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エンドレスワルツウォー  私が俺が、あなたの戦争を終わらせる  作者: 冬葉 ハル
第一章 理という名の重力に縛られた者達
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喜劇へのご招待

「私の兄さんって……だってシルヴィのお兄さんは一年前に事故で……」

「亡くなってるわ。私も遺体確認したし、お父様達も確認した。それに死んだ人間に狙撃は出来ないもの。だから兄さんは除外していいわ。たぶん残り二人の内の誰かよ」


 自分の兄は死んだ。

 認めたくない自分も居るのは分かるが、事実は認めなくてはいけない。

 優しかったと過去形で言わないといけない兄さんは、車の事故に巻き込まれて死んだのだから。


「それとリーナ、この子の身元紹介をお願い」


 シルヴィアがこの子と呼ぶ者は犯人であった少年の事だが、リーナは明らかに嫌そうな表情を見せた。


「そんなの警察に任せとけばいいじゃん、私達を殺そうとした奴だよ!?」

「お願い、リーナ。この子が言っていた事が気になるし、出来れば遺体を家族に帰してあげたいの。リーナなら情報部だから融通が利くでしょ?」


 手を合わせながら今の自分に出来る可愛さをフルに使って頼み込む。

 リーナは昔からこの頼み方をされると断れないのが恨めしい。


「わかったわよ。貸しだからね」

「ありがとう、リーナ! 流石はわたしの親友ね」


 満面の笑みで喜ぶシルヴィアにリーナの頬は赤くなってしまう。

 この天然お嬢様め……シルヴィみたいな振る舞いをする女の子が一番男を勘違いさせて不幸にするタイプよね等と思ってしまうリーナ。

 アナポリス(海軍士官学校)時代、シルヴィアの裏で呼ばれていたあだ名は《虐殺女王様》。

 数多の男性がシルヴィアにちょっかいを出しては「貴方みたいな差別主義は嫌いです」と言い、バッサリ返り討ちにあったからと言われているからだ。


「はいはい、分かったから落ち着いてよ。それとシルヴィに出頭命令が出てるからね」

「出頭命令!?」


 シルヴィアの目の前に一枚の公文書を突き出す。

 公文書には出頭命令と記載されており、連邦警察長官の署名付きときた。


「そう。街を半壊させるわ、銃撃戦をやるわのやりたい放題だったからね。連邦警察や地元警察からも越権行為で苦情が来てるとか」


 項垂れるシルヴィアにリーナは朗報で慰めた。


「そこで我らが仲間を見捨てない海兵隊の出番よ。大統領がどうしてもシルヴィを式典に出席させたいんだって。だから上層部は出席させる代わりに雑音を黙らせて欲しいって大統領にお願いしたの」

「それで?」

「もちろん大統領は快諾したわ。だから、この公文書は紙屑よ」


 ビリビリに破いては空にばら蒔くリーナ。


「だがらシャワーを浴びてサッパリしなさいよ、シルヴィ。綺麗なドレスを着てね」

「ド、ドレス!? だって式典だけならブルードレスでいいじゃない!」


 確かに海兵隊員を含め軍人なら礼服を着れば問題ないがリーナはシルヴィアの肩をガッシリと掴み。


「そんな堅苦しい服じゃ未来の男が逃げるわよ。式典の後にパーティーもあるんだから」

「ええ!? パーティーまで出るの!?」

「当たり前じゃない。大統領主催のパーティーに御三家が出なくてどうするの? パークス家の名代として私も出席するから大丈夫よ」


 シルヴィアは昔からパーティーとかが嫌いだった。

 昔は兄さんが出てはシルヴィアの盾になっていてくれだが、亡くなってからシルヴィアが名代として出席することが増えた。

 ただのパーティーなら問題は無いが、このパーティーは昔からシルヴィアの母が仕組んだもので、娘の相手探しを含んでいるから嫌いなのだ。

 みんな美辞麗句を並べてシルヴィアに近付くが、本当の狙いはウィンチェスター家の家名と財産が目的だと幼いながらシルヴィアは知っていた。

 誰も本当の私を愛していないとすら思いながらシルヴィアは話を聞き流し、口先だけは愛を囁く顔の裏にある、もう一つの顔を嫌悪していた。

 それに気付いていた兄さんはシルヴィアに近付く男達を追い払ってくれていたが、もうその兄さんもいない。


「分かったわよ……パーティーには出るわ。でも顔を出すだけだからね」

「そう言ってシルヴィはいつも最後まで居るのよね。『御三家だから真っ先に帰ったら相手に失礼だし』とか言ってさ。律儀と言うか、生真面目と言うか、まぁシルヴィの良いところだから私は好きだけどさ」

