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エンドレスワルツウォー  私が俺が、あなたの戦争を終わらせる  作者: 冬葉 ハル
第一章 理という名の重力に縛られた者達
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憎悪は新たな憎悪を呼ぶ

 警官の制服を着ているという情報を元に付近の通りをしらみ潰しに警官達は捜索した。

 付近の橋はパトカーにより緊急封鎖され、通りには警官が溢れている。

 だが犯人の情報は一向に入ってこず、シルヴィア達は焦りを感じていた。

 焦りは不安に変わり、もしかしたら犯人は服装を変えて紛れているのかもしれないと。


「不味いよ、シルヴィ。こう警官達が多いと誰が犯人なのか、味方なのか見当がつかないよ」

「分かってる……緊急配備をかけてから時間も経ってないし、地下鉄だって止めてる。だからまだ居るはずよ」


 橋に行く手前の交差点付近で捜索するシルヴィア達。

 付近は封鎖により大渋滞が起きており、下校時間と相まってスクールバスまでも巻き込まれていた。

 橋は警官達が封鎖しており、交差点で渋滞している車列の合間から何か黒い影がシルヴィアは見えた。

 よく見て見ると警官の帽子を被っていたので警官と思ったが違う。

 防弾ベストの背中にPOLICEと書かれていない無地、ライフルを持ったまま捜索に当たる警官は居るが警官に支給されている連邦製のライフルじゃない。

 弾倉が長い曲線を描く形をして、東欧製のライフルに共通するデザイン。

 シルヴィアはクラクションが絶え間なく鳴る車の合間を縫う様に近付いて行き声を掛けた。


「そこの貴方、止まりなさ……っ!?」


 シルヴィアが声を掛けた瞬間、その警官は振り向き様にライフルの銃口を向けた。

 その顔はまだ少年の顔をし、シルヴィアよりも幼い。

 だが目付きは違った。

 シルヴィアやリーナと違う瞳の中に揺らめく炎。

 憎悪を宿した瞳にシルヴィアは一瞬だが怯んでしまう。

 そして乾いた連射音が鳴り響く交差点。

 シルヴィアは直ぐに車の裏に隠れたが、犯人はシルヴィアを追い詰める様に撃ち続けながら歩いて来る。

 アサルトライフルのフルメタルジャケット弾が意図も簡単に車の鉄板やガラスを貫通し、中に居たドライバーを蜂の巣にした。

 フロントガラスやサイドガラスに飛び散る血。

 シルヴィアは迫り来る犯人に対して対角線状に伏せながら逃げる。


「逃げるなクソ野郎! 父さんと母さん、それにアイリスの仇を取ってやるからな!!」


 犯人の……少年の声を初めて聞いたシルヴィア。

 相手が何を言っているのか、この時のシルヴィアには全く分からなかった。

 ただ恐怖心に抗いながら生きたいと思い必死に逃げ続ける。

 やがて弾切れになったのか、少年は弾倉を外しては予備弾倉をセットし始める。

 その瞬間、シルヴィアは立ち上がり叫ぶ。


「武器を捨てて投降しなさい!」


 通りでの銃撃戦やヴァンパイアでの戦いと違い、相手の顔がはっきりと見える。

 訓練用の標的ではなく、生きた的……今を生きる人間に至近距離で銃を向ける。

 少年は弾倉のセットを諦め、太股に装備してある拳銃を引き抜くと、その刹那シルヴィアは引き金を引いた。

 乾いた銃声が一発だけ鳴り響く。

 リボルバーの弾は真っ直ぐと防弾ベストが防御出来ない肩を撃ち抜き、少年の体は車の陰に倒れ込んだ。

 車を乗り捨て逃げ惑う人々を押し退けて近付くシルヴィア。

 トランクの角から覗き込むと少年が体当たりしてきて押し倒されてしまう。

 その隙に少年は肩を撃たれた肩を押さえながら走り出した。


「ま、待ちなさい!!」


 シルヴィアの声に呼応し、リーナや警官達が追いかけ始めたが次の瞬間、皆の足が一斉に止まる。

 撃たれた少年は逃げ遅れたスクールバスの乗客一人を人質に取ったのだ。


「それ以上近付くと煩いガキを殺す! 退かないと爆弾のスイッチを押すぞ!!」


 泣き叫ぶ女の子のこめかみに突き付けられる凶器の拳銃。

 最悪なのは防弾ベストを改造した爆弾付き防弾ベストで、爆弾のスイッチを見せつける様に突き出してきた。

