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エンドレスワルツウォー  私が俺が、あなたの戦争を終わらせる  作者: 冬葉 ハル
第一章 理という名の重力に縛られた者達
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兄さん

 支配人の手配の下、リューゲと妖艶な女性は部屋のテラス席でルームサービスの食事を堪能していた。

 テラス席から見える、連邦政府の議事堂やホワイトキャッスルを見ながらワインを口にする。

 議事堂前では大統領の演説が終わったのか、大歓声の後に連邦国家の斉唱が始まった。


「君達も飲むかね? 新しい英雄の誕生を祝して」


 リューゲがワイングラスとボトルを差し出すがブライアンは払い除けてしまう。

 地面に割れて広がるワインの中身は、まるで血の様に濃く匂いが強い。


「ふざけるな! 俺達はアンタの作戦通りにやったんだぞ! 作戦では大統領は死んで、こっちに犠牲者は出ない筈だろ!」


 ブライアンの怒りの言葉なんか意に介さず、リューゲは割れたワインボトルを見つめながら。


「このワイン結構高いんだよ。それに君達は何か勘違いしてるらしいからハッキリ言うよ。作戦に失敗は付きもので、戦いに死者は付きものだ。私と協力者はちゃん計画通りに君達に提供したよ。後は君達の能力不足に起因するんじゃないかな」

「何だと!?」


 再びブライアンがリューゲのシャツを掴み上げる。

 テーブルに乗っていた料理は地面に落ち、ガラスが割れる音が鳴り響く。

 そしてブライアンはポケットから一枚の紙キレを突き付ける。


「これはニコの遺体から回収した脱出プランだ。俺やアイマンもアンタから貰ったが、ニコのだけ脱出プランが違うんだよ! 何でアイツが武器を載せた車を使って、死ななくちゃいけないんだよ!」

「それは私の責任では無いよ。彼の選択した結果だ。私はただ別の選択を彼に提示し、彼がそれを受け入れたに過ぎない」

「てめえッ!!」


 ブライアンの拳がリューゲの頬を殴りつける。

 すかさずアイマンがブライアンを押さえ込むがブライアンの叫びは止まらない。


「ふざけんな! ニコはまだ子供なんだよ、アイツが……何でアイツが死ななくちゃいけないんだよ……」


 リューゲは殴られた頬を拭いながら立ち上がる。


「笑わせないで欲しいな。子供だから死んではいけない? その子供が罪もない女の子を爆弾ベストで殺そうとしていたんだよ。家族がメインベルトに殺されたという被害妄想に取り憑かれてね。あれは不運な事故だったし、誰だって報酬を多く払う方に味方する。君達も同じじゃ――ッ!?」


 言い終わる前に今度はアイマンが殴りつけた。

 そして拳に付いたリューゲの血を見ながら言う。


「リューゲさん。俺はアンタの考えに賛同してはいるが、今日のやり方には賛同出来ない。アンタは本当に俺達の理想の為に必要なのか? ニコの犠牲は無駄じゃないと言い切れるのかよ」

「その点に関しては保証するよ。私の計画通りに進めば近い将来必ず君達の悲願が叶う。ニコはその為の犠牲だ。ニコのお陰で計画は促進するからね。ニコのお姉さんにも宜しく言って……」


 リューゲの額にブライアンが拳銃を突き付けるとリューゲは眉一つ動かさず言った。


「余り賢い選択とは言えないな、ブライアン」

「へぇそうかい。俺には賢い選択に思えるけどな」

「私は気が長いけど、()()()()()()

「何言って――ッ!?」


 突如、四人の居るホテルの真横にあるビル屋上に現れたヴァンパイア。

 連邦製のヴァンパイアの直線基調を基本としたデザイン特徴と違い、東欧製の曲線基調デザインをしたヴァンパイア。

 ダークグレーの装甲色に右手にはブルパップ式のライフルをブライアン達に向けている。


インビジブルシステム(光学迷彩)……」

「御名答。まだ一部の西側でしか使っていない先行装備のシステムだ。便利だけどリタクターの出力を喰うから戦闘向きではないけどね。これは私が考案し、東欧の友人にプレゼントして作って貰ったんだ。機体名はターミネーター」