「だ、だって御三家が真っ先に帰ったら失礼じゃない! それに帰るタイミングが分からないと言うか、いつ帰っていいか分からないし……」

「はいはい。いつもお兄さんが声かけしてたからね。今じゃ私の役目だけどさ」

「だからリーナには感謝してるわ。だから今回もお願い!」


 両手を合わせながら満面の笑みでシルヴィアスマイルを放つと効果覿面なのか、リーナは目頭を押さえながら手でシッシッと素振りして。


「分かってるわよ。その代わり、もし良い物件がいたら紹介してよね? いっつもアンタにしか声がかからないし」

「うんうん、紹介するから! あ、良い物件って良い持ち家を持った殿方だよね?」

「いや違うから……分かんないならいいよもう」

「え?」


 天然なのか、計算してるのか分からないシルヴィアの言葉に呆れ顔をするリーナ。

 そんな他愛のない話をしていたら軍の迎えが来たのでシルヴィアは乗り込む。

 窓を開けてリーナに念を押した。


「じゃあリーナ、例の件頼むわよ」

「分かってるって。それよりもパーティーには可愛いドレスを着て来なさいよ。もしかしたらシルヴィのタイプの男が――」

「前線に行きたがらない男達の中に居ると思う?」


 笑いながらリーナを見ているが、こういう時のシルヴィアは笑っていないのは直ぐに分かる。


「あ、いないかなぁ~。シルヴィのタイプの男なんてジャングルの奥地じゃないと見つからないかも……あはは」

「よく分かってるわね、流石は私の親友」

「当たり前でしょ。何年親友やってると思ってるのよ」


 迎えの車がサイレンを鳴らしては群衆を掻き分けていく。

 夕陽が照らすワシントンの街並みに消えていく親友を見送るとリーナは闇夜の空を見ながら呟いた。


「本当……何年親友やってるのよ、バカ」


 ******


 昼間のヴァンパイア戦や銃撃戦、人質爆弾事件など嘘の様に夜のワシントンは平穏を取り戻していた。

 要所要所では連邦警察や地元警察の検問や警備による渋滞が起きてはいる。

 だが、ここワシントンの議事堂やホワイトキャッスルと言われる大統領ハウスが良く見えるホテル街は別だった。

 高級サルーンやスポーツカーなどがホテルの車寄せに着けては、メインベルトの人間達はセンターベルトのボーイにチップを払ってはキーを預ける中、一台の高級スポーツカーが来た。

