新年早々「赤い」雪
開戦した年が終わり、新年へと突入した。
一月一日、新年早々の朝テニーニャの後方の中継基地でグラーファルにボルタージュから連絡が入ってきた。
新しい年の朝が世界にやってきたが、特に何ら変わったことはない。
だがシッパーテロの後方の中継基地では朝っぱらから少し騒がしかった。
グラーファルはまだ兵舎で寝ていたが、フロント中佐に起こされて目が覚めた。
「起きたまえ、グラーファル」
「…あぁ…挨拶がまだだったな。
『明けましておめでとう』これで満足か?」
「何寝ぼけたこと言っているんだ、すぐ起きろ。
大統領が語気を荒立てて電話してきた、…ったく朝からうるさい大統領だ」
だが、グラーファルは一向にベッドから降りようとはしない。
中佐が早く出ろと諭すが。
「新年早々が一番寒い、だから冬の朝は嫌いなんだ、お前が私に伝言しろ」
「…ったく、仕方ないな」
中佐が部屋から出て、兵舎の事務室に入り、そこで受話器を持って待っていた兵士の元へ来る。
「待たせたな、グラーファルはまだ寝ている、私が代わる」
兵士から受話器を受け取ると電話の向こうから何やら慌ただしい声が聞こえてきた。
紛れもない大統領の声だ。
「どうしたのかね」
「…おいっ!お前グラーファルじゃないなっ!フロントじゃないかっ!!俺はお前を呼んでないっ!さっさと代われっ!まさか寝てるのかっ!グラーファルは寝ているのかっ!さっさと代われーーっ!!俺はお前に用はないィーーーっ!!」
すると立て続けに襲ってきたストレスにプッツンしたフロントが怒号を飛ばした。
「うるせぇーーーぞクソガキっ!!!誰に口聞いてるんだゴルァっ!!こちとら新年早々ストレス三昧で気が狂いそうなんだよ畜生っーーっ!!!要件を言えっーーーっ!!私の血管が切れる前になぁぁーーーーっ!!!!」
すると静まり帰った事務室の中でフロント中佐はスンといつもの口調に戻る。
「…それでなんの電話ですか大統領」
「…あ…あぁそれだが、実は結構まずい事態になっている。
この前グラーファルの部下が抗議活動を行っていた共産主義や市民を弾圧したんだがそれで終わりじゃなかった。
革命結社『美しい国同盟』の連中が徒党を組んで首都で暴れ始めた、本格的な暴力革命なんだ、警察も軍も手に負えない、常駐していた人間たちの音楽隊だけでは抑えきれないんだ。
だから撤回する、督戦隊を回収する、すぐにでも全身隊員を首都に集めるよう言ってくれ、グラーファルにも戻るよう伝えるんだ、頼んだぞっ!」
そう言うと大統領は一方的に電話を切ってしまった。
中佐も受話器を戻して事務室を出ていく。
「共産主義革命結社『美しい国同盟』
この国を社会主義経済体制の社会主義共和国へと変えるための革命を目指す団体。
厄介なことになったぞ、心配はいらないとは思うが万が一大統領が殺されでしたらまずい、政権掌握とまでは行かなくとも力を与えてしまうことは必須、なるべく早いうちに鎮圧しなければ戦争にも影響する」
そんな独り言を言いながら廊下を歩く中佐。
まだ寝ているグラーファルをゆすり起こして伝言を伝えた。
「グラーファル、大変だ、すぐにボルタージュへ向え。
アカ共が狂乱しだした、暴動だ。
すぐに弾圧しろと大統領から命令が入ったのだ。
だから起きろっ!グラーファルっ!」
その呼びかけを聞いてゆっくりと起き上がった。
毛布をどけ、脚を床につける。
「…なるほど、共産には古血の赤がお誂え向きと言うことだ。
私の人生はこの国から劣等人種と穢多思想を根絶してようやく始まる。
今すぐ列車を用意するんだ。
そしてまずは感涙しろ、話はそれからだ」
グラーファルの右手には既にエクセキューショナーズソードが怪しく新年の朝日に反射して光っていた。
こうしてグラーファルは首都で暴れている共産主義者と戦うことを決意したのだ。
黒い軍服の部下たちを率いて中継基地の貨車に乗り込みとすぐに列車は首都へ向かった。
フロントはそれをしばらく見送った後、スタスタと司令部に戻っていった。
塹壕の新年の朝は眩しかった。
リグニンは硬い床からゆっくり起き上がると数回背伸びをしたあと退避壕の小さい出口から外へ出る。
「腐った肉と汚物の臭い、下水のドブネズミのようなウチら、腹立つほど澄み渡った青い青い空、
あぁ、『いつもどおり』ね。
新年になってもなにも変わらない、いつもどおりの平穏だ」
新年の昇っていく朝日を塹壕から眺めながらそんなことを呟いた。
すると次々とエロイスたちも穴から出てきた。
「うわ〜朝日きれい、ハッピーニューイヤーなんね」
四人が通路の溝から太陽を眺めそれぞれ願いを言い合った。
「私、今年中に戦争が終わることを望むわ」
エロイスはそう言った。
「ウチは早く塹壕から出たい、突撃命令ももはや待ち遠しくなった」
リグニンはそう言った。
「テニーニャに勝利が訪れますように」
エッジはそう言った。
「…エロイスとずっと一緒にいたい…」
ドレミーは少し小さな声でそう言った。
それぞれの想いを告げると、少し汚れた顔を照らしてくれる眩い光に対面したのだった。
そんな新年の朝を明け、昼辺り和ろうかとしていたボルタージュの駅についたグラーファル一向。
部下たちには黒鉄に光る軽機関銃を携えさせていた。
そして部下たちを率いて構内を移動し、駅から出ると、そこは世紀末のような荒れた通りだった。
建物に火が放たれ灰が深雪の様に舞う。
撲殺されたかのような遺体があちこちに無様に点在している。
そしてそんな駅から出てきたグラーファルたちを待ち受けていたのは徒党を組んだ共産主義者たちだった。
着剣した歩兵銃を持ち、市民服のまま人間たちの音楽隊と対峙したのだ。
グラーファルはそんな群衆に向かって少しずつ歩いていった。
「お前たちはロディーヤ人と同じ便器に落ちて溺れかけているクソ程の価値もない害虫共だ。
お前たちはこの国の将来を拒んでいる、赤いのは思想だけか?その血は何色だ?」
そしてマントをひらりとたなびかせるといつの間にかエクセキューショナーズソードが握られていた。
中世の処刑人が使う首を落とすためだけの処刑人の剣を。
「お前ら仲良く王道楽土で往ね。
そして墜ちろ。
地獄の底に頭蓋を散らせるように死にやがれ」
グラーファルがそう言った瞬間、民衆たちはグラーめがけて発砲しながら突撃してきた。
グラーファルはその剣で身を守るように横にして刃で銃弾を弾くと後ろの部下たちのけたたましい軽機関銃の弾幕が共産主義者たちを襲った。
逃げるまもなく辺りに肉と臓器、そして大量の血液で海を作りながら失せていった。
「駅前は掃討、次に行くぞ。
私を見て逃げるやつは向かうやつは全員売国奴だ」
グラーファルが軽機関銃を持った黒い軍服を着た恐ろしい部下たち率いて首都を練り歩き始める。
ボルタージュに到着したグラーファルは『赤い雪作戦』を決行しながら射殺して回り始めるのだった。