 ターミネーターの赤いエックスを描く様な四眼が輝く。


『お怪我はありますか? リューゲ様』


 若い女の声にブライアンとアイマンは記憶を遡り仲間に居たかどうか考えていると、リューゲは頬を触りながらターミネーターに笑いかけた。


「大丈夫だよ、ちょっと殴られただけだから」

『殺しますか?』


 躊躇いや躊躇など微塵も感じない言葉。

 まるで機械が喋っているのか、冷たい無機質な感じが二人の背筋を締め付ける。


「殺しちゃ駄目だよ。彼らも君も私や彼女ですら計画を進めるには必要だ。こんな場所で失うには惜しいからね。待機していてくれるかい?」

『了解しました、リューゲ様』


 そう言うとターミネーターは再びインビジブルシステムを起動させ姿を完全に消してしまう。


「さて、お互い言いたい事は言えたから満足したかな? 実は君達に新たな任せたい仕事があるんだ」


 リューゲはスーツの内ポケットから封筒を取り出し、まるでそれをナイフ投げの素早くアイマンに投擲した。

 アイマンが掴み、中身を確認すると眉が険しくなる。


「いいのかよ、アンタ。これを実行したら組織は怒るんじゃないのか」

「組織の意向は関係無いし、君達に害は無い仕事だよ。君達はありのままを私に報告すればいい。彼に止めを刺す役者はこちらで用意する。それに彼は組織の意向に反して遊びが過ぎたからね。私としても庇い切れないし、有害なら活用して処分しないといけない。それがビジネスってやつさ」

「ビジネスか……いいだろう、今回はアンタの命令に従う。だが今度、仲間を犠牲にする作戦を考えるなら、ブライアンが殺す前に俺が殺すからな」

「ご随意に」


 ブライアンとアイマンが部屋からいなくなると、リューゲは新たなワインボトルを開けてはグラスに注いだ。

 グラスを妖艶な女性に掲げながら、グラスの中に注いだワイン越しに彼女を見て囁く。


「自由と平等という願いは数多の生け贄の血を飲んで叶うんだよ、我が愛しき人。きっと君は怒るだろうけど、これは全て君の為だということを分かって欲しい。全ては君の願いの為に。そうだろ、アドミニストレータ」


 そう囁くと掲げたワインをゆっくりと床に流し始めた。

 流れていく赤いワイン越しに彼女を見ると、まるで高潔で白く輝く聖女が血で染めれていき穢れていく様に見えてしまう。


 ******


 大統領の式典に呼ばれていたシルヴィアは官舎に戻るなり急いでボロボロになったブルードレスは投げ捨てては、ロッカーから予備のブルードレスを出す。

 そしてシャワーを浴びながら肌に染まった血を洗い落とそうとするが中々落ちない。


「血って落ちないものなのね……」


 シャワーを浴びながら足元を見ると排水溝に流れる真っ赤なお湯。

 これ以上落ちないと思い、シルヴィアはシャワー室から出ては急いで黒の下着を身に付けては、予備のドレスに階級章や勲章を付け替える。

 式典の時間が迫っているみたいで、運転手が仕切りにドアを叩いて急かしてくる。


「ま、待って下さい! もう行きますから!」


 一通りの儀式を終え、シルヴィアが部屋を出ようとする。

 だがある事を思い出し、急いで机の上に飾ってある写真立てに敬礼した。


「シルヴィア・ウィンチェスター少尉、行ってきます! ……守って下さいね、兄さん」


 その写真はシルヴィアがアナポリス(海軍士官学校)に入学した時に兄と一緒に撮った写真。

 まだあどけなさが残り、希望に満ちたシルヴィアを見守るように肩を寄せている兄の笑顔。

 そしてシルヴィアが部屋の明かりを消し、廊下の扉を閉めると、まるで未来を予感させるかの様に写真が次第に闇に染まっては写真立てのガラスに亀裂が入る。

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