 しかも連邦製の国産車ではなく、海を隔てた隣国であるアルビオン王国製の高級輸入スポーツカーだからなおのこと人目を惹く。

 ボーイがドアを開けるとガルウィング式のドアが持ち上がり、ドライバーと連れの女性が出て来た。

 漆黒のスーツの裏には淡いブルーのシャツにノーネクタイの若い男性。

 淡いブルーとは対象的な深海の様な蒼い瞳に金髪、周りに居た女性客や男性であるボーイですら心奪われる容姿。

 対する女性も妖艶な雰囲気を醸し出し、長い銀色の長髪を手で靡かせて周りの男性達を魅了する。

 すると直ぐさま奥からホテルの支配人と思われる、高級スーツを来た男性が飛び出して来た。


「いらっしゃいませ、リューゲ様。事前にお知らせくださればスイートを御用意致しましたのに」


 かなりの上客らしいが、リューゲはキーを預けながら、まるでメインベルトの人間とは思えないくらいに低姿勢で言った。


「いや構わないよ。こちらも突然来てしまって申し訳ないくらいだよ、支配人」

「とんでも御座いません。リューゲ様にはいつも贔屓にさせてもらってますので。当ホテルはいつでも歓迎致します。ですが……」


 支配人は言いづらそうにしていたが、リューゲは構わないよという素振りを見せて促す。


「大変申し上げ難いのですが、本日は大統領の主催パーティーが急遽、当ホテルの会場に決まりまして。その……昼間に起きたテロ攻撃が関係しているらしく」

「ああ、昼間のテロ攻撃は私も驚きだったよ。あれは悲惨な事件だったし、犠牲者が多く出て私も酷く心を痛めてる。私達もパーティーに出席して大統領に是非とも援助をしたいくらいだよ」


 援助とは寄付金や献金の事を示すので支配人は直ぐに反応した。


「それは名案で御座いますね。直ぐに招待状を御部屋に御持ち致します。ですが先程申し上げた通り、スイートは政府関係者に押さえられておりますので……」

「あはは。部屋は君に一任するよ。議事堂やホワイトキャッスルが眺められるなら普通の部屋でも私は構わないから」


 相変わらずの低姿勢にお客様はお客様なのだが、何処か普通とは違う雰囲気を纏っているリューゲ。

 支配人はお金を払ってくれれば麻薬カルテルだろうとテロリストだろうと構わないが、初めて出会った時から実業家と名乗るリューゲの言動や低姿勢が長年の勘で逆に怖くなってしまう。


「普通の部屋なんてとんでも御座いません! スイートまでは申し上げませんが、眺めの良い御部屋を御用意致します」

「期待してるよ。部屋が用意されるまでバーで時間を潰してるから」


 ホテルの中に入ろうとすると、高級ホテル街には似つかない車が来た。

 いかにもセンターベルトやアステロイドベルトが使う安い車。

 車が止まると二人の男が出てきた。

 一般人の姿をしているが、リューゲとは違う雰囲気を纏っている。

 支配人が直ぐに追い払おうとしたが、リューゲが制止してやめさせる。


「すまない、彼らは私の友人なんだ。出来れば通してくれないか」

「リューゲ様の御友人ですか……そういう事でしたら」


 支配人は合図を送り、警備員達を遠ざけるとリューゲは手招きして二人を招き入れた。


「やあ、ブライアンにアイマン。無事で良かったよ、ニコは残念だったね」


 ニコの名前を口に出した瞬間、二人の顔が険しくなったのがリューゲには分かった。

 わざとそうなる様に涼しい声で言ったからだ。

 たまらずブライアンがリューゲに掴み掛かかる。


「ふざけてるのかアンタ! 俺達を何だと思ってやがる!!」


 ブライアンの怒りに満ちた叫び声に周りがざわつき、アイマンがブライアンは肩を掴み。


「よせブライアン。ここでは目立ち過ぎる……」


 ここでは目立ち過ぎるという言葉にリューゲはここでなかったら殺しているという意味は分かった。

 だがリューゲは笑顔で躱す。

 まるで死を恐れていないと言わんばかりに。

 殺気をぶつけたのに雲の様に躱すリューゲにブライアンは掴んだシャツを離した。

 リューゲはシャツを直しながら二人に提案する。


「なにやら誤解があるみたいだね。どうかね、もし時間があるならゆっくり部屋で聞こうと思うんだが?」


 相変わらずの余裕にアイマンまでもイラつくのか食ってかかる。


「いいのかよ。部屋なら楽にアンタを殺せるぜ」

「別に私を殺すならそれも構わないよ。だけどいいのかい? 君達の希望を叶えられるのは私と彼女()しかいない。片方でも失えば計画は頓挫する……私としては余り賢い選択とは思えないけど?」


 まるで人を試す様な笑みにアイマンは怒りが込み上げてくるが、ここはぐっと堪える。


「いいだろう。アンタの提案に乗るぜ」

「おい、アイマン!」

「今は我慢しろ! 殺すなら後でも殺せる……そうだろ、リューゲさん」


 アイマンの言葉にリューゲは笑顔で頷いた。


「お好きに。それも一興だし、私は賢い選択をする人間は好きだよ」

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