩を抱き寄せながら手を振って離さない。

 その光景をマスコミに撮らせては大統領の言葉は続く。


「では皆さん、連邦国歌を歌いましょう! 今も遠く離れた戦地で戦う同志達に向けて! 我らが時代の先駆けであらん事を! 自由と平等を謳う者に正義の加護を!! パイオニア万歳、民主主義万歳!!!」

「「「我らが時代の先駆けであらん事を! 自由と平等を謳う者に正義の加護を!! パイオニア万歳、民主主義万歳!!!」」」


 大統領が音楽隊に合図し、連邦国歌が流れ初めては一斉に歌いだす。

 大統領は遠く離れた戦地に居る同志というが、その大半は彼らが差別して忌み嫌うアステロイドベルトの人達だ。

 まるで一種の洗脳されてるみたいに一挙手一投足乱れず国歌斉唱が続く光景にシルヴィアは寒気がした。

 国歌斉唱が終わり、シルヴィアが壇上から降りるなりリーナが声を掛ける。


「お疲れ、お姫様。どうだった?」


 リーナの言葉にシルヴィアは立ち止まる事なく、すれ違い様に呟いた……というより吐き捨てた。


「今すぐ吐きたいわ……」

「そ。吐くならトイレにしなさい」


 リーナも極めて短い言葉で返した。

 ファイルを渡した時に公表しない方がいいと念を押したのに聞かなかったからだ。

 そんなシルヴィアの後ろ姿にリーナは言い放つ。


「だから言ったじゃない。この世界は世間知らずなお姫様の言葉が通用するほど甘くないってさ……」


 ******


 式典が終わり、その後は大統領主催のパーティーが近くのホテルで開かれた。

 もっともパーティーと言っても戦時国債購入を促すパーティーで、出席者は財界や軍産複合体が大半で後は退役高級軍人が占めている。

 煌びやかなドレスやタキシードで出席者が楽しむ中、会場の隅にあるテーブルを独占してる者が一人だけ居た。


「ねぇシルヴィ、気を取り直してあっちに行こうよ。未来の殿方が居るからさ~」

「興味無いし、こんな場所に居ないから。行きたいならリーナだけでどうぞ。私はここで飲んでるから……」


 そう言ってシルヴィアはグラスにワインを注いでは一気飲みする。

 その豪快な飲み方には惚れ惚れしてしまうが、はっきり言って見た目の可愛さに合ってない。


「もうそんな事言わないでよ。この日の為にドレスを新調したんだよ? シルヴィだって可愛いの着てるしさ、未来の殿方を探しに行こうよ」


 リーナは淡いブルーのドレスを着て、大胆にも胸元の露出が多く。

 シルヴィアはシルヴィアで赤いドレスを着て、リーナと同じ様に胸元の露出が多いが、こちらは背中の露出も多い。


「この日の為って何回も聞いた台詞よ。貴女、この前のパーティーでも言っていたわ……にゃん」


 どうやら早くも酔いが回ってきたらしく、シルヴィアの語尾が猫語になっている。


「も~う、お酒弱い癖に飲まないでよ!」

「そんな飲んでない……にゃん! ちょっとだけ……ちょっとだけだにゃん」


 シルヴィアはそう言ってはいるが、既に卓上には多くのボトルが空いてる。

 こんなウィンチェスター家の醜態を晒していてはシルヴィアのお母さんに知られたら怒られてしまうと思ったリーナ。

 急いで水のグラスを取りに行こうとした瞬間、一人の女性が話し掛けてきた。


「フフ、二階級特進で名誉勲章持ちの大尉さんは大丈夫ですか?」

「え~、にゃんですか~?」


 その女性はシルヴィアよりも少し大人で、でも瞳にまだ幼さを秘めている女性。

 海軍の白い詰め襟の制服。この制服は「サービスドレスホワイトユニフォーム」で海軍の式典用夏季制服。

 肩の階級章は四本線で大佐を意味し、右胸には艦艇指揮官を表す小さな金バッチで艦長を意味してる。

 おまけに困難な任務に従事した者に与えられるリボンバッチを多数着けており、酔っ払ったシルヴィアが応対してるのを見てリーナは顔が青ざめていく。


「申し訳ありません、大佐! この者が何か失礼な事をしませんでしたか!!」


 リーナは直ぐに敬礼をし、若い海軍大佐の女性も返礼した。


「大丈夫よ、大尉。貴女が海兵隊情報部所属のリーナ・パークス大尉で、こちらがシルヴィア・ウィンチェスター大尉で合ってるかしら?」

「はっ! 肯定であります、大佐!」


 リーナが珍しく畏まった態度で接しているが、酔っ払ったシルヴィアには関係ない。


「たいさ~、一杯どうですかにゃん? と~っても良いお酒ですよ~」

「この馬鹿!」


 リーナは直ぐに水が入ったコップをシルヴィアの顔面にかけた。

 水を掛けられて冷静になってきたみたいで、次第に状況が分かってきたのか、リーナに目配せすると顔が青くなっていき。


「も、申し訳ありません、大佐!!」

「別に構わないわよ。今日は貴女にどうしても一つ伝えたくて来たの」

「私にですか?」

「ええ、軍内部でも貴女の考えに賛同する同志は居るからね。だから頑張ってちょうだい。不条理な世界に負けないで」


『不条理な世界に負けないで』


 この言葉を聞けただけでシルヴィアは嬉しさが込み上げてきては、同時に別のモノも込み上げてきた。


「ありがとございます! ……うぇ~」


 近くにあった花瓶に吐きながらシルヴィアは嬉しさを噛み締めた。

 自分のやった事は無駄ではなかったと、誰かの心を動かせる事が出来たと。


「あ、あの! 失礼ですが、大佐のお名前は!?」


 帰ろうとする大佐を呼び止めるシルヴィア。

 せっかく考えに賛同してくれた人の名前くらい知りたいと思ったのだ。


「クラリス・ウェッソンよ、未来の大統領さん」

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