 皆が一斉に銃を構える中、シルヴィアも銃を構えながらゆっくりと近付く。


「早まらないで、私はあなたを助けたいの。周りを見てみなさい。その子を殺したらあなたがスイッチを押す前に銃弾が頭を撃ち抜くわ」


 シルヴィアが近付くと銃口を女の子に強く押し付けるので歩みを止める。

 リーナがシルヴィアに合図を送っていたので合図の先を見て見ると近くの屋上から狙撃銃を構える警官が見えた。

 直ぐにシルヴィアは小さく首を振る。

 狙撃の警官は少年の真横に位置しており、このまま対角線に撃つとライフルの銃弾が女の子まで貫通してしまうからだ。


「助ける? アンタ頭の中にウジ虫でも湧いてんのか!? あの時必死に助けを求めたのに助けなかった奴らの言葉が信用出来るか! それにメインベルトの連中を殺したんだ、そいつらが生かしておく訳がないだろ!」

「あなたの安全は私が保証するわ! ウィンチェスターの名に掛けて必ず!」


 ウィンチェスターの名前を聞いて一瞬だが銃口の圧力が弱まる。

 連邦の御三家なら信用してくれると思ったシルヴィアだったが、現実は違う。

 少年は薄ら笑いをしながら高笑いに変わっていく。


「アハハッ!! アンタ、ウィンチェスターの人間か……連邦の御三家に会えるとわな。俺の両親と妹を殺し、姉さんや俺から幸せを奪った奴らの親玉を道連れに出来るなら本望だ!!」

「ま、待って!!」


 次の瞬間シルヴィアは爆発に巻き込まれて死ぬと思い銃の引き金を引く刹那、遅れて聴こえてくる銃声に脳を飛び散らせながら倒れ込む少年。

 飛び散る血はシルヴィアや隣にいた女の子に掛かってはシルヴィアは直ぐに女の子を抱き抱えながら地面に伏せた。

 シルヴィアの蒼い瞳と少年の瞳が互いを見ている。

 少年の瞳孔は完全に拡大しており、死んでいるのが直ぐに分かった。

 だけど瞳に宿した憎悪の炎は消えておらず、真っ直ぐとシルヴィアを見て離さない。


「大丈夫……お姉ちゃん?」


 震える声の方を見て見ると女の子がシルヴィアを見ていた。

 制服を震えながら掴むその手にシルヴィアも手を添える。


「大丈夫よ。あなたは大丈夫? ケガとかしてない?」

「うん……お姉ちゃん、助けてくれてありがとう」


 助けてくれてありがとう。


 その言葉を聞いた瞬間、シルヴィアの蒼い瞳は熱くなる。

 泣きながら『ありがとう』と言う女の子の顔が、助けられなかったメイヤの顔に重なって見え、一つ肩の荷が下りた様な気がしたからだ。


 ******


 女の子を医療班に預けるとシルヴィアの肩をリーナが叩く。


「やったじゃない、シルヴィ! 見事に解決して。流石は選抜射手、まぁ至近距離だったけど見事に撃ち抜くなんて」

「……じゃない」

「え?」


 サイレンの音が通過していき上手く聞き取れなかったのか、リーナは聞き返してしまう。


「撃ったのは私じゃないわ……」

「何言ってるの? 私見たよ、シルヴィが撃ったところを……」

「私は引き金を引けなかったわ、ほら……」


 シルヴィアがホルスターからリボルバーを引き抜き、回転式弾倉から手のひらに弾を落としてはリーナに見せた。

 6発の内5発に弾頭が付いている。


「嘘でしょ!? じゃあ誰が……」

「分からないわ。警官のスナイパーにしては銃声が当たった後から聞こえたから、かなりの長距離から狙撃されたとしか思えない」


 あの瞬間に立っていた所からシルヴィアが見つめる先にはビルがある。

 遮る物が無く、直線的に狙える格好の狙撃場所。


「たぶんアソコからね。高い所からなら弾道計算も楽だし、今日は戦勝記念日だから街に旗が溢れてる。風の計算もし易いわ」

「アソコから狙撃って……軽く見詰もっても距離が3〇〇〇はあるし、そんな長距離射撃が出来る人間なんていないよ」

「世界に三人いるわ。その内の二人は東欧と西欧にいる軍と傭兵の狙撃手」

「……最後の一人は?」


 リーナの言葉にシルヴィアは俯きながら寂しそうな声で。


「ミカエラ・ウィンチェスター……私の兄さんよ」